1.卵アレルギーは食物アレルギーのなかで一番多い
2016年に行われた食物アレルギーの全国調査で、原因となる食べ物のなかで最も多いのが卵で、全体の39.0%を占めることがわかりました。年齢別に調査をしたところ、0歳から19歳までのいずれの年齢でも、原因食物の1位は卵でした。
また、同じ2016年に東京都で行われた3歳児調査で、医師から除去するように言われている食べ物で最も多かったのも卵で5.8%でした。
このくらいたくさんの子どもが卵アレルギーをもっていますが、それぞれの症状はだいぶ異なっています。
2.卵アレルギーの程度はどのくらい?
卵アレルギーと一言で言っても、その症状はさまざまです。下記は分類方法ではありませんが、よくあるケースとしてご紹介します。
①卵のIgE値が陽性というだけで一度も食べたことがない
②卵が皮膚につくと赤くなるけれど卵入りのお菓子やケーキは食べられる
③しっかり火の通った卵料理は食べられるけれど半熟卵や卵スープを食べると症状が出る
④卵入りのお菓子は食べられるけれど卵をそのまま食べると症状が出る
⑤卵黄は食べられるけれど卵白は症状が出る
⑥卵黄も卵白も全く食べられない
①のような子どもは、血液検査上の反応だけで実は食べても大丈夫という場合も多いのです。ただし、食べても大丈夫かどうかの判断は医師へ相談してから行うべきです。また数値だけとはいえ、卵のIgE値が高い場合には経口負荷試験で食べられるかどうかを判断するほうが安全です。
②のような子どもは、卵がついたことによるかぶれの可能性が高いです。唇につかないようにしたり、食事の前に口周りにクリームやワセリンなどを塗って保護してから食べるようにします。これで症状が出なければ卵アレルギーの可能性は低いです。
③の子どもは軽症の卵アレルギーの可能性があります。
卵アレルギーは、卵に含まれているタンパク質が原因で引き起こされます。アレルギーの原因となる卵のタンパク質を、ここでは「卵タンパク」とよぶことにします。
加熱の程度によって卵に含まれる卵タンパクの量が大きく異なります。生卵に含まれる卵タンパク量はしっかりゆでた卵の10,000倍かそれ以上といわれています。そのため、卵焼きやゆで卵のようにしっかり加熱された卵に含まれる卵タンパク量までは食べても大丈夫だけれど、半熟卵など加熱不十分な卵料理に含まれる卵タンパク量では症状が出てしまう状態だと考えられます。
同じように④の子どもも軽症の卵アレルギーの可能性があります。
お菓子に入っている卵は少量なので食べても大丈夫だけれど、卵そのものを食べた場合に含まれる卵タンパク量では症状が出てしまう状態です。これらの子どもは血液検査を行って、卵のIgE値がどの程度であるのかを調べる必要があります。
ここで卵のIgE値についてのお話です。
卵のIgE値には3種類あります。
- 生の卵白に多く含まれているタンパク質に反応するIgE抗体の量を表す卵白IgE値
- 生の卵黄に多く含まれているタンパク質に反応するIgE抗体の量を表す卵黄IgE値
- 加熱しても残るタンパク質(オボムコイド)に反応するIgE抗体の量を表すオボムコイドIgE値
おおまかな考え方としては、卵白のIgE値が高くオボムコイドのIgE値が低い場合には加熱をしっかりした卵であれば食べられる可能性が高く、オボムコイドのIgE値が高い場合には加熱をしていても食べられない可能性が高い、ということです。
⑤の子どもは中程度から重症の卵アレルギーの可能性があります。この場合にも3種類の卵IgE検査を行い、それぞれの数値を評価しながら食べられる最大量での卵黄を食べ続けていくことが、いずれ卵白も食べられるようになる近道と考えられます。
⑥の子どもは重症の卵アレルギーの可能性が高いです。同じように卵IgEの値を調べることが重要ですが、卵黄も含めた卵の完全除去が必要になります。その後IgE値が低下した場合でも、経口負荷試験で少量の卵黄が食べられるかを確認することが安全です。
3.卵の加工品について
卵焼きやゆで卵などの卵が見える食べ物については卵であることが明らかですが、お菓子や料理の材料として含まれる卵の量がどれくらいであるのかはわかりにくいものです。作り方によって卵の含まれる量は大きく変わってはきますが、一般的な作り方で作った場合には、下の表のようにおおよそ分けられます。
【加工品に含まれる卵タンパクの量】
含まれる卵タンパクの量 | ゆで卵白に換算した量 | 加工食品(多い順) |
