1. 検査の最大の目的は、重症者の発生と死亡数を可能な限り減らすことにある
2月24日に政府専門家会議が「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」を示しました[1]。
私達がこれからの数週間でとるべき対策は、やみくもに検査を受けることではなく、この見解に従って、"感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすこと"です。
この見解の中で、PCR検査については以下のように記載されています。
PCR検査は、現状では、新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合に適切に実施する必要があります。 国内で感染が進行している現在、感染症を予防する政策の観点からは、全ての人にPCR検査をすることは、このウイルスの対策として有効ではありません。また、既に産官学が懸命に努力していますが、設備や人員の制約のため、全ての人にPCR検査をすることはできません。急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要があると考えます。 なお、迅速診断キットの開発も、現在、鋭意、進められています。 |
つまり、必要とされる患者さんに限ってPCR検査が行われるということです。
必要とされる患者さんはどんな人があたるのかというと、軽症の人(疑い例)ではなく、入院を要する肺炎でウイルスによるものが疑わしい人や医師が総合的に判断して新型コロナウイルス感染症が疑われる人などです[2]。
なお、1)風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続いている、2)強いだるさや息苦しさがある(高齢者や基礎疾患等のある人は、2日程度続く場合)に該当する場合は決して我慢することなく、「帰国者・接触者相談センター」に相談してください。
2. 必要とされる人のみに限って行われるべき理由
現在行われているPCR検査の精度には限界があります(詳しくはこちらのコラムで説明しています)。全ての人に検査をしたとしても正確に感染者と非感染者を区別することは困難で、陰性といわれた人の中に感染者が一定数含まれてしまいます。加えて、検査を必要な人のみに限るのには下記のような理由が挙げられます。
- 検査をするために患者さんが医療機関を受診して、かえって感染してしまうもしくは感染を拡大させてしまう可能性があること
- 検査が陰性だった患者さんの中に一部存在する感染者が、心の油断から症状があっても外出し、感染を拡大させてしまう可能性があること
- 検査目的で安易に受診する無症状・軽症患者さんが増えると、医療機関の負担がさらに増えて、診療継続が困難になってしまう可能性があること
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する特異的な治療薬がないため、無症状もしくは軽症の人が新型コロナウイルスに感染しているかどうか診断する価値が乏しいこと
風邪症状があっても軽症であれば、それが新型コロナウイルスによるものであってもそうでなくても治療法は同じです。身体をゆっくり休めて、自然に治るのを待ちます。
3. 可能な限り検査を行いたいという理由とそれに対する反論
一方で、可能な限り検査を行うべきという意見があります。
① PCR検査をすることで白黒つけたい
② 患者さんが求めているから、検査してあげたほうがよい
③ 検査を拡充させて発熱の人全員に検査を行えば、新型コロナウイルス感染者を速やかにみつけることができる
これらに対する反論を以下に記載します。
①について
新型コロナウイルスの日本国内の有病率(事前確率)がおそらくかなり低いと思われることと検査精度の問題から、陰性だからといって感染を否定することができません。なお、検査精度については標準基準となる検査がないため、現時点でははっきりと分かっていません。
②や③について
前述のように検査は万能ではありません。そのうえ、検査目的の患者さんを受け入れると、たくさんの人が医療機関を受診することで、かえって感染してしまうもしくは感染を拡大させてしまう可能性があります。また、医療機関に膨大な負担がかかり、必要な人に適切な医療が提供できなくなる恐れがあるため避けるべきです。
③について
感染者を早期発見したとしても、治療薬がないため、無症状や軽症の人を診断する意義は乏しいと思います。
4. まとめ
いずれにしても、この1~2週間で特に大事なことは、検査を求めて医療機関に殺到することではありません。不要不急の外出を避け、風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養することが大切です。また、手洗いを欠かさずに、予防に努めることも大切です。
1. 厚生労働省.新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解
2. 環境感染症学会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)―水際対策から感染蔓延期に向けて―
(2020.2.27閲覧)
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。