カフェイン中毒から救命された19歳男性
イタリアの研究班が、カフェイン中毒で心停止に至り、治療で救命された19歳男性の例を、専門誌『Journal of Anesthesia』に報告しました。
この男性は、錠剤から40gのカフェインを飲んで自殺を図り、およそ1時間後に発見されました。発見後急激に意識が弱まり、けいれん、心室細動(致命的な不整脈)などが現れました。
10回の除細動とアドレナリン、アミオダロン、リドカイン、硫酸マグネシウムによって不整脈を止める治療が図られました。しかし、一時は心停止に至り、さらにアドレナリンを注射したことで心拍が再開しました。
決め手は「大豆の油」
心臓が安定しない状態が続いたため、イントラリピッド(商品名)の点滴によって治療が図られました。
イントラリピッドは大豆から精製した油を溶かした輸液です。普通は栄養補給の目的で、口から食べられないような状態の人に使われます。日本ではイントラリピッドは販売中止され、代わりに同様の成分のイントラリポス(商品名)が使われています。
イントラリピッドのような脂質の輸液は、脂溶性の薬剤と結合しやすいことなどから、薬物中毒の治療に使われる場合があります。
イントラリピッドの点滴を受けたこの男性は、神経障害などを残すことなく回復し、数日後に精神科治療が開始されました。
研究班はイントラリピッドの効果について、「イントラリピッドは主に刺激性の薬物を心臓や脳から血流の良い臓器へと運び去る媒体として働くように思われる」と考察しています。
カフェインでも200倍飲めば危険!
1杯のコーヒーに含まれているカフェインは100mgから200mg程度です。ここで報告されている男性は、自殺目的でコーヒー200杯分ほどのカフェインを飲んだという計算になります。普通は無害か、むしろ体に良い作用があるとされる物質でも、これほどの大量なら命を脅かすこともあります。
イントラリピッドや不整脈の薬を使った治療が幸いにも効果を現しました。薬物中毒の患者を治療する医師にとって参考になるかもしれません。
なお、イントラリピッドは以前に「不妊治療に使えるのではないか」と伝えられたことがありますが、一般的には支持されていません。大豆をふだんから食べている女性にとって、わざわざ大豆の油を点滴することに利点があるかは不明です。
ここで報告されたような事例から、救急治療は日々進歩を続けていきます。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。