インスリンを打っていない2型糖尿病患者の血糖自己測定
アメリカのノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究班が、インスリン注射を使っていない2型糖尿病患者が血糖自己測定(SMBG)をする効果を調べ、専門誌『JAMA Internal Medicine』に報告しました。
糖尿病の治療効果を見るために、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という検査値がよく使われます。HbA1cは最近1-2か月程度の血糖値を反映します。HbA1cは「6.5%」を基準値として糖尿病の診断基準にも採用されています。インスリンを使う場合も、インスリン以外の飲み薬などで治療する場合も、HbA1cが治療目標のひとつとされます。
研究参加前にHbA1cが6.5%より高く9.5%より低かった人が対象とされました。対象者はランダムに3グループに分けられました。
- 血糖自己測定をしない
- 毎日1回血糖自己測定をする
- 毎日1回血糖自己測定をしたうえ結果に応じて自動メッセージが届く
52週後のHbA1cと、健康関連QoL(生活の質)で効果が判定されました。
自己測定をしてもしなくても同じ
52週後まで追跡できた418人の結果が解析されました。
3グループの間でHbA1cの値に有意な差はなかった(P=0.74、推定調整平均HbA1cの差はSMBG+メッセージ vs SMBGなしで-0.09%、95%信頼区間-0.31%から0.14%、SMBG vs SMBGなしで-0.05%、95%信頼区間-0.27%から0.17%)。健康関連QoLにも有意差がなかった。低血糖の頻度、医療機関の利用、インスリンの開始を含む主要な有害事象に特記すべき差はなかった。
血糖自己測定をしたグループとしなかったグループで、HbA1cに差がありませんでした。自動メッセージが加わっても同様でした。健康関連QoLにも差がありませんでした。低血糖などにも大きな差がありませんでした。
インスリンを打っていなければ自己測定は要らない?
インスリン使用中でない人が血糖自己測定(SMBG)をしても、さらに自動メッセージを加えてもHbA1cに差がなかったという報告を紹介しました。
日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2016』には「2型糖尿病でもインスリン治療中の場合は、SMBGの有効性が示されている。しかし、非インスリン治療の2型糖尿病にSMBGを推奨する根拠は乏しい」という記載があります。
血糖自己測定はインスリンの量を調整するなどの目的で処方されます。糖尿病治療では薬の効きすぎに注意が必要です。一時的に血糖値が下がりすぎる低血糖は、重度の場合は意識を失うなどの危険性があります。低血糖を起こさないで治療目標を達成するためには、血糖値の状態を正確に把握しておくことが役に立ちます。
しかし、測っただけで血糖値が改善するわけではありません。高ければ食事や運動を見直そうと考えるのは方向性として正しいことですが、それを理解し、実践して効果に結び付けるまでには多くの要素が関わっています。自動メッセージが加わってもその全体に大きな影響はなかったのかもしれません。
血糖値を測定する機器は処方によらず自分で購入することもできますが、適切な使いかたを外れてしまうと、効果は保証されません。
検査だけなら悪いことはないと思えるかもしれませんが、長年にわたる糖尿病治療の中では、費用などの面も無視できません。検査値を気にしすぎて生活に影響が出るのもよくないことです。血糖自己測定を考えるときは主治医の考えをよく聞いて、期待できる効果を知ったうえで判断してください。
執筆者
Glucose Self-monitoring in Non-Insulin-Treated Patients With Type 2 Diabetes in Primary Care Settings: A Randomized Trial.
JAMA Intern Med. 2017 Jun 10. [Epub ahead of print]
[PMID: 28600913]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。