軽度認知障害のガイドラインを更新
アメリカ神経学アカデミーが、軽度認知障害の診断や治療について、2001年版のガイドラインを更新し、新版として公表しました。新版の概要が専門誌『Neurology』にも掲載されています。
軽度認知障害は認知症に至る手前の段階と考えられています。軽度認知障害がある人の一部が認知症に進行します。
ガイドライン作成にあたった研究班は、4点の疑問に答えるよう、文献の収集を行いました。
- 一般人口の中で軽度認知障害を持つ人の割合はどれくらいか
- 軽度認知障害を診断された人のうち、将来認知症と診断される人はどの程度で、一般人口に比べてどうか
- 軽度認知障害を診断された人に有効な薬物治療はあるか
- 軽度認知障害を診断された人に有効な、薬物以外の治療はあるか
運動・訓練を推奨、コリンエステラーゼ阻害薬は使わなくてもよい
見つかった文献のデータから、軽度認知障害がある人の割合は下記のとおりと計算されました。
- 60歳から64歳:6.7%
- 65歳から69歳:8.4%
- 70歳から74歳:10.1%
- 75歳から79歳:14.8%
- 80歳から84歳:25.2%
認知症と診断される割合についても、見つかったデータから計算されました。軽度認知障害(または「認知症のない認知機能障害」)がある65歳以上の人では、2年後までに認知症と診断される人が14.9%でした。軽度認知障害(または認知症のない認知機能障害)がある人は、同じ年齢のほかの人に比べて、2年後から5年後までに認知症と診断されている割合が3.3倍でした。
薬物治療については、ドネペジル、フラボノイドを含む飲料、ビタミンEなどの効果を試した研究が見つかりましたが、有効と確認できたものはありませんでした。
ドネペジルはコリンエステラーゼ阻害薬に分類される薬で、アルツハイマー病による認知症などに対して使われていますが、ここでは軽度認知障害から認知症に進行することを防ぐ効果が確認できませんでした。
薬物以外の治療について、運動や認知機能訓練を試した研究が見つかりました。
認知機能訓練についてはさまざまな方法が試されていましたが、すべてをまとめて計算すると、不確かながら、認知機能を改善する可能性があると推定されました。
運動の効果を調べた2件の研究の結果によると、週に2回の運動を6か月続けることで認知機能の改善があると推定されました。
研究班は以上の調査結果をもとに推奨事項をまとめました。その一部は次のような内容となりました。
- 行動症状を治療したうえで、可能なら認知機能に悪影響を及ぼす可能性のある薬は中止する
- コリンエステラーゼ阻害薬を患者に勧めないと判断してもよい
- コリンエステラーゼ阻害薬を患者に勧める場合、効果の証拠がないことについて最初に話し合わなければならない
- 運動を患者に勧める
- 認知機能の訓練を患者に勧めてもよい
軽度認知障害に対してできること
アメリカの学会による、軽度認知障害についてのガイドラインを紹介しました。
認知機能に影響する要素はさまざまで、対策としてできることがある場合もあります。たとえばこのガイドラインも、薬の副作用などによって一時的に認知機能が悪化している場合や、運動による改善が見込める点に触れています。
認知症や軽度認知障害はいまだに抗いがたい面が多く残されていますが、適切な診断と治療を受けることで利益を得られる可能性も見つかってきています。
執筆者
Practice guideline update summary: Mild cognitive impairment: Report of the Guideline Development, Dissemination, and Implementation Subcommittee of the American Academy of Neurology.
Neurology. 2017 Dec 27. [Epub ahead of print]
[PMID: 29282327]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。