まんせいこうまくかけっしゅ
慢性硬膜下血腫
硬膜下(硬膜と脳の間のスペース)で、時間をかけてじわじわと出血して、血が溜まる病気
16人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2022.08.05

慢性硬膜下血腫の検査:CT検査・MRI検査など

慢性硬膜下血腫の検査は、診察や画像検査を中心に行われます。問診や身体診察の結果、慢性硬膜下血腫の疑いが強いと判断されればCT検査やMRI検査などの画像検査を用います。多くの場合は画像検査で診断が確定します。

1. 問診:状況や背景の確認

問診をすることで今起こっている症状やどんな背景があるのかを医師に伝えることができます。問診では医師と対話しながら患者さんや家族が心配な症状などについて伝えます。医師に多くの情報を提供できるのでとても大切です。正確な情報が多いほど診断にも近づきやすくなります。

重要な問診ですが医師と話すという緊張感もあってか、上手く話を伝えられるか心配になるかも知れません。以下では質問の例と伝え方の例を挙げて説明します。

  • 受診するきっかけになったのはどんな症状なのか?
    • 例)左の手足が動かしづらい
    • 例)歩けなくなった
    • 例)もの忘れが目立つようになった
    • 例)頭痛がひどく吐き気も出始めた
  • 症状はいつ現れたのか?
    • 急に現れたかもしくは徐々に現れたかなど
  • 症状がひどくなったりしているか?
    • 変わらないもしくはひどくなっているなど
  • 症状は1日のうち変化はあるか?
    • 朝と夕では症状に差があるかなど
  • 他にも気になる症状はあるか?
    • 例)頭痛だけだったが最近は吐き気も現れ始めた

受診のきっかけになった症状を伝えた後には、患者さんの背景などについて医師から質問があります。医師が用いる質問は以下のようなものです。

  • 過去に治療した病気について
    • 入院したことはあるか
    • 手術をしたことはあるか
  • 現在治療中の病気について
    • 通院加療中の病気はあるか
  • 内服中の薬について
    • どんな薬を飲んでいるか
  • 最近頭を強く打つことはあったか
  • 飲酒はするか
    • 1日の大まかな飲酒量
    • 1週間に何日くらい飲酒するか
  • 喫煙はするか
    • 1日の喫煙本数
    • 喫煙期間
    • 喫煙をやめた場合には以前の喫煙の状況
  • 家族が経験した病気について
    • 血縁の人に脳や神経の病気になった人はいるか

問診だけで慢性硬膜下血腫かどうかの診断をできる訳ではありませんが、次に行う検査を決めるのに参考になります。例えば、2ヵ月前に転倒して頭を打ったことがあり、しかもその前から持病のため血液を固まりにくくする薬を飲んでいるなどの情報があれば慢性硬膜下血腫をより強く疑うことになります。

問診は医師に症状を伝えるとともに患者さんや家族は知りたいことを聞くという大事な場なのですが、問診で伝えたいことを伝えられなかったり話の内容を理解できなかったということもあると思います。問診を上手に活用するにはあらかじめ医師に伝えたいことや聞きたいことをメモしておくとよいでしょう。そうすることで漏らすことなく伝えたり聞いたりすることができます。簡単ですが有効な方法なので利用してみて下さい。

2. 身体診察:状況の客観的評価

身体診察は、医師が身体に触れたりすることによって症状や身体の状況を客観的に評価します。慢性硬膜下血腫は身体の麻痺認知症などが現れるので他の病気と区別するためにも身体診察は重要です。

認知症の診察

慢性硬膜下血腫が指摘されるきっかけの1つが認知症です。慢性硬膜下血腫では短い時間で認知機能が低下します。認知機能とは、理解・判断・論理などの知的な機能のことです。認知症の症状は多様で、記憶障害(物忘れ)や見当識障害(時間や場所などがわからなくなる)などです。認知症の診察には質問形式検査と呼ばれる評価の方法などが用いられます。

認知症の診断は複雑です。詳細について知りたい場合は「このページ」も参考にして下さい。

手足の動きの診察

慢性硬膜下血腫の症状の一つに麻痺があります。麻痺は身体を動かす指令を出す場所の細胞が障害を受けることにより起こります。脳出血脳梗塞などがその代表ですが慢性硬膜下血腫でも現れます。実際には、手足の動きはどの程度の力が加えられるかや異常な反射があるかなどを観察します。

脳神経の診察

脳神経の診察は、脳幹という場所の様子を推測するために適しています。脳神経は脳幹というエリアから出ており、脳幹に異常があると脳神経の働きの異常として観察できることがあります。

まず脳神経について説明します。脳神経は左右対称に脳からでる末梢神経のことを指し、12対からなります。以下が脳神経の種類と主な役割です。

  • 第I脳神経
    • 嗅神経:嗅覚を司る
  • 第II脳神経
    • 視神経:視力、視野を司る
  • 第III脳神経
    • 動眼神経:眼球を動かす
  • 第IV脳神経
    • 滑車神経:眼球を動かす
  • 第V脳神経
    • 三叉神経:顔の知覚、顎を動かす
  • 第VI脳神経
    • 外転神経:眼球を動かす
  • 第VII脳神経
    • 顔面神経:表情筋を動かす、涙や鼻汁の分泌を司る、味を感じる
  • 第VIII脳神経
    • 聴神経(内耳神経):聴覚と平衡覚を司る
  • 第IX脳神経
    • 舌咽神経:味を感じる、飲み込みの動作に関わる
  • 第X脳神経
    • 迷走神経:頚(首)、胸、腹に分布して様々な役割に関わる
  • 第XI脳神経
    • 副神経:頚(首)周りの筋肉の動きを司る
  • 第XII脳神経
    • 舌下神経:舌と頚(首)周りの筋肉の動きを司る

