すいみんじむこきゅうしょうこうぐん(さす)
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠中に一時的に呼吸が止まってしまう病気
23人の医師がチェック 209回の改訂 最終更新: 2023.09.12

睡眠時無呼吸症候群(SAS)で知っておきたいこと:生活の注意点、診療科など

睡眠時無呼吸症候群では、いびきや日中の眠気などの症状が出るとともに、身体に様々な悪影響が出てきます。ここでは生活の注意点や、受診する医療機関など、睡眠時無呼吸症候群について知っておくと役立つことを解説します。

*以下では睡眠時無呼吸症候群を「SAS:サス」(Sleep Apnea Syndrome)と一部で表記しています

1. 睡眠時無呼吸症候群は治療したほうがよいのか

SASは睡眠中に呼吸が止まる、あるいは止まりかける病気です。いびきや日中の眠気などで困って医療機関を受診する人もいますが、あまり自覚症状がなく困っていない人も少なくありません。

しかし、睡眠中に酸欠になる影響で身体に大きな負担がかかります。実際、SASは高血圧、糖尿病心不全脳卒中などのリスクを高めることが分かっています。また日中の眠気を放置すると、注意力の低下や居眠りにより事故につながる恐れがあります。

以下に挙げる症状に心当たりがある人は、放置しないで医療機関に相談することを強くお勧めします。

【SASの主な症状】

  • いびき
  • 日中の過度の眠気、疲労感
  • 睡眠中の窒息感、あえぎ呼吸
  • 睡眠中の呼吸停止
  • 起床時の頭痛
  • 起床時の喉の乾き
  • 不眠 など

SASの精密検査にはやや特殊な設備が必要であり、対応できる医療機関は限られています。受診の際には事前に電話などで、検査に対応しているか確認してから受診すると良いと思います。

2. 女性も睡眠時無呼吸症候群になるのか

SASは男性に多い病気ですが、閉経後くらいの年齢では女性が発症することもよくあります。1時間あたり10秒以上呼吸が止まる、あるいは止まりかける回数「AHI(エーエイチアイ)」が5以上の人ではSASが疑われます。このAHIが15以上の人、つまり中等度以上のSASの人が、50代男性では10-20%前後、50代女性では10%弱と言われています。

また、閉経前の女性では1.5%の人が、閉経後では9.5%の人が中等度以上のSASであったというデータもあります。このように、女性は男性よりもSASになりにくいものの、閉経後くらいの年齢になると決して珍しくはないと言えます。

3. 睡眠時無呼吸症候群は何科を受診すればよいのか

呼吸器内科や耳鼻科などがSASを主に専門としています。他にも循環器内科、神経内科、老年病科、脳神経外科、精神科など様々な科で診療していることがあります。

SASの精密検査(ポリソムノグラフィー)にはやや特殊な検査体制を要し、1泊入院になることが多いです。呼吸器内科や耳鼻科でも検査に対応していない医療機関は多くあります。したがって受診の際には、SASの診療に対応しているか電話やインターネットで確認してから受診してください。SASの診療に特化した医療機関もあるので、そうした医療機関を探すのも良いと考えられます。

4. 睡眠時無呼吸症候群はCPAP(シーパップ)で治るのか

SASは残念ながら、CPAP(シーパップ)やマウスピースなどの一般的な治療で根本的に完治することはありません

CPAPは睡眠中の無呼吸を防ぐために呼吸のサポートをしてくれる機器です。SAS治療の中心となる機器であり、1時間あたり20回以上呼吸が止まってしまう(AHIが20以上)ような中等度から重度のSASの人では、まずこの治療が推奨されます。

しかし、CPAPはSASそのものを完治させるものではありません。装着しないで寝ると、治療前と同じ状況になることに留意する必要があります。そのためCPAP治療と並行して、ダイエット、寝酒を控える、禁煙する、横向きに寝る、などの生活習慣の改善も併せて行うよう勧められます。

5. 睡眠時無呼吸症候群に手術は有効なのか

寝ている間に空気の通り道(気道)が狭くなることがSASの主な原因です。そこで、手術で気道を広げる治療もあります。CPAPやマウスピースでの治療と異なり、手術はSASの原因に対する根本的な治療法です。そのため、手術を魅力的に感じるかもしれませんが、実際に手術が推奨されることは多くありません

近年はこれら手術の有効性が多く報告されてきていますが、身体には大きな負担がかかります。また、長期的にはSASが再度悪化してくる可能性も懸念されています。

したがって、重度のSASで、扁桃腺が目立って大きく明らかに気道を狭めているなど特殊な事情があれば手術も考慮されるものの、基本的にはまずCPAPによる治療が優先されるのが一般的です。