多い | 1個分 | マヨネーズ 卵スープ 茶碗蒸し・プリン カスタードクリーム オムレツ 目玉焼き 1個分 厚焼き玉子 1個分 |
やや多い | 1/2個分 | カステラ1切れ バウムクーヘン1/2個 シフォンケーキ1切れ ショートケーキ1切れ |
中くらい | 1/4個分 | ホットケーキ1枚 お好み焼き1枚 ドーナツ1個 ハンバーグ1個 とんかつ1枚 |
少ない | 1/8個分 | うずら卵(ゆで)1個 コロッケ1個 中華麺1玉 から揚げ3個 スティックパン1本 |
とても少ない | 1/20個分未満 | クッキー1枚 ビスケット1枚 卵ボーロ10-20粒程度 ちくわ1/2本 かまぼこ1枚 |
今食べられる卵の量から考えて同じ程度の卵タンパクを含む加工品を食べることは安全ですが、加工品の一つが食べられたからといって同じ程度の卵そのものが食べられるとは限りません。卵アレルギーをもつ子どもは経口負荷試験で食べられる卵の量を確認することが重要です。
4.卵のタンパク質を含まない食品
ラムネ菓子などに含まれる「卵殻カルシウム」には卵のタンパク質はほとんど含まれないため卵アレルギーの子どもでも食べることが可能です。また、鶏肉や魚卵にも卵タンパクはまったく入っていないため、これらを除去することも必要ありません。
5.卵のタンパク質を含む医薬品に注意
医薬品のなかには卵タンパクを含むものがあります。総合感冒薬や咳鼻用のお薬、トローチ、歯磨き粉などにも卵成分が含まれている場合があります。多くの患者さんには重い症状が出ることはありませんが、ごく少量の卵でも重い症状が出る患者さんはこのようなお薬を避けた方がいいでしょう。
インフルエンザワクチンは、ワクチンに使用するウイルスを鶏卵の中で培養する過程があるため、ごくごく微量ですが卵タンパクが含まれている可能性があります。そのため、卵の完全除去中であったり卵を食べてアナフィラキシーを起こしたことがある場合は、専門施設で皮膚テストなどを行いワクチン接種が可能かどうか判断してもらう必要があります。
6.3-4歳で自然に食べられるようになることが多い
卵アレルギーがある子どもも、成長とともに自然に食べられるようになることが多いとわかっています。海外では1-2歳で50%程度の子どもが自然に卵を食べられるようになったという報告があります。日本での調査では3歳で30.9%、4歳で49%、5歳で59%、6歳で66%と報告されています。アトピー性皮膚炎や卵アレルギーの症状の重症度などによって異なりますが、だいたい3-4歳で半分程度の子どもが食べられることが多いとされています。
また、症状がないのに除去をし続けるといった不必要な除去をしないことも大切です。除去は必要最小限にとどめて、安全に食べられる最大量を美味しく続けて食べていきましょう。卵をずっと食べずに育った子どものなかには、卵を見ただけで嫌がってしまう子もいます。そのような場合には、上の表のような加工品に変えたり、他の食物アレルギーがなければカレーやヨーグルトなど味や色が紛れてしまう食べ物に入れたりするなど工夫が必要です。
卵アレルギーのある子どもを育てている親御さんにはたくさんの悩みがあると思います。「病院の先生からは食べ続けるように言われたけれど、うちの子はなかなか食べてくれない・・」といったご相談も多く耳にします。そのような場合に子どもや親御さんにより近い立場で一緒にアレルギーの相談ができる役割として、小児アレルギーエデュケーター(PAE)がいます。PAEはまだまだ全国的には不足している段階ですが、徐々に増えています。お困りの場合にはPAEのいるアレルギー専門病院を受診して相談してみてください。
執筆者
1. 今井孝成, ほか. 全国調査でのわが国の即時型食物アレルギーの実態. アレルギー. 2016, 65 : 942-946
2. 児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書. 公益社団法人日本学校保健会, 2016
3. 伊藤節子, 食物アレルギー患者指導の実際. アレルギー. 2009, 58(11) : 1490-1496
4. おいしく治す食物アレルギー攻略法. あいち小児保健医療総合センターアレルギー科認定, NPO法人アレルギー支援ネットワーク, 2014
5. 食物アレルギー診療ガイドライン2016
6. PAE所属施設
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。