急性虫垂炎(盲腸・アッペ)を散らすとはどんな治療?抗生物質(抗生剤、抗菌薬)について
急性虫垂炎に対して手術を行うことが多いですが、
目次
1. 急性虫垂炎は抗生物質で治る?抗生物質の種類は?
急性虫垂炎に対しては手術を行うことが基本になります。感染を起こしている虫垂を切除して感染源を排除することが目的です。一方で、抗生物質(抗菌薬、抗生剤)を用いた治療も有力です。俗に「散らす」と呼ばれるもので、抗生物質が感染を抑えることを期待した治療です。
手術と抗生物質を用いた治療にはメリットとデメリットがあります。これを踏まえて今の状況にどちらが適しているのかを判断します。
【急性虫垂炎に対する手術と抗生物質治療の比較】
手術 | 抗生物質による治療 | |
メリット |
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デメリット |
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例えば、虫垂炎が進行しているため、虫垂が腫れ上がり破裂するリスクがあると考えられる場合には手術を選ぶことになりますし、入院することができない状況の場合には軽症の急性虫垂炎であれば飲み薬の抗生物質を用いて治療することも可能です。
大腸菌 - バクテロイデス属
- プレボテラ属
- ペプトストレプトコッカス属
- エンテロバクター属
- バイロフィラ属
- 緑色レンサ球菌(ビリダンスグループ)
参考文献:Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
これらが急性虫垂炎の原因となる主な細菌です。また、件数は少ないですが、
急性虫垂炎に対して手術を行わない場合は、これらの細菌に有効と考えられる抗生物質を用いることが大切です。以下が治療に用いられる抗生物質の例です。
- 点滴薬
- セフメタゾール
- セフトリアキソン+メトロニダゾール
- アンピシリン・スルバクタム
- ピペラシリン・タゾバクタム
- 経口薬(飲み薬)
- アモキシシリン・クラブラン酸
- レボフロキサシン+メトロニダゾール
- シプロフロキサシン+メトロニダゾール
抗生物質は経口薬よりも点滴薬のほうが効果が高いです。そのため症状が強い場合には点滴薬を使用する必要があります。点滴薬を使用する場合には入院が必要になりますので、社会的な背景(仕事や大事な予定など)を考慮しなくてはなりません。重症の場合には手術を選んでも抗生物質治療を選んでも、入院を回避することは難しいです。
また、手術を行うことになっても手術前後に抗生物質を用います。明らかに合併症(虫垂の破裂、膿瘍の形成、
小児の抗生剤治療は?
子どもが急性虫垂炎になった場合には、大人の急性虫垂炎の場合と同じく手術か抗生物質治療を行います。
上に例示した抗生物質の中でも、レボフロキサシンやシプロフロキサシン以外が子どもには良いとされます。レボフロキサシンなどの一部のニューキノロン系抗生物質は子どもにけいれんを起こしやすいことが懸念されており、避けるほうが無難です。どうしても他の抗菌薬を使用できない場合には、主治医と使用の要否について相談する必要があります。
また、子どもに対する投与量は、一定量ではなく体重あたりで変動します。必ず投与量を確認するようにして下さい。投与量の例を次に示します。
- セフメタゾール
- 1回に体重1kgあたり25mgの投与量を1日に4回
- セフトリアキソン
- 体重1kgあたり60mgの投与量を1日に1回(重症の場合には同量を1日2回投与することもできる)
- 新生児の場合には投与量が体重1kgあたり20mgとなるが、小児科専門医が判断することが望ましい
- メトロニダゾール
- 体重1kgあたり約12-16mgの投与量を1日に3回
- アンピシリン・スルバクタム
- 体重1kgあたり25-75mgの投与量を1日に4回
- ピペラシリン・タゾバクタム
- 体重1kgあたり75mgの投与量を1日に4回
- アモキシシリン・クラブラン酸(14:1配合剤)
- 体重1kgあたり45mgの投与量を1日に2回
参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・SANFORD GUIDE(熱病)
妊娠中の抗生剤治療は?
