2020.05.24 | コラム

新型コロナ治療薬として特例承認された「レムデシビル」の作用と効果とは?副作用は大丈夫?

レムデシビルについて現在分かっていることのまとめ
新型コロナ治療薬として特例承認された「レムデシビル」の作用と効果とは?副作用は大丈夫?の写真
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2020年5月7日付で新型コロナウイルス感染症への治療薬(抗ウイルス薬)としてレムデシビル(商品名:ベクルリー®)が「特例承認」されました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴い、各国で様々な対策が模索されている中、一筋の希望となった感もあるこの新薬承認。この新薬がどのような薬なのかを、その開発経緯などから辿っていきます。

レムデシビルは「ある種のウイルス」の増殖に必要なRNA依存性RNAポリメラーゼという酵素への阻害作用により、ウイルス増殖を抑える薬(静脈注射剤)です。レムデシビル自体は元々、エボラ出血熱を引き起こすエボラウイルスなどに対する治療薬として開発された経緯をもちます。「エボラ」は、その致死率の異常な高さなどもあって日本においても「名前」の認知度は比較的高いものになっていますが、病態などの違いから、「コロナ」との接点は一見するとあまりないようにも映ります。

エボラなどの治療薬として開発されたレムデシビルがなぜコロナに有効なのか?を考えるには、エボラウイルスやコロナウイルスがどのような種類のウイルスに分類されるのかを考えると理解しやすいのかもしれません。

 

ウイルスの増殖の仕組みと分類

ウイルスが増殖していくには、すなわちヒトなどの宿主細胞の中で新しいウイルス(ウイルス粒子)をつくり出すためには、自身の遺伝情報を複製する必要があり、遺伝情報の複製のためには、核酸(DNAまたはRNA)を合成する必要があります。

生物のもつ全遺伝情報のことをゲノムといいいますが、このゲノムをコード(暗号化)する核酸がDNAかRNAかによって、ウイルスの種類が分かれ、エボラウイルスやコロナウイルスはRNAによってゲノムをコードするRNAウイルスに分類されます。多くのRNAウイルス(ウイルス科)はゲノムの複製などを、RNAからRNAを合成する方法で行っています(RNAウイルスの中には、増殖過程でDNAを経由するウイルスの一群(レトロウイルス科)もあります)が、このゲノム複製に必要な酵素がRNA依存性RNAポリメラーゼであり、前述の通り、レムデシビルはこの酵素に対しての阻害作用をあらわします。

 

RNAウイルス(新型コロナウイルス)の侵入例

 

RNAウイルスの中でも、エボラウイルスなどのフィロウイルス科やインフルエンザウイルスなどのオルソミクソウイルス科のウイルスはマイナス鎖1本鎖ウイルスに分類され、コロナウイルス科のウイルスはプラス鎖1本鎖ウイルスに分類される、といったように細かく分けていくとRNAウイルスの中でも異なる種類になりますが、どれも大きく「RNAウイルス」ではあり、ゲノム複製にRNAポリメラーゼ(RNA依存性RNAポリメラーゼ)が必要であることは共通しています。

実際にレムデシビルは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の出現以前からRNAウイルスに対し広く活性(抗ウイルス作用)を示すことが確認されていて、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERSーCoV)といった「新型」以前に出現したコロナウイルスなどに対してもその有用性が示唆されていました。一から新薬を開発するには、通常、10年単位の年月が必要ですが、対コロナという点で既にある程度の算段がついていたことが、米国(及び日本)におけるスピード承認につながった大きな理由のひとつと言えます。

なお、新型コロナウイルスへの治療薬という点では、日本国産の薬剤で新型などのインフルエンザ治療薬であるファビピラビル(商品名:アビガン®)も注目を集めていますが、このファビピラビルも大きくみればレムデシビルと類似した作用(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害作用)を示す薬(アビガン®は内服薬)になります。

 

レムデシビルは新型コロナウイルスへの「特効薬」となり得るのか?

さて、異例とも言うべきスピードで承認されたレムデシビルですが、その効果はどのようなものなのでしょうか?

レムデシビルは、治療薬として承認に至った米国や日本も含め、世界各国で臨床試験や承認後の調査が実施されています。承認前に米国立衛生研究所(NIH)より発表された国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が後援する臨床試験(ACTT-1 試験(NCT04280705))における予備的な解析では、回復までの時間(期間)においてレムデシビルはプラセボよりも優れていると評価された一方で、致死率においては有意差を示せませんでした(ただし、致死率に関して効果が期待できないというわけではなく、今後の治療実績の積み重ねなどが待たれます)。

ちなみに現時点でのレムデシビルは、新型コロナウイルスに感染した人全てを対象としているという薬ではなく、原則として症状が重症でかつ、いくつかの条件のうちいずれかが当てはまる人に対して使用する薬となっています。下記はその条件例です。

 

  • 血中に含まれる酸素が通常よりも少ない人
  • 酸素吸入を必要とする人
  • 侵襲的人工呼吸器による管理を必要としている人
  • 体外式膜型人工肺(ECMO)を導入している人
    ・・・など 

 

