注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療について:心理社会的療法、薬物療法
ADHDの治療には心理社会的療法、薬物療法があります。心理社会的療法としてはペアレントトレーニングや周囲の環境調整があります。薬物療法で使う薬としては、コンサータ®︎、ストラテラ®︎、インチュニブ®︎、ビバンセ®︎があります。
1. 注意欠陥・多動性障害ADHDの治療について
ADHDは注意力の低下や多動、衝動を抑えられないことによって社会生活が困難になる病気です。ADHDでは周囲の環境を調整することで治療を行う心理社会的療法が重要です。
またADHDには有効な薬物療法もあります。近年、新しい薬物がいくつか登場してきており、治療の選択肢も広がっています。ADHDの治療は心理社会的療法と薬物療法を組み合わせて行われます。以下ではADHDでそれぞれについてくわしく説明してきます。
2. 心理社会的療法とは
心理社会的療法は症状を悪くする要因を取り除いたり、ADHDがあっても人間関係や生活がうまくいくよう環境を整える治療法です。年齢ごとに周りの環境は変化していくため、心理社会的療法の内容も変わってきます。ここでは、幼少期、思春期、大人にわけて紹介していきます。
3. 幼少期の心理社会的療法
幼少期に行う心理社会療法としてはペアレントトレーニングがあります。ペアレント(Parent)は英語で親という意味です。ペアレントトレーニングは親が子どもの行動や考えのパターンを理解し、ほめかた、環境調整、問題行動に対する対応を学ぶ方法です。ADHD本人に行うわけではありませんが、子どもと接する親の態度が変わることでADHDの子どもにポジティブな影響を与えることができます。ADHDで活用されるペアレントトレーニングには以下のものがあります。
- トークンエコノミー法
- スペシャルタイム
- タイムアウト法
以下で詳しく説明していきます。
トークンエコノミー法
トークンエコノミー法は望ましい行動をとった時に褒めてごほうびをあげる方法です。具体的には正しい行動をした時にシールやスタンプをあげて、いくつか集まったら子どもの欲しいものと交換できるというルールを設けます。例えば、食事の時にちゃんと座ることができた時に、シールを渡します。シールが5枚集まった時には好きなおもちゃを買ってあげるなどといった方法があります。
スペシャルタイム
スペシャルタイムでは子どもを褒める時間を作ります。1日1回、15分から20分程度の時間、子どもと二人きりで遊ぶ時間を設け、その時間は子どもを注意せず、小さなことでも褒めてあげるようにします。遊びの内容はなんでも構いませんが、トランプやお絵かきなど、親子でやりとりができるものがお勧めです。
トークンエコノミー法・スペシャルタイムに限らず、正しいことができた時に褒めてあげるということはADHDの治療において非常に重要です。できていることに着目することで、親は子どもの行動への理解がしやすくなります。また、子どもにとっても「こうしたら褒めてもらえる=正しいことをする」ということにつながり、親子関係が褒める、褒められるということで好循環に向かっていきます。
とはいえ、これらを実行するのは簡単なことではありません。なかなか効果が感じられず辛い気持ちになったり、褒めてあげたくても親の心がついていかないこともあるかもしれません。家族だけで抱え込まず、発達障害者支援センターやお医者さんなどのサポートを得ながら、少しずつでも取り入れる方法を探ってみてください。
タイムアウト法
タイムアウト法は逆に望ましくない行動をしたときの対応です。具体的には望ましくない行動をとった時に別の場所に移動するようにします。子どもがかんしゃくを起こした時には、周りにそれを強める要因があることがあり、そこから引き離し落ち着かせることを目的もあります。タイムアウト法の流れは以下の通りです。
- 不適切な行動をとったことを説明する
- テレビやおもちゃがない別の部屋に移動させる(暴れることを防ぐため)
- タイムアウト法を行う時は、感情を表さずになるべく淡々と行う
ただし、親子関係が良好でないうちは、かえって悪化してしまうこともあるので、お医者さんとも相談しながら行うようにしてください。
4. 思春期の心理社会的療法
思春期は心にも身体にも大きな変化が起こる時期です。変化に伴って「自分はこのまま良いのか」と悩むことも多いです。この時期は心身のバランスが崩れやすい時期でもあり、友人関係で問題を抱えることがあります。非行や不登校、ひきこもりなどの行動に繋がることもあります。
ADHDの子どもにも思春期はやってきます。思春期に自信を持って進んでいくためには、幼少期にポジティブな経験を積んでおく必要があります。ADHDは注意力の低下からミスを経験し自信をなくしやすいです。幼少期にたくさん褒めてもらっているという経験をしていることは、思春期の難しい時期を過ごすうえでも非常に重要です。
