2024.03.13 | コラム

麻しん(はしか)患者が増加中! 流行に備えて感染症内科医が伝えたいこと(2024年版)

Dr.伊東が伝えたい麻しんの基礎知識と予防方法

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日本国内において、2023年から麻しん患者が増加しています。機内乗り合わせでの感染が話題となっていますが、麻しんウイルスの感染力は非常に強く、搭乗時間や発端例の座席からの距離に関わらず、免疫のない人は容易に感染してしまいます。また、まれではありますが、脳炎といった重篤な合併症もあり、感染すると先進国であっても死亡する可能性があります。

麻しんに対しては、ワクチンの2回接種が有効ですが、残念ながら2回接種を完了していない人が感染者のほとんどを占めているのが現状です。本コラムでは、麻しんについて、一般の方々に知っていただきたいポイントを解説します。

1. 麻しん排除国の日本でなぜ麻しんが再び流行しているのか

日本は、2015年に麻しん排除状態にあるとして世界保健機関(WHO)により認定を受けました[1]。排除状態というのは、12か月間以上、伝播を継続したウイルスが存在しない状態のことを意味します。しかしながら、排除達成後も海外からの旅行者を発端とした集団発生や、医療機関における集団発生、麻しん含有ワクチン接種率が低い集団における集団発生が相次いで報告されており、2019年の年間届出数は、なんと排除達成後最多の744人となりました[2]。

一方で、2020年、2021年、2022年においては麻しんの報告者数は、それぞれ10人、6人、6人と少なくなりました。これは新型コロナウイルスの世界的な流行に伴う国内外の人の往来の制限の影響と考えられます。

しかし、新型コロナの水際対策が緩和された2023年には、28人と再び増加しており、実は、麻しん患者の増加は、日本だけではなく世界的なものとなっています[3]。これは、新型コロナパンデミックにより制限されてきた国際的な人の往来が活発になっていることが原因と考えられます[4]。米国疾病予防管理センター(CDC)は2024年1月25日に医療従事者向けにアラートを発出し[5]、世界的な麻しん患者数増加に伴う海外輸入例の発生と感染の輸入を発端とした免疫のない人の間における集団発生に注意を呼び掛けています。

 

どのような人が麻しんにかかっているか

2023年に報告された日本の麻しん患者28人を紐解くと、予防接種歴は未接種6人、接種歴1回11人、接種歴不明7人、接種歴2回4人でした。つまり、麻しんを発症したのは未接種およびワクチン接種1回を含む不十分な免疫の人が約9割ということになります。

 

2. 麻しんは風邪のような症状からはじまる

感染者に曝露してから麻しんを発症するまでの期間(潜伏期間)は長く、10-12日ほどです[6,7]。典型的には風邪のような以下の症状が出ます。

 

麻しんの初期症状(カタル期)

  • 2-3日持続する発熱
  • 結膜(眼球の白目の部分)の充血
  • 咳・鼻水・くしゃみなどの上気道症状

この時期をカタル期と呼び、麻しんに特徴的な1mm程度の小さな白色の斑点(コプリック斑)がほっぺたの内側の口腔粘膜に出現します。

そして一旦解熱した後に、今度は次のような症状があらわれます。

 

麻しんの一旦解熱したあとの症状(発疹期)

  • 高熱(多くは39℃以上)
  • 全身の発疹

発疹出現後3-4日間続いた発熱は解熱し、全身状態、元気さが回復し、カタル症状も改善します。これを回復期といい、発疹の色が残ることはありますが全体的には1週間ほどかけて症状が回復します。

なお、麻しんに対する免疫があるものの不十分な人が麻しんにかかると、このような典型的な症状が見られないことがあります。これを修飾麻しんと呼びます。カタル期の麻しん、修飾麻しんを普通の風邪と見分けるのは非常に難しいです。そのため、医療機関を受診する際には受診前に症状に加えて、予防接種歴、海外や国内の旅行歴、さらに人が多く集まるイベントに行ったかなども伝える必要があります。これは受診先の医療機関において感染対策上とても重要なことですので、ご協力お願いします。

 

3. あなどれない麻しんの合併症と死亡率

「自然に感染したほうが予防接種を受けるよりも強力な免疫力がつくので良い」、「予防接種に頼らずに病気をうつしあって免疫をつければよい、そのため予防接種は必要ない!」などと巷でしばしば耳にすることがあります。

