聴力の変化を追跡調査
韓国とアメリカの研究班が、2002年から2014年にかけて行われた追跡調査のデータを解析した結果を『International Journal of Epidemiology』に報告しました。
この調査では、調査参加時に聴力検査が正常だった成人253,301人が対象となりました。
研究班は、対象者を糖尿病の有無によって3グループに分けました。
- 調査参加時に糖尿病だったグループ
- 空腹時血糖値126mg/dl以上、糖尿病と診断されたことがある、糖尿病治療薬の使用中(いずれかに該当)
- 調査参加時に前糖尿病状態だったグループ
- 空腹時血糖値が100mg/dlから125mg/dl、糖尿病と診断されたことがない、糖尿病治療薬は使用中でない(すべてに該当)
- 調査参加時に正常血糖値だったグループ
グループごとに、両耳の難聴が発生した頻度を比較しました。難聴の基準は聴力検査で0.5kHz、1.0kHz、2.0kHzの高さの音(人の声ぐらいの範囲)を聞き取れる最小の強さがいずれも25dBを超えることとしました。25dBは通常、軽度の難聴の基準とされます。
糖尿病だと難聴発生が1.36倍
調査データの解析により次の結果が得られました。
正常血糖値の参加者に比べて、難聴の新規発生に対する多変量調整ハザード比は、前糖尿病状態の参加者で1.04(95%信頼区間0.95-1.14)、糖尿病の参加者で1.36(1.19-1.56)だった。
1人が1年あたりに難聴になる頻度を比較すると、前糖尿病状態のグループでは正常血糖値のグループと統計的な差が確かめられませんでしたが、糖尿病のグループでは正常血糖値のグループよりも1.36倍多く難聴が発生していました。
研究班は「糖尿病患者は将来の難聴のリスクがやや増加する」と結論しています。
糖尿病は難聴の原因か?
糖尿病患者で難聴の発生が多かったというデータを紹介しました。
糖尿病は全身で動脈硬化を起こします。動脈硬化は加齢によって誰にでも起こる現象ですが、糖尿病によって明らかに悪化します。全身の血管が変化し、血行が悪くなることによって、糖尿病網膜症により失明したり、足の切断や血液透析が必要な状態につながる原因となります。
耳の奥で音を感じる器官に糖尿病の悪影響が現れることも考えられます。
難聴には糖尿病以外の原因もあります。とはいえ、もし予防できる難聴があるなら、手を打つ価値はあるかもしれません。
ここで紹介した研究だけで、糖尿病を治療することが難聴予防になるかどうかはわかりません。しかし糖尿病は、さまざまな危険性がある、治療が必要な状態です。もし難聴とも関係があるとすれば、治療するべき理由が加わることになります。
糖尿病にともなう結果をさまざまな観点から検証することが、危険性の全容をより正確に把握し、対処するべき重みを正しく評価することにつながります。
執筆者
Diabetes mellitus and the incidence of hearing loss: a cohort study.
Int J Epidemiol. 2016 Nov 6. [Epub ahead of print]
[PMID: 27818377]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。