睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療について:CPAP、マウスピース、手術など
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まってしまう病気です。肥満が原因となることが多いため、減量など生活習慣の改善が大事です。医療機関では軽度から中等度の人ではマウスピース、中等度から重度の人ではCPAPという機器が治療の中心となります。ここでは、睡眠時無呼吸症候群の治療について解説します。
1. 減量(生活習慣の改善)
睡眠時無呼吸症候群の多くは、寝ている間に喉の空気の通り道(気道)が塞がってしまうことによるものです(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)。気道が塞がる要因には様々なものがありますが、最も影響を及ぼすのが肥満です。喉や首回りの脂肪が多いと、寝ているときに空気の通り道が圧迫されてしまいます。
そのため、睡眠時無呼吸症候群で困っている肥満の人は、他の治療を受けると同時にダイエットにも取り組むことが有効です。
その他、寝る前の飲酒や、喫煙習慣、仰向けに寝ることなども睡眠時無呼吸の要因となりえます。それぞれ下記のように対策をとることで、無呼吸を緩和できると考えられます。
【症状緩和のため取り入れると良い対策】
- 寝酒を控える
- 禁煙する
- 横向きに寝る
2. マウスピース
軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群の人ではマウスピースによる治療が中心となります。ここでの「軽度から中等度」とは、睡眠1時間あたりに10秒以上呼吸が止まる・あるいは止まりかける回数(AHI)が5-20回くらいの人を指します。
睡眠時無呼吸症候群で使われるマウスピースのことを、専門的には「口腔内装置」と呼びます。英語で「oral appliance」と言うので、略してOA(オーエー)とも呼ばれます。
OAを装着しておくと、下顎が少し前に出ることで気道が広がり、寝るときに気道が狭くなるのを防ぐ効果があります。
しかし、AHIが20を超える人ではOAによる治療では不十分なことが多いです。そのような人では、次に説明するCPAPが治療の主役となります。
OAの副作用としては、歯や歯肉の痛み・違和感、かみ合わせの悪化などがあります。
費用
OAを作成する費用は、
OAは歯医者さんで作成します。お医者さんが
3. CPAP(シーパップ)治療
中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群の人では、CPAPという機器が治療の中心となります。ここでの「中等度から重度」とは、睡眠1時間あたりに10秒以上呼吸が止まる・あるいは止まりかける回数(AHI)が20回以上くらいの人を指します。
CPAPは小型の人工呼吸器です。装着したまま寝ることで、鼻や口から空気を吸うサポートをして無呼吸を防いでくれます。CPAPというのは、英語での「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字をとったものです。
【よくあるトラブル】
- 機械から送られる空気が気になって眠れない
- マスクで顔の皮膚がかぶれる
- 鼻や喉が乾燥する など
【対処法】
- 一人ひとりに合うようマスクや空気圧を調整する
- 加湿器を利用する など
使い始めは違和感があるかもしれませんが、次第に慣れてくることが多いです。お医者さんや医療スタッフと相談しながら、気長に使い続けることが重要と言えます。
なお、CPAPは睡眠時無呼吸症候群そのものを完治させる機器ではありません。装着しないで寝ると、治療前と同じように睡眠中の無呼吸が発生してしまいます。そのため、CPAP治療と並行してダイエットなどの生活習慣改善も併せて行ってください。
費用
CPAPの治療には、自己負担3割の人で月5千円ほどの費用がかかります。
【毎月かかる費用の内訳】
- CPAPのレンタル料
- 月1回の受診料
*いずれも保険適用となります
CPAPによる治療を受ける人は原則として月に1回は医療機関に通う必要があります。また、CPAPの機器は保険適用でレンタルされ、機器の使用料やサポート料がかかります。通院間隔は今後のオンライン診療の普及などにより変わってくるかもしれません。
4. ASV(エーエスブイ)治療
ASVとは英語の「Adaptive servo-ventilation」の略です。細かい原理は割愛しますが、ASVはCPAPよりも本格的に呼吸をサポートしてくれる機器による治療です。
この治療は「中枢性睡眠時無呼吸症候群」という比較的珍しいタイプの睡眠時無呼吸症候群で使われることがあります。この病気は、寝ている間に呼吸をしようとする命令が脳から正しく出ないタイプです。心臓の病気(心房細動、心不全など)や脳の病気(脳卒中など)がある人で
中枢性睡眠時無呼吸症候群の人でも、まずはCPAPによる治療が基本となります。しかし、CPAPではなかなか無呼吸を防げないこともあります。このようにCPAPを使用していても、AHIが15未満にならないような人でASVによる治療が検討されます。
5. 酸素療法
中枢性睡眠時無呼吸症候群の人では、寝ている間に鼻から酸素を吸入する治療を行うこともあります。これはCPAPやASVとは異なり、機械が呼吸のサポートをしてくれるものではなく、鼻に酸素が流れてくるだけの治療です。
本来はCPAPやASVのような呼吸を補助してくれる治療のほうが有効と考えられますが、空気を押し込まれることや、マスクそのものが気になって使い続けるのが難しい人もいます。そのような人で酸素療法が行われることがあります。
酸素療法を行う人は、空気から酸素を濃縮する機械を自宅に設置してもらう必要があります。機械はお医者さんからの指示があれば、業者からレンタルできます。
6. ナステント®
睡眠時無呼吸症候群の人の多くは、寝ている間に気道が塞がることで症状が出ます。そこで、鼻からシリコン製のチューブを挿入し、空気の通り道を作って寝る方法があります。このチューブはナ
ナステント®は基本的に、CPAPが必要とならない軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群の人が使うものです。通販などを使って自身で購入します。使い捨てであり、費用は1本500円ほどです。
購入に際してはサイズや硬さ、左右どちらに使うか、などを記したお医者さんによる指示書が必要となります。ナステントの指示書はどの医療機関でも書いてもらえるようなものではないので、睡眠時無呼吸症候群の検査をした医療機関で相談するのが良いと考えられます。
7. 手術
気道の狭さが睡眠時無呼吸症候群の原因と考えられる人では、気道を広げる手術が行われることもあります。
手術には大きく分けて2種類あります。一つは鼻や
手術の有効性が近年多く報告されていますが、手術は身体に負担が大きいものであることは間違いありません。また、長期的にみると睡眠時無呼吸が再発する可能性も懸念されています。
したがって、AHIが20以上くらいで、扁桃腺が特に大きいなど特殊な事情があれば手術も考慮されるものの、基本的にはCPAPによる治療が優先されます。
参考文献
日本呼吸器学会/厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」班/監修, 「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の