上に記載した抗生物質の中でレボフロキサシンやシプロフロキサシンなどのニューキノロン系抗生物質以外であれば妊婦に使用可能です。ニューキノロン系抗生物質を妊婦に対して使用することは避けるべきと考えられています。一方で、他に代替薬がない場合には抗菌薬を継続するメリットとデメリットを鑑みて判断することができます。
また、自分の妊娠に気づかないうちにうっかり飲んでしまうこともありえますので、特に妊娠希望のある方は気をつけなくてはなりません。とはいえ、実はニューキノロン系抗生物質は妊娠に気づかなくてうっかり飲んだ場合には胎児にほとんど影響がないと言われています。妊娠がわかったときにニューキノロン系抗菌薬を飲んでいる場合は、落ち着いて産婦人科医あるいは抗菌薬を処方した医師に相談して下さい。
参考文献:日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会/編, 産婦人科
2. 急性虫垂炎は抗生物質でどれくらい治る?
合併症をもたない急性虫垂炎は抗生物質による治療も有力な選択肢です。合併症とは虫垂に穴があいていたり
合併症のない急性虫垂炎のうち約70%の人は抗生物質を使って根治することができます。一方で約30%の人は抗生物質の効果が弱く治療が不成功となり手術が必要になります。
参考文献:World J Surg. 2010;34:199-209.
3. 急性虫垂炎を抗生物質で治療した後はどれくらい再発する?
急性虫垂炎が再発すると腹痛などの症状が現れます。抗生物質による治療後の再発率はどのくらいなのでしょうか。
過去の報告によると5-38%の確率で再発が起るとされています。再発した場合は腹痛などの症状が現れ再び手術か抗生物質による治療が必要になります。
この再発率を高いと感じるか低いと感じるかは一人ひとりの考え方により異なると思いますが、治療法を選ぶ際にはここで示した再発率なども判断材料にしてみてください。
参考文献
・Radiology. 2000;215:349-52.
・Br J Surg. 1995;82:166-9.
・Arch Surg.2005;140:897-901
・World J Surg. 2006;30:1033-7
・J Pediatr Surg. 2007 Sep;42:1500-3.
4. 急性虫垂炎を抗生物質で治療した後に再発したらどんな治療ができる?
急性虫垂炎が再発した場合、最初の治療と同様に手術か抗生物質による治療を選ぶことになります。急性虫垂炎が再発した場合の治療はデータが少ないので手術と抗生物質の優劣をつけることは難しくその状況により適切な治療法も変わります。
例えば再発したとき虫垂に穴があいているまたは穴が開く可能性が高い場合には基本的に手術を勧められることが多いと思います。一方で前回と同様に軽症であれば手術をしなくとも治る見込みがあると言われるかもしれません。この場合は手術と抗生物質のどちらでも選ぶことができます。
再発したときの治療の選択は初回の治療のとき以上に難しいです。治療法に迷うときにはそれぞれの治療のメリット・デメリットをもう一度確認して、医師としっかり相談した上で選ぶことが大事です。
5.急性虫垂炎を抗生物質で治療した後の日常生活の注意点
急性虫垂炎を薬で散らした後には食事などに気を配りできるだけ腸に負担をかけないようにすることを心がけましょう。
急性虫垂炎を抗生物質で治療するときには同時に食事を一度中止することがあります。食事を中止する狙いは腸管を休めることにあります。虫垂は腸の一部なので
食事の量は腹八分目がよいでしょう。少なくとも誰がみても暴飲暴食というような食生活を続けることはお勧めしません。また便秘にも気を付けたほうがいいと思います。便秘がちになると腸への負担は大きくなります。便秘をさけるには規則正しい生活や適度な運動、食物線維の摂取などを意識してください。