思春期になると自分自身でもいろいろな物ごとを考えることができるようになります。そのため、自らの弱点を正しく把握し、それを補うためにはどうしたら良いかを意識すること大切です。具体的には、認知発達機能検査を行い、どのようなことが苦手なのかを理解し、どのような工夫をすれば対応できるかお父さん・お母さんとともに考えていく、などが挙げられます。
5. 大人の心理社会的療法
大人になると、さらに周囲の環境はより複雑になります。仕事や家事、子育てなどをする必要も出てきます。大人のADHDの心理社会療法においてまず大事なことは、本人がADHDの特性を理解したうえで、生活や仕事上の工夫を行えるようサポートすることです。また就職をしていれば職場の人に、結婚をしていればパートナーにもADHDについて理解してもらう必要があります。
職場の環境調整は大人の心理社会的療法を行ううえで重要です。職場の環境調整の具体例としては以下のものがあります。
- 気が散りそうなものをおかないようにしてもらう
- 指示は順を追って一つずつ行ってもらう
- 毎日のスケジュールを確認してくれる人をつける
- 理解ある上司や同僚を配置してもらう
会社には産業医といって専属のお医者さんがいます。もし、職場の環境調整について困ることがあれば、産業医と相談してみてください。
6. ADHDの薬物治療
ADHDの治療薬には以下の4種類があります。
ADHDの治療薬は集中力を高めたり、落ち着きのなさを改善することができます。ADHDのお薬は長期間、飲み続けなければならないことが多いです。ただし、大人になりADHDの症状が落ち着いてきた場合には、薬を中止できることがあります。以下でそれぞれの薬について詳しく説明していきます。
コンサータ®︎
コンサータ®️は脳内の
他の副作用としては胃腸障害、食欲低下、
コンサータ®️はメチルフェニデートという成分でできています。メチルフェニデート自体は依存性がある物質として知られています。コンサータ®️は依存になりにくいように改良はされているものの、特定の資格を持ったお医者さんしか処方できないようになっています。6才以上の人にしか使用することができません。
ストラテラ®
ストラテラ®は神経細胞でのノルアドレナリンの取り込みに作用する薬です。1日2回で内服する薬です。コンサータ®️は効果の持続時間が12時間であったのに対し、ストラテラは1日中効果が持続する薬です。不眠の副作用もないので、夜も効果を持続させたい人に使われることがあります。またコンサータ®️のように興奮を強める作用はないので、不安や緊張が強い人にも使いやすいです。
一方で、効果が出るのに少し時間がかかります。早い人で2週間程度、遅い人だと2ヶ月程度です。副作用としては吐き気、食欲低下、動悸、
インチュニブ®
インチュニブ®は神経にあるアドレナリンの受け取り場所(アドレナリン受容体)に作用する薬です。1日1回で内服します。他のADHDの治療薬の副作用に食欲低下がありますが、インチュニブ®は食欲低下が起こりにくいのが特徴です。またインチュニブにも興奮を強める作用はないので、不安や緊張が強い人にも使いやすいです。
インチュニブ®は飲み始めて効果が出るのが1-2週間程度です。コンサータ®より効きが遅いですが、ストラテラ®︎よりも効きが早いです。
副作用としては傾眠(眠くなること)、血圧低下、めまい、頭痛などがあります。6才以上の人にしか使用することができません。
ビバンセ®︎
ビバンセ®︎は2019年12月に発売した新しい薬です。コンサータ®︎と同様、脳内の神経伝達物質であるドパミン、ノルアドレナリンを増やす作用があります。アンフェタミンという依存性のある物質が成分ですが、プロドラッグテクノロジーという新しい技術を用いて、依存になりにくいような工夫がされています。
ビバンセ®︎は1日1回で内服する薬です。飲み始めてその日のうちに効果が出る点、副作用として不眠、胃腸障害、食欲低下、動悸がある点、強い緊張がある人、心臓に病気がある人、甲状腺機能亢進症がある人などには使わない点もコンサータ®︎と同様です。
また、ビバンセ®︎も特定の資格を持ったお医者さんしか処方できないようになっています。また大人に使うことができず、6才から18才までの人しか使用することができません。
ADHDの薬についてまとめると以下のようになります。
コンサータ®︎ | ストラテラ®︎ | インチュニブ®︎ | ビバンセ®︎ | |
薬を使える年齢 | 6才以上 | 6才以上 | 6才以上 | 6才から18才 |
飲み方 | 1日1回 | 1日2回 | 1日1回 | 1日1回 |
効果が出るまでの時間 | 早い(その日のうち) | 遅い(2-8週間) | すこし遅い(1-2週間) | 早い(その日のうち) |
効果の持続時間 | 半日 | 1日中 | 1日中 | 半日 |
副作用 | 不眠、胃腸障害、食欲低下、動悸 | 吐き気、食欲低下、動悸、傾眠 | 傾眠、血圧低下、めまい、頭痛 | 不眠、胃腸障害、食欲低下、動悸 |
薬の特徴 |
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お医者さんはADHDの状態や体質によりどのお薬にするかを選択します。気になることがあれば、担当のお医者さんに遠慮なく相談してみてください。