2018.01.16 | ニュース

認知症・尿漏れ・歩行障害のある「正常圧水頭症」が改善した70歳女性

ハーバード大学から報告

from The New England Journal of Medicine

認知症・尿漏れ・歩行障害のある「正常圧水頭症」が改善した70歳女性の写真

認知症の症状を現す病気のひとつに正常圧水頭症があります。正常圧水頭症の症状は治療で改善する可能性があります。脳室腹腔シャントという治療法で改善が得られた人の例が報告されました。

歩行障害・認知機能障害・尿失禁が現れた70歳女性

アメリカのハーバード大学の研究者2人が、正常圧水頭症に対して脳室腹腔シャントの治療を行った人で症状の改善を記録した動画などを、医学誌『The New England Journal of Medicine』で報告しました。

報告されている患者は70歳の女性で、2年間続いた歩きにくさ・認知機能の障害・尿漏れの症状から神経内科のクリニックを受診しました。

認知機能のテスト(MMSE)は30点満点中の12点で、7.6メートル歩くのに31秒かかりました。

 

正常圧水頭症を診断・治療して症状改善

診察と検査の結果、正常圧水頭症と診断されました。この女性でも現れていた認知機能の障害・歩きにくさ・尿漏れは正常圧水頭症の代表的な症状として知られています。

治療として、手術により脳室腹腔シャントを作る方法が使われました。

正常圧水頭症では、脳の周りを満たしている脳脊髄液という液体がたまりすぎています。脳の内部にある脳室という空間にも脳脊髄液が入っているのが正常ですが、正常圧水頭症では脳室が多量の脳脊髄液によって大きく広がります。この女性でも画像検査により脳室が拡大している様子が確認されました。

脳室腹腔シャントは、脳室から脳脊髄液を流し出す管を体に植え込み、管の先を腹部の臓器の隙間(腹腔)に置くことで、脳脊髄液が腹腔に排出されるようにしたものです。

脳室腹腔シャントを作ってから1か月後には尿漏れがなくなっていました。6か月後には、認知機能がMMSEで28点、7.6メートル歩く時間は6秒にまで改善しました。

「参考文献」のリンク先で、検査画像のほか、治療前・治療後1か月・治療後6か月の歩行の様子を記録した動画が見られます。

 

正常圧水頭症とその治療

正常圧水頭症による認知症などの症状が治療で改善した人の例を紹介しました。

正常圧水頭症に対する脳室腹腔シャントは日本でも行われている治療です。ほかにも腰椎腹腔シャントなどの治療があります。治療による害の可能性としては、ごくまれに脳内血腫などの深刻な状態が引き起こされるほか、脳脊髄液が減りすぎて頭痛がする場合や、感染が起こって管を取り除く必要が生じる場合などがあります。

認知症はさまざまな原因で現れます。アルツハイマー病による認知症やレビー小体型認知症、脳血管性認知症などが人数としては多いですが、正常圧水頭症により認知症が現れている人の中には、治療で認知機能が改善する人もいます。必ずしも「年のせい」「治らない」とは限りません。

紹介した女性は受診する前の2年にわたって症状を持って生活していましたが、同じように正常圧水頭症らしい症状がある人の中にも、放置せず医師の診察を受けることで楽になる人がいるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Ventriculoperitoneal-Shunt Placement for Normal-Pressure Hydrocephalus.

N Engl J Med. 2017 Dec 28.

[PMID: 29281574] http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1701226

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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