◆手術 vs 保存的治療の研究を調査
ここで紹介する研究は、前十字靭帯損傷の治療のうち手術と保存的治療を比較するため、文献データベースから過去の研究を集めて評価し、まとめたものです。
取り上げる研究の基準として、対象者をランダムに手術と保存的治療に振り分ける方法の研究を選びました。
◆1件の研究で差がなし
見つかった1件の研究で、手術をすると決めたグループと、まずリハビリテーションで治療してあとから手術をしてもよいとしたグループが比較され、次の結果が出ていました。
この研究により、主観的膝スコア(極度の症状で0点、無症状で100点とするKOOSスコアの5種のサブスケールのうち4種の平均スコアによって計測する)は前十字靭帯再建術と保存的治療の間には、2年時点で差がなく(ベースラインからのKOOS-4変化量の平均差-0.20、95%信頼区間-6.78から6.38、121人の参加者、低い質のエビデンス)、5年時点でも差がない(KOOS-4の最終スコアの平均差-2.0、95%信頼区間-8.27から4.27、120人の参加者、低い質のエビデンス)ことが見いだされた。
手術のグループと保存的治療のグループで治療から2年後、5年後の膝の症状に差が見られませんでした。
この研究について研究班は「ただし、前十字靭帯損傷のある多くの参加者がリハビリテーションのあとにも症状が残り、のちに前十字靭帯再建手術の適応となったという文脈のなかでこれらの結果を見る必要がある」と考察しています。
手術なしで治療することを目指し、あとで必要と思われたときに手術しても最初から手術するのに劣らない結果が得られるとすれば、まずはリハビリテーションで始めるという選択も合理的と言えるでしょう。
この調査では1件だけしか条件に合う研究が見つかりませんでしたが、新しい研究が行われて違う角度の情報も集まれば、さらに手術の良い面と悪い面がはっきりしてくるかもしれません。
執筆者
Surgical versus conservative interventions for treating anterior cruciate ligament injuries.
Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 3.
[PMID: 27039329]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。