これは正しいでしょうか? 結論としては明らかな誤解であり、そのような人は麻しんがときに致死的になり、合併症を来す可能性があることを知らなければなりません。

麻しん患者の約3割に1つ以上の合併症があったと報告されています[6,7]。合併症のうち、その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、この2つの合併症は麻しんによる二大死因となっています。死亡する割合は、先進国であっても1,000人に1人と言われています[8]。

 

4. 麻しんの感染力は非常に強い

麻しんの感染経路は、主に飛沫感染空気感染です。飛沫感染は咳やくしゃみをした時の飛沫が近くの人の鼻や口に入り込んで感染することです。一方、空気感染は、飛沫が空気中を飛んでいるうちに、含まれている水分が蒸発して、飛沫核になって、その飛沫核が入り込んで感染します。飛沫はせいぜい2メートル程度しか飛びませんが、飛沫核がそれ以上の距離を浮遊するので、空気感染する麻しんは広範囲に感染を拡げてしまう可能性があります。

麻しんがやっかいなのは、空気感染することに加えて、基本再生産数、すなわち感染力が非常に高いことです。基本再生産数は、感染者1人が他人へ感染させる平均人数のことで、感染力の高さを表す指標です。インフルエンザの基本再生産数は2-3程度ですが、麻しんの基本再生産数は16-21と、麻しんは非常に高い感染力を持っています[9]。

 

5. 麻しんの発症と感染の拡大を予防するにはワクチン(予防接種)が重要

感染力が非常に強く、手洗いなどの日常の対策だけでは予防困難な麻しんに対し、現時点で最も有効な予防方法がワクチン接種です。麻しん含有ワクチン(主に接種されているのは、麻しん風しん混合ワクチン)を2回接種することによって、95%程度の人が麻しんウイルスに対する免疫を獲得することができます [8]。ワクチン接種が推奨される人を表1に、また、麻しん・風疹混合ワクチンを接種する際の注意点を表2にお示しします[10]。

表1:麻しん含有ワクチン接種が推奨される人

【定期接種対象者】
  • 第1期定接種対象者(1歳児)
  • 第2期定接種対象者(小学校入学前1年間の幼児:今年度6歳になる者)

【定期接種対象者以外】
  • 1か月以内に海外旅行・国内旅行を予定している者(可能な限り2週間以上前に接種を済ませる。旅行直前に接種をする場合は、接種後5-14 日の体調変化に注意が必要)
  • 医療関係者(救急隊員、事務職員等を含む)
  • 保育関係者
  • 教育関係者
  • 不特定多数の人と接触する職業に従事する人
  • 近隣で麻しん患者の発生が認められる、生後6-11か月児(緊急避難的な場合に限る)
  • 0歳児の家族
  • 麻しん抗体価陰性あるいは低抗体価の妊婦の家族
  • 麻しん抗体価陰性あるいは低抗体価の麻しん含有ワクチン接種不適当者の家族
  • 2歳以上第2期定期接種対象期間に至る前の幼児で、麻しん含有ワクチン未接種あるいは接種歴不明者
  • 小、中、高、大学、専門学校生等で、麻しん含有ワクチン未接種あるいは1回接種あるいは接種歴不明者

国立感染症研究所 感染症疫学センター「麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方」より

表2:麻しん・風疹混合ワクチンを接種する際の注意点

  • 接種不適当者(*1)に該当しないことを確認する。
  • 麻しん含有ワクチンの接種歴は記録で確認する(記憶はあてにならない。接種の記録がなければ、受けていないと考える)。
  • 妊娠出産年齢の女性は、接種前に妊娠していないことを確認し、ワクチン接種後約2カ月間は妊娠しないように注意する。
  • 1歳以上で2回の麻しん含有ワクチンの接種記録がある者、検査診断された麻しんの罹患歴がある者、既に発症予防に十分な麻しん抗体価を保有していることが明らかな者は受ける必要はない。
  • 初回接種の場合は、接種後5-14日を中心として、約20%に発熱、約10%に発疹が見られることがあることに注意する。2回目接種の場合は、これらの症状出現頻度は低い。
  • 接種不適当者に該当する場合は、麻しん抗体価を確認し、免疫状態を把握しておく。その結果、麻しん抗体価が陰性あるいは低い抗体価であった場合は、人が多く集まるところや麻しん流行国に行くのを避け、家族や周りの者が必要回数である2回の予防接種を受けて、麻しんに対する免疫を獲得しておく。