これらの神経が正常に働いているかは診察で判断することができます。以下ではそれぞれの神経の診察方法の例を挙げて解説します。

【嗅神経の診察】

コーヒーや香水のように匂いのはっきりとしたものを嗅いでもらい正常に匂いを嗅ぎ取れているかを調べます。

【視神経の診察】

視力と視野を中心に調べます。視力検査をしたり、視野が欠けていないかや狭くなっていないかを調べます。また眼底鏡といって眼の奥を覗くことができる機器を用いて、眼底の異常の有無を評価します。

【動眼神経、滑車神経、外転神経の診察】

動眼神経、滑車神経、外転神経は眼球の動きを司ります。眼球を動かす指示に対してこたえられるかをみて評価します。また眼瞼まぶた)が垂れ下がっていないかや瞳孔の大きさや光への反応も重要な所見です。

【三叉神経の診察】

三叉神経は様々な役割を司る神経です。以下のことに注目します。

  • 顔面の感覚に異常が起きていないか
  • 顎を動かす筋肉に異常が起きていないか

三叉神経は顔面の感覚を司る神経です。顔面の感覚を痛覚(痛み)、触覚(触れている感覚)、温度覚(熱さ冷たさ)の3つの要素について調べます。

また三叉神経は顎を動かす筋肉の動きを司ります。この機能をみるために顎がしっかりと噛み合うかを調べます。

【顔面神経の診察】

顔面神経は表情をつくる筋肉を動かすとともに、舌で味覚を感じる役割を果たしています。額にしわを寄せられるかや舌に味のついたものを付けて感じるかなどといった方法で調べます。顔面神経に異常がある場合は、表情が左右で異なることがあるのも特徴の一つです。

【聴神経の診察】

聴神経は聴力を司る神経なので、聴力を評価することで異常の有無の目安にすることができます。ただし、聴力低下は聴神経だけの問題で起る訳ではありません。聴神経に異常がなくとも耳に異常が起きている場合でも聴力は低下します。聴力の低下が疑われる場合には耳鼻科も受診して調べます。

【舌咽神経、迷走神経の診察】

舌咽神経と迷走神経はものの飲み込みなどに関わる神経です。飲み込む様子や口の中を観察して異常がないかを調べます。舌咽神経や迷走神経に異常があると軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)が片方によっている様子が観察されます。これをカーテン徴候といいます。

【副神経の診察】

副神経は肩や首の筋肉を司る神経で、副神経が傷害されていると首の動きが弱くなったり、手が垂れ下がったりします。立った時の指先の位置が左右で同じくらいかを見たり、首を回す動作に負荷をかけたりして調べます。

【舌下神経の診察】

舌下神経は舌の動きを司る神経です。舌下神経の異常を調べるときには舌を出した様子や舌の動きなどを観察することで評価できます。

3. 血液検査

血液検査で慢性硬膜下血腫を診断できる訳ではありませんが、多くの事を知ることが出来ます。血液検査では以下のことに注目します。

  • 全身状態・臓器機能の把握
  • 血液が固まりにくい状態にないかの確認

特に大切なのは血液が固まりにくい状態にないかを確認することです。血液が固まりにくいと手術が難しくなるからです。血液が固まりにくくなっているのが薬の影響である場合には、その効果を一時的に打ち消す薬を用いたりすることもあります。

4. 画像検査

慢性硬膜下血腫に用いる画像検査は頭部CT検査頭部MRI検査です。どちらかの検査で慢性硬膜下血腫で現れる特徴を確認することができれば診断に至ります。似たような2つの検査ですがどのような違いがあるのでしょうか。

頭部CT検査

CT検査は放射線を利用して身体の中を画像化する検査です。脳など頭の病気が疑われる場合には、CT検査をすることで脳に異常が起きていないかを知る事ができます。頭部CT検査は頭の中の出血の有無や脳の形、脳の周りのスペースである脳室などを観察するのに向いています。頭の中で出血が起こると白く映し出され、慢性硬膜下血腫が起こると白い三日月のような形をした血液の固まりを見ることができます。

慢性硬膜下血腫があれば頭部CT検査で診断できることが多いのですが、血の固まりの量が少なかったりしてわかりにくい場合には次に説明する頭部MRI検査を用います。

頭部MRI検査

MRI検査は、磁気を利用した検査で身体の中を画像化することができます。MRIはMagnetic Resonance Imaging(核磁気共鳴画像法)の略です。MRI検査を用いると頭の中を断面図として観察することができます。慢性硬膜下血腫の疑いがあり頭部CT検査を行ったものの病気の部分がはっきりしない場合は頭部MRI検査を用いることで病気の部分がはっきりとすることがあります。慢性硬膜下血腫を調べるための検査としては、頭部MRIの方が頭部CT検査に比べて優れていると考られています。

MRI検査はCT検査と違って放射線を用いないので被曝の心配がありません。一方で強力な磁気を用いて検査をするので身体の中に金属製品などを埋め込んでいる人は検査ができないことがあります。特にペースメーカーは場合によって誤作動を起こす危険があるので注意が必要です。MRI検査を受ける前には本人やご家族は身体の中に金属が埋め込まれていることを伝えてください。

またMRI検査は、CT検査と比べるとかかる時間が長く、検査に10-20分程度要します。MRI検査は狭い筒のような機械の中に入って受ける検査なので、閉所恐怖症の人には向いていません。