新型コロナ治療薬として特例承認された「レムデシビル」の作用と効果とは?副作用は大丈夫?
2020年5月7日付で新型コロナウイルス感染症への治療薬(抗ウイルス薬)としてレムデシビル(商品名:ベクルリー®)が「特例承認」※されました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴い、各国で様々な対策が模索されている中、一筋の希望となった感もあるこの新薬承認。この新薬がどのような薬なのかを、その開発経緯などから辿っていきます。
レムデシビルは「ある種の
エボラなどの治療薬として開発されたレムデシビルがなぜコロナに有効なのか?を考えるには、エボラウイルスや
ウイルスの増殖の仕組みと分類
ウイルスが増殖していくには、すなわちヒトなどの宿主細胞の中で新しいウイルス(ウイルス粒子)をつくり出すためには、自身の遺伝情報を複製する必要があり、遺伝情報の複製のためには、核酸(DNAまたはRNA)を合成する必要があります。
生物のもつ全遺伝情報のことをゲノムといいいますが、このゲノムをコード(暗号化)する核酸がDNAかRNAかによって、ウイルスの種類が分かれ、エボラウイルスやコロナウイルスはRNAによってゲノムをコードするRNAウイルスに分類されます。多くのRNAウイルス(ウイルス科)はゲノムの複製などを、RNAからRNAを合成する方法で行っています(RNAウイルスの中には、増殖過程でDNAを経由するウイルスの一群(レトロウイルス科)もあります)が、このゲノム複製に必要な酵素がRNA依存性RNAポリメラーゼであり、前述の通り、レムデシビルはこの酵素に対しての阻害作用をあらわします。
RNAウイルスの中でも、エボラウイルスなどのフィロウイルス科や
実際にレムデシビルは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の出現以前からRNAウイルスに対し広く活性(抗ウイルス作用)を示すことが確認されていて、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERSーCoV)といった「新型」以前に出現したコロナウイルスなどに対してもその有用性が示唆されていました。一から新薬を開発するには、通常、10年単位の年月が必要ですが、対コロナという点で既にある程度の算段がついていたことが、米国(及び日本)におけるスピード承認につながった大きな理由のひとつと言えます。
なお、新型コロナウイルスへの治療薬という点では、日本国産の薬剤で新型などのインフルエンザ治療薬であるファビピラビル(商品名:アビガン®)も注目を集めていますが、このファビピラビルも大きくみればレムデシビルと類似した作用(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害作用)を示す薬(アビガン®は
レムデシビルは新型コロナウイルスへの「特効薬」となり得るのか?
さて、異例とも言うべきスピードで承認されたレムデシビルですが、その効果はどのようなものなのでしょうか?
レムデシビルは、治療薬として承認に至った米国や日本も含め、世界各国で臨床試験や承認後の調査が実施されています。承認前に米国立衛生研究所(NIH)より発表された国立
ちなみに現時点でのレムデシビルは、新型コロナウイルスに感染した人全てを対象としているという薬ではなく、原則として症状が重症でかつ、いくつかの条件のうちいずれかが当てはまる人に対して使用する薬となっています。下記はその条件例です。
- 血中に含まれる酸素が通常よりも少ない人
- 酸素吸入を必要とする人
- 侵襲的人工呼吸器による管理を必要としている人
- 体外式膜型人工肺(ECMO)を導入している人
・・・など
また、臨床試験の時点ではそもそも投与対象から外されている人もいて、重度の
レムデシビルに関しては、現時点では投与対象となる人が限られる薬であること、治療についてのデータが集積された後でその効果や副作用が改めて評価されるという薬であること、投与に際しては医師などからその効果や副作用などに対しての説明をしっかりと受ける必要がある薬であることなど、「まだ未知数な部分も多くこれからもその動向を見守っていく必要がある薬」ということを理解しておく必要があるようです。
新しい感染症の猛威にさらされている今、私たちにできることは・・・
今新型コロナウイルス感染症の猛威にさらされながら、人智を結集させて対抗策を練ってきました。しかし、いまだに特効薬はありません。また、ワクチンも過去にないスピードで開発されましたが、その製品化のキャパシティと普及に課題が残されたままです。治療実績の積み重ねや副作用などの有害事象に対するモニタリングなど、課題はありつつも、レムデシビルの特例承認によって治療の選択肢は広がり、また、この承認をきっかけに、他の治療薬の開発への機運がさらに高まったのは確かと言えます。ファビピラビルの国内臨床試験は間もなくひとまずのメドを迎え、承認される日も近いとされています。また、国産薬という点では、ノーベル賞
ただし、これらの薬であっても投与された人がほとんどが治る・・・というものではなく、確固たる特効薬と呼ぶべき存在となるには、いくつかのピースが欠けていることは否めません。治療も含めたウイルスへの対策という大きな観点で考えた場合、薬で埋めきれないいくつかのピースを埋めるためには、やはり個人個人ができる予防策を実行することが重要であり、現時点ではそれが最も有効な「特効薬」なのかもしれません。
各メディアを通じて政府や医療機関などから連日報道されているように、手洗い、消毒、マスクを含めた咳エチケット、人が密集するような場所を極力避けること、などは各自で実行可能な予防策であり、仮に諸事情があって全てを充足できないとしても、できる限りの行動(努力)を継続していくことで、リスクを軽減することはできるはずです。また、先ほどふれた肝臓や腎臓の病気だけでなく、呼吸器疾患、糖尿病、心臓病などの持病がある人は感染による重症化のリスクが一般的に高いとされるため、それら
感染予防という面では、ワクチンの開発が世界各国で急ピッチで進められていますが、ワクチンによる
※「特例承認」に関して
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号) 第14条の3第1項に基づく「特例承認」により、その製造販売を認められたもの
(特例承認)
第十四条の三 第十四条の承認の申請者が製造販売をしようとする物が、次の各号のいずれにも該当する医薬品として政令で定めるものである場合には、厚生労働大臣は、同条第二項、第五項、第六項及び第八項の規定にかかわらず、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、その品目に係る同条の承認を与えることができる。
- 国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であり、かつ、当該医薬品の使用以外に適当な方法がないこと。
- その用途に関し、外国(医薬品の品質、有効性及び安全性を確保する上で我が国と同等の水準にあると認められる医薬品の製造販売の承認の制度又はこれに相当する制度を有している国として政令で定めるものに限る。)において、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列することが認められている医薬品であること。
【2020.04.21】
新型コロナウイルス感染症に対してワクチンの進展に沿った内容に記述を変更しました。
MEDLEY編集部
執筆者
1:ベクルリー®点滴静注液100 mg/ベクルリー®点滴静注用100 mg医薬品添付文書、ギリアド・サイエンシズ社
2:Holshue ML, DeBolt C, Lindquist S, et al. First Case of 2019 Novel Coronavirus in the United States. N Engl J Med. 2020 Mar 5;382(10):929-936.
3:Grein J, Ohmagari N, Shin D, et al. Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19. N Engl J Med. 2020 Apr 10. doi: 10.1056/NEJMoa2007016.
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。