*1接種不適当者
  • 明らかな発熱を呈している者
  • 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
  • 本剤の成分によってアナフィラキシー*2を呈したことがあることが明らかな者
  • 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
  • 妊娠していることが明らかな者
  • 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

*2アナフィラキシー;重症のアレルギー反応のことで、全身の発疹、かゆみまたは紅潮、口唇の腫れや浮腫、呼吸困難、喘鳴、血圧低下、意識障害、腹痛、嘔吐などを認める。

国立感染症研究所 感染症疫学センター「麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方」より

 

前述の通り、現在の日本の麻しん患者 のほとんどが、ワクチン未接種およびワクチン接種1回を含む不十分な免疫の人 です。この原因としては、日本の過去のワクチン接種体制の問題があります。麻しんワクチンの定期接種は1972年10月から生後12カ月-72カ月を対象に始まったのですが、1972年9月30日以前生まれの人は、1度も接種していない可能性があります図1)。

図1:麻しんのワクチン接種の状況

生年月日 今後の対応
1972年9月30日以前
  • 一度も接種していない可能性が高い年齢です
  • 自然感染をして抗体を持っていることが明らかな人以外は、計2回の接種が推奨されます
1972年10月1日-
1990年4月1日
  • 定期接種としては1回しか接種していない年代です
  • 1979年10月1日から定期接種が開始されましたが対象者が「生後12か月から72か月に至る者」でした。特例措置非対象者のため、免疫を十分保持していない可能性があります
  • 合計2回の接種を受けていない人は追加接種が推奨されます
1990年4月2日-
2000年4月1日
  • 特例措置対象者の年代です
  • 接種率が低かったので、2回目を受けていない可能性があります
  • 合計2回の接種を受けていない人は追加接種が推奨されます
2000年4月2日以降
  • 定期接種として2回接種を受けている年代です
  • 合計2回の接種を受けていない人は追加接種が推奨されます

 

また、本来麻しんワクチンは2回の接種が必要ですが、1972年10月1日-2000年4月1日生まれの人 は、定期接種としては1回しか接種していません。2006年6月から、やっと生後12カ月-72カ月を対象としてMRワクチンの2回接種が始まっています。

日本は、麻しんの排除状態を維持するために、2回の定期MR ワクチン接種率95%以上の達成・維持を目標としています。しかし、2022年度の全国の麻しん風しんワクチン接種率は、第1期95.4%、第2期92.4%と、目標達成できておりません。

麻しんの感染を予防するためには、自身に麻しんワクチン接種歴があるかどうか、母子手帳をみて確認する必要があります。また、国内の麻しん者は基本的には海外からの持ち込みなので、海外旅行に行く予定がある人はワクチン接種が望ましいといえます。特にアジア、アフリカ、ヨーロッパといった流行国への渡航は麻しん感染者の報告数が多いため、注意が必要です。国外の旅先で感染すると何かと大変ですので、旅行前の準備としてワクチン接種歴の確認はとても重要になります。

 

6. まとめ

日本だけでなく海外でも麻しん患者が増えており、報告者数が増加している国へ渡航する際には、2回の麻しん含有ワクチン接種を行いましょう。特に医療従事者や海外からの帰国者や渡航者と接する機会が多い人は、2 回の麻しん含有ワクチン接種歴を必ず確認しておく必要があります。 ワクチン未接種または定期接種として1回接種のみであった世代もいるため、2回の麻しん含有ワクチン接種歴が明らかでない人は接種を積極的に検討してみてください。

参考文献

1. 国立感染症研究所. 麻疹 2023年7月現在

2. 国立感染症研究所. 感染症発生動向調査(IDWR)

3. World Health Organization. Provisional monthly measles and rubella data

4. 国立感染症研究所. 麻疹の発生に関するリスクアセスメント(2024年第一版)

5. CDC Clinician Outrea ch and Communication Acti vity , Stay Alert for Measles Cases Cases

6. CDC. The Pink Book. Measles.

7. 国立感染症研究所. 麻疹Q&A

8. 厚生労働省. 麻しんについて

9. Nokes DJ, Anderson RM. The use of mathematical models in the epidemiological study of infectious diseases and in the design of mass immunization programmes. Epidemiol Infect. 1988 Aug;101(1):1-20.

10. 国立感染症研究所. 麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方

11. World Health Organization.Surveillance for Vaccine Preventable Diseases (VPDs)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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