6. 睡眠時無呼吸症候群の人が気をつけること

SASはありふれた病気の一つです。また、普段は重大な症状が出にくいため、この病気を軽視してしまう人も少なくありません。医療機関で相談のうえ指導を受けるのが一番ですが、以下ではSASの人が自分でできる対策や注意点を説明します。

自動車の運転

未治療のSASがある人では、自動車の運転や危険作業は事故を起こす可能性が高まるため推奨できません。SASに関連した大型自動車や電車の事故が社会問題化した近年、こうした業種ではSASの検査を積極的に行うようになってきました。

勤務先で検査を行っていない場合でも、自動車を運転する人や危険な作業に従事する人で少しでもSASに心当たりのあれば、まずは医療機関に相談してみてください。

睡眠の姿勢や枕

SASでは一般的に、仰向けよりも横向きに寝るほうが無呼吸が軽減されることが分かっています。軽度のSASであれば、これだけでSASが問題にならなくなることもあります。CPAPなどの治療を受けていない人は、まず試してみてください。横向きで寝やすいように工夫されている枕もあるので、使用を検討してみても良さそうです。

睡眠薬

SASの人が安易に睡眠薬を使用するのは推奨できません

SASそのものによる症状として、4-5割ほどの人が不眠で困るというデータがあります。ところが、SASによる不眠症状に対して睡眠薬だけを使用するのは問題です。睡眠薬によって寝ている時に喉の筋肉がますます弛緩して気道が狭くなったり、呼吸そのものが弱まったりすることで、無呼吸がさらに悪化するためです。

そのためSASがあって不眠で困っている人は、睡眠薬を使ってごまかすのではなく、まずはSASそのものに対する治療で不眠を改善するべきです。そのうえで、例えばCPAPのマスクが気になって寝られないような人であれば、睡眠薬を併用することも検討できます。

飲酒

飲酒はSASに悪影響を与えることが分かっています

理由としては、飲酒して寝ることで喉の筋肉が弛緩して気道が狭くなることや、SASの最大の原因である肥満になりやすいことなどが挙げられます。

加えて、就寝前以外の飲酒でもSASが悪化する、体重が同じくらいの人で比較しても飲酒をする人はSASになりやすい、というデータもあります。どの程度ならば飲んでもよいか、というのは難しいところですが、少なくとも現時点でお酒がSASに良い影響を与えるというデータは乏しいです。

喫煙

喫煙はSASに悪影響を与える可能性がありそうです

喫煙によるSASへの影響については、飲酒の影響についての報告ほど多くはありません。タバコによる喉の炎症によって寝ている間に気道が塞がりやすくなる、という報告がありますが、それを否定する報告も出ています。

いずれにしても、喫煙がSASに良い影響を与えることはなさそうです。また、SASは高血圧、糖尿病心不全脳卒中などのリスクを高めますが、喫煙もこれらの病気の要因となります。SASによる悪影響を助長しないために、ぜひ禁煙をお勧めします。

7. 睡眠時無呼吸症候群でオンライン診療は使えるのか

2020年10月現在においては、新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン(遠隔)診療の体制は目まぐるしく変動しています。そのため、概略についてのみ紹介します。

まずSASの診断に際しては、必要に応じて扁桃腺の大きさやその他の病気をチェックしたりする必要も出てくるので、実際に医療機関を受診するほうが無難かもしれません。また、SASの診断を確定させるための精密検査であるポリソムノグラフィーは、入院しなくては受けられません。

一方で、既に治療のためCPAPを使い始めた人は原則として月に1回受診の必要があるものの、安定していれば実際に医療機関まで出向く必要性は比較的低いと考えられます。そのような人で、家が遠かったり時間が取れず通院が難しい場合にはオンライン診療も有力な選択肢です。

オンライン診療はどの医療機関でも行っているわけではないので、希望する人は事前にインターネットなどで探してから受診することをお勧めします。ただしオンライン診療とはいっても、トラブルが発生したときなどに通院が必要になることもあります。そのため、できるだけ実際に通院しやすい医療機関をかかりつけとすることが原則です。

8. 睡眠時無呼吸症候群にガイドラインはあるのか

日本呼吸器学会や、厚生労働省からの助成金を受けた研究班が中心になって作成された「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」があります。

このガイドラインは2020年7月に初版が発行されたものであり、それ以前は2005年に発行された「睡眠呼吸障害研究会」によるガイドラインが主流でした。今後は新しいガイドラインを主に参考として、お医者さん達はSASの診療を行っていくことになりそうです。

また「閉塞性睡眠時無呼吸に対する口腔内装置に関する診療ガイドライン2020年版」のように、より特化されたガイドラインもあります。

参考文献

日本呼吸器学会/厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」班/監修, 「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」, 南江堂, 2020