2017.02.26 | ニュース

血圧の目標を150mmHgより下にすると何がいいのか

文献の調査から

from Annals of internal medicine

血圧の目標を150mmHgより下にすると何がいいのかの写真

高血圧の治療で血圧を下げる目標をいくらにするかは医師の意見に幅があります。過去の研究データをまとめる方法で、治療目標を変えたときの結果の違いが検討されました。

高血圧の診断基準は140/90mmHgです。高血圧の治療では、患者の年齢や体の状態によっても違いますが、おおむね収縮期血圧心臓が脈打つたびに、血管(動脈)は張ったり緩んだりを繰り返している。この張っている時の血圧。血圧が120/80であれば、120の部分に相当上の血圧心臓が脈打つたびに、血管(動脈)は張ったり緩んだりを繰り返している。この張っている時の血圧。血圧が120/80であれば、120の部分に相当)で130mmHgから150mmHgの間に目標値を設定し、目標値を下回るように薬などを使います。

2015年に報告された「SPRINT研究」では、心血管疾患心臓や全身の血管(主に動脈)に起こる病気の総称。ほとんどの場合は動脈硬化が原因となる、虚血性心疾患や脳卒中、末梢血管障害などを指す心筋梗塞脳卒中など)のリスクが高いと見られる人を対象に、収縮期血圧を120mmHg未満にすることを目標に治療したところ、140mmHgを目標とした場合に比べて死亡率が下がったという結果が提示されました

SPRINT研究は大きな反響を呼びましたが、120mmHg未満という従来よりも厳しい目標値に対して、現在(2017年2月)に至るまで懐疑的な意見もたびたび提示されています。

一般に、血圧を下げることは心血管疾患の予防になる一方で、薬の副作用などのリスクもあります。SPRINT研究以前にも、ある程度以上に血圧が低いことと認知症に関連があるとした報告などがあります。

 

今回紹介する研究は、文献を検索する方法により、2015年1月から2016年9月までの研究報告を集め、60歳以上の人を対象として、血圧を下げる治療の目標値によって結果が違うかを検討したものです。

調査から次の結果が得られました。

9件の試験から、血圧を150/90mmHg未満にコントロールすることで死亡率が下がり(相対リスク0.90、95%信頼区間0.83-0.98)、心臓イベントが減り(0.77、0.68-0.89)、脳卒中が減る(0.74、0.65-0.84)という高い強度の証拠が得られた。6件の試験から、より低い目標(140/85mmHg以下)にすることでわずかに有意データを分析して導かれた結果が、偶然ではなく「意味が有る」必然的な値であると推測できることに心臓イベントが減り(0.82、0.64-1.00)、脳卒中が減り(0.79、0.59-0.99)、死亡は有意ではなかったが少なく見られる(0.86、0.69-1.06)という低強度から中等強度の証拠が得られた。

高血圧治療で血圧150/90mmHg未満を目標としたときも、140/85mmHg以下を目標としたときも、統計的に心臓の病気や脳卒中を予防する効果が見られました。

死亡率について、150/90mmHg未満を目標としたときには死亡率が下がる効果が確かめられましたが、140/85mmHg以下を目標としたときの死亡率は若干低い計算値となったものの、統計的に偶然でないとは言えない範囲でした。

血圧を下げすぎることの悪影響については次の結果でした。

より低い血圧目標が転倒または認知機能障害を増やさないことが低強度から中等強度の証拠によって示された。

より低い血圧を治療目標とすることで、転倒が増えたり、認知機能が増えたりするといった悪影響はないと見られました。

 

150/90mmHgよりも低い目標を設定したときの結果として、これまでに知られている研究結果のまとめを紹介しました。

死亡率について、140/85mmHg以下を目標としたときの効果が統計的に確かめられなかった点は、必ずしも「140/85mmHg以下に下げても死亡率を下げる効果がないから」とは限りません。統計では多くのデータが集まるほど偶然の影響は小さくなるので、今回「偶然でないとは言えない範囲」だったものが、将来データが蓄積されることによって「効果がある」と言えるようになる可能性はあります。

いずれにせよ、現状としては「140/85mmHg以下を目標とすることで死亡率が下がるかどうかははっきりしない」と言える結果です。

SPRINT研究とは噛み合わない結果となりました。このように、多数の研究のデータをまとめたとき、全体としての結果と1件ごとの結果が一致しないことはよくあります。すなわち、SPRINT研究のデータだけでは過去に蓄えられてきた研究データを覆すほどの確かさはないと判定されたというのが今回の結果です。

1件の研究だけで医師が取る方針は変わりません。影響の大きい論点についてはこのようにさまざまな角度から再検証されることを通じて合意が形成されていきます。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Benefits and Harms of Intensive Blood Pressure Treatment in Adults Aged 60 Years or Older: A Systematic Review and Meta-analysis.

Ann Intern Med. 2017 Jan 17. [Epub ahead of print]

[PMID: 28114673]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。 [執筆者一覧]