2016.11.20 | ニュース

放射線治療で認知症に?全脳照射なしでも放射線治療の生存率は変わらなかった

脳転移がある231人で検証

from JAMA

放射線治療で認知症に?全脳照射なしでも放射線治療の生存率は変わらなかったの写真

がんの脳転移の治療法に放射線療法があります。効果はあるとされる一方で、認知機能などに影響が出ることもあります。ある場合について、放射線療法を追加しても生存期間は変わらず、認知機能の低下があったことが報告されました。

アメリカとカナダの研究班が、がんの脳転移に対する放射線治療についての研究結果を、医学誌『JAMA』に報告しました。

この研究では、脳に1個から3個の転移があるがん患者が対象とされました。

放射線療法として、定位放射線照射と全脳照射を組み合わせることの影響が検討されました。

 

定位放射線照射とは、さまざまな方向から転移したがんの位置を正確に狙って放射線を照射することで、周りの正常組織に当たる放射線の量を最小限に抑えつつ治療する放射線療法です。

全脳照射は脳全体に放射線を当てる放射線療法です。脳に転移したがんがある場合、一見正常な脳組織にも小さくて見えない転移が隠れている可能性があります。転移が多数ある場合などは全脳照射が行われます。

 

この研究の対象者は、ランダムに2グループに分けられ、違う方法の放射線療法を受けました。

  • 定位放射線照射だけを行うグループ
  • 定位放射線照射のあとに全脳照射を行うグループ

 

次の結果が得られました。

3か月時点で、認知機能の低下は定位放射線照射と全脳照射を組み合わせたとき(患者48人中44人、91.7%)よりも定位放射線照射のみのほうが少なかった(患者63人中40人、63.5%、差-28.2%、90%信頼区間-41.9%から-14.4%、P<0.001)。

全生存期間の中央値は定位放射線照射のみで10.4か月、定位放射線照射と全脳照射の組み合わせで7.4か月だった(ハザード比1.02、95%信頼区間0.75-1.38、P=0.92)。

全脳照射を加えたグループのほうが、治療開始から3か月後に認知機能の低下が見られた人の割合が高くなりました

生存期間には統計的に違いが見られませんでした

研究班は「全生存期間に差がないことをふまえると、この結果から、1個から3個の脳転移がありラジオサージャリーの適応がある患者に対しては定位放射線照射のみが望ましい戦略であることが示唆される」と結論しています。

 

1個から3個の脳転移がある人に対して、定位放射線照射と全脳照射の組み合わせは避けたほうがよいのかもしれません。

全脳照射は脳に対する影響が出やすいことが知られています。しかし4個以上の脳転移が現れることも多く、多数の脳転移の影響でしびれなどの症状がある場合などでは全脳照射が役に立ちます。

全脳照射をどんな場合に使うべきか考えるうえで、この報告が参考になるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Effect of Radiosurgery Alone vs Radiosurgery With Whole Brain Radiation Therapy on Cognitive Function in Patients With 1 to 3 Brain Metastases: A Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2016 Jul 26.

[PMID: 27458945]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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