また、臨床試験の時点ではそもそも投与対象から外されている人もいて、重度の肝機能障害がある人(ASTまたはALTが基準範囲上限の5倍を超えている人)、透析療法の実施者などを含む腎機能がかなり低下している人、などは除外基準に含まれます。特例承認されたレムデシビルはその効果だけでなく副作用などの有害事象に関してもまだはっきりとわかっていないことも多いのですが、現時点での注意すべき副作用としては肝機能障害や急性腎障害などが挙げられています。そのため、肝臓や腎臓に関わる持病がある人に投与が検討される際には、仮に持病の病態が重度でないにせよ、その適否も含めて特に注意が必要となることが考えられます。そのほか、薬自体は個々の体質の違いなどにより副作用を含めた効き方が異なる可能性があり、特に人種による薬物代謝酵素の違いはその主たる要因となります。各国での治療実績がさらに増えるにつれて、もしかしたら日本人の方が欧米人よりも副作用の頻度や重症度へのリスクが低いということがわかるかもしれませんし、もちろん、その逆もしかりです。

レムデシビルに関しては、現時点では投与対象となる人が限られる薬であること、治療についてのデータが集積された後でその効果や副作用が改めて評価されるという薬であること、投与に際しては医師などからその効果や副作用などに対しての説明をしっかりと受ける必要がある薬であることなど、「まだ未知数な部分も多くこれからもその動向を見守っていく必要がある薬」ということを理解しておく必要があるようです。

 

新しい感染症の猛威にさらされている今、私たちにできることは・・・

新型コロナウイルス感染症の猛威にさらされながら、人智を結集させて対抗策を練ってきました。しかし、いまだに特効薬はありません。また、ワクチンも過去にないスピードで開発されましたが、その製品化のキャパシティと普及に課題が残されたままです。治療実績の積み重ねや副作用などの有害事象に対するモニタリングなど、課題はありつつも、レムデシビルの特例承認によって治療の選択肢は広がり、また、この承認をきっかけに、他の治療薬の開発への機運がさらに高まったのは確かと言えます。ファビピラビルの国内臨床試験は間もなくひとまずのメドを迎え、承認される日も近いとされています。また、国産薬という点では、ノーベル賞駆虫薬として知られるイベルメクチン(商品名:ストロメクトール®)において新型コロナウイルスへの有用性が考えられているなど、展望が徐々に広がってきた感もあります(なお、イベルメクチンに関しては、レムデシビルやファビピラビルとは異なる仕組みによって抗ウイルス作用をあらわすことが示唆されています)。

ただし、これらの薬であっても投与された人がほとんどが治る・・・というものではなく、確固たる特効薬と呼ぶべき存在となるには、いくつかのピースが欠けていることは否めません。治療も含めたウイルスへの対策という大きな観点で考えた場合、薬で埋めきれないいくつかのピースを埋めるためには、やはり個人個人ができる予防策を実行することが重要であり、現時点ではそれが最も有効な「特効薬」なのかもしれません。

 

各メディアを通じて政府や医療機関などから連日報道されているように、手洗い、消毒、マスクを含めた咳エチケット、人が密集するような場所を極力避けること、などは各自で実行可能な予防策であり、仮に諸事情があって全てを充足できないとしても、できる限りの行動(努力)を継続していくことで、リスクを軽減することはできるはずです。また、先ほどふれた肝臓や腎臓の病気だけでなく、呼吸器疾患、糖尿病、心臓病などの持病がある人は感染による重症化のリスクが一般的に高いとされるため、それら基礎疾患の治療をしっかりと継続し、平時以上に体調管理に気を配ること、また、もしもの時(実際に感染したと思われる状態になった時など)を想定し有事の際の対処法について主治医などに事前相談しておくことなども各自が今すぐにできる予防策となります。

 

感染予防という面では、ワクチンの開発が世界各国で急ピッチで進められていますが、ワクチンによる抗体関連の副作用(副反応)への懸念もあり、想定よりも時間がかかる可能性があるということも一部では示唆されています。早期でかつ安全性の高いワクチン開発の実現を切に願いつつも、私達が今できる最大限の「予防策」を用いて未曾有のウイルスに対して向き合っていくことがなによりも大切ではないでしょうか。

 

※「特例承認」に関して

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号) 第14条の3第1項に基づく「特例承認」により、その製造販売を認められたもの

 

(特例承認)

第十四条の三 第十四条の承認の申請者が製造販売をしようとする物が、次の各号のいずれにも該当する医薬品として政令で定めるものである場合には、厚生労働大臣は、同条第二項、第五項、第六項及び第八項の規定にかかわらず、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、その品目に係る同条の承認を与えることができる。

  1. 国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であり、かつ、当該医薬品の使用以外に適当な方法がないこと。
  2. その用途に関し、外国(医薬品の品質、有効性及び安全性を確保する上で我が国と同等の水準にあると認められる医薬品の製造販売の承認の制度又はこれに相当する制度を有している国として政令で定めるものに限る。)において、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列することが認められている医薬品であること。

 

【2020.04.21】
新型コロナウイルス感染症に対してワクチンの進展に沿った内容に記述を変更しました。

MEDLEY編集部

参考文献

1:ベクルリー®点滴静注液100 mg/ベクルリー®点滴静注用100 mg医薬品添付文書、ギリアド・サイエンシズ社

2:Holshue ML, DeBolt C, Lindquist S, et al. First Case of 2019 Novel Coronavirus in the United States. N Engl J Med. 2020 Mar 5;382(10):929-936.

3:Grein J, Ohmagari N, Shin D, et al. Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19. N Engl J Med. 2020 Apr 10. doi: 10.1056/NEJMoa2007016.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。