◆変形性膝関節症の膝の痛みにどんなサプリメントが飲まれているの?
変形性膝関節症は、膝の痛みや関節の変形を主な症状として、日常生活に支障が出ることもある病気です。リハビリとして筋力トレーニングや関節を動かす練習をしている方は多く、重症化している場合は手術も一般的な治療です。一方、「朝、膝が少し痛むんです」「階段の上り下りで少し痛むんです」「日中、長い距離歩くと痛みます」、ただし「病院に行くほどの痛みではないんです」といった方もいます。
そのような方のことを思えば、「友達に勧められて膝の痛みに効くサプリメントや食品を飲んで(食べて)いるのですが、効果はあるのでしょうか?」という疑問は自然なものかもしれません。「サプリメントや食品の効果」はメディアでもよく話題になり、実際に数十種類のサプリメントを飲んでいる方もいらっしゃいます。膝の痛みと結び付けて語られるサプリメントには、グルコサミンとコンドロイチン硫酸がありますが、果たして、この成分が含まれているサプリメントは膝の痛みに効果があるのでしょうか?
まずグルコサミンとコンドロイチン硫酸について説明します。
- グルコサミン
- グルコサミンは、「糖」のひとつです。軟骨に含まれるプロテオグリカンのもとになる物質として知られています。
- コンドロイチン硫酸
- 前述のプロテオグリカンのもととなる成分のひとつです。
グルコサミンもコンドロイチン硫酸も、軟骨を構成する物質である、という理由で注目されています。しかし、ここでひとつ気をつけないといけないことは、まず「軟骨を構成する物質」を「口から飲む」ことによって、軟骨に行き渡るのか?という観点です。さらに、もし行き渡るとしても、人間の体にはたくさんの関節があり、それが「傷んでいる膝に集まる」ことはあるのだろうか、という点も考えなければいけません。注意する点は他にもありますが、それらの疑問点を考える上で、変形性膝関節症はどのようにして起こるのか(原因)、その原因にサプリメントは影響するのか、さらに研究ではどのように言われているのか、といったことが材料になります。
そこで次に、変形性膝関節症の原因とサプリメントの効果について研究や公的機関で言われていることを解説します。
◆変形性膝関節症の原因とサプリメントの効果について解説
変形性膝関節症の膝の痛みに対して、グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントは効果があるのでしょうか?
変形性膝関節症の原因は、長い年月をかけて、膝の関節で軟骨がすり減ることです。軟骨がすり減りやすくなる原因としては、体重が重いことや、運動による膝への負荷が大きいこと、膝への負担を守る靭帯や半月板の損傷、股関節や足関節などのケガや病気で膝への負担が大きいことなどが考えられています。変形性膝関節症は関節の変形を伴う(特にO脚)ことが多いのも特徴です。
膝の痛みが主な症状としてあらわれますが、痛みのせいで日常生活の活動が制限され、運動量・活動量が低下し、そのため筋力やバランス能力が低下し、運動しないため血流も悪くなり、また膝への負担を減らす筋力が低下することと血流が悪くなることで、さらに痛みが強くなるといった悪循環に陥ります。
このような特徴があり、根本的な原因のひとつである「軟骨がすり減ること」に対して、軟骨を構成する成分を摂取した方が良いのではないか?という考えが、おそらくそのようなサプリメントを支えているのでしょう。
それでは、実際にグルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントを飲むことで、すり減った軟骨が改善することはあるのでしょうか?動物実験では、軟骨が再生したという報告と、軟骨は再生しないという報告があります。一方、人を対象とした研究では、軟骨が再生するか画像検査で検討したものがありますが、それについては「効果があるとは言えない」という結果でした。そもそも、口から入ったグルコサミンやコンドロイチンは体内で分解されるのですが、それが軟骨の成分に再合成されることはあるのだろうか?という疑問が残ります。ちなみに、効果があるという論文もあるのですが、そのサプリメントを飲む量や継続期間などは実現可能性が高いとは言えない方法であるようです。
一方、軟骨がどうなったか、という視点ではなく「痛みはどうなったか?」という視点に基づいた研究も多く行われています。これに関しては、BMJという医学雑誌で検証されています(※有名な雑誌に掲載されている=信用できる、ということではありません)。この研究では、過去に行われた10の研究(合計3,803人の変形性関節症の患者)のデータを使ってグルコサミン、コンドロイチンの効果を調べたものです。効果は痛みについて調べており、痛みのスケール(10cmの線上で、自分の痛みがどの程度か示してもらう検査。0cmを全く痛みがない、10cmを想像できる最大の痛みとしている。)を使っていました。
結果は、グルコサミンを飲んだ群ではプラセボ群(偽薬群)よりも、平均で0.4cm改善したというものでした。コンドロイチンを飲んだ場合、グルコサミンとコンドロイチンを併用した場合では、統計的に偶然ではないと言える効果はありませんでした。この0.4cm(4mm)という数値を想像してみてください。感じ方はそれぞれかと思いますが、この論文では「臨床的に意味があるほど、痛みに対してグルコサミンとコンドロイチンの効果はない」と結論付けています。(参照論文:Wandel S, et al. Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis. BMJ. 2010)
この研究に関しては、様々な意見がありました。いくつかの研究をまとめて全体の効果を検証するという手法を取っているため、一般的には1つの研究のみで出される結論よりも強い結論が言えるという反面、少し異なる方法を取っているものを一緒に検証しているという点もあるためです。この議論は専門家の中で行われているものですが、いずれにしても「効果がある」と言い張れるほどの根拠はない、という結論を考えている専門家が多い現状です。
また、この論文が世に出される前には、アメリカ食品医薬品局(FDAと呼ばれています)というアメリカの政府機関は同様に、「グルコサミンとコンドロイチン硫酸に、健康上の有効性を示す、または変形性膝関節症などの危険性を減らすほどの信頼できる根拠はない」(参照元:FDAホームページ ※英語のホームぺージです)と結論付けています。
以上のように、変形性膝関節症の膝の痛みにグルコサミンやコンドロイチンが効果があるとは言えない、ということが多くの意見なのかもしれません。
しかしながら、これらのサプリメントを飲むことで痛みが良くなった、という方がいることも事実です。これは、「サプリメントの効果」と言って良いかはわかりません。サプリメントを飲むことで気持ち的に良くなったことが理由かもしれないためです。このような気持ち的な改善も期待するのであれば、サプリメントの使用は否定されるものではありません。ただし、以下の2点には注意が必要です。
- サプリメントの過剰摂取による体調不良
- サプリメントの摂取により、適切な医療を受けなくなる
サプリメントの過剰摂取による体調不良は起こりうることです。グルコサミンやコンドロイチンの場合では、「副作用はなく安全である」と示されていることもありますが、実際には「胃腸症状」が出る場合があります。いずれにしても、過剰摂取には注意が必要です。
それでは、サプリメントが期待できないとすると、変形性膝関節症の膝の痛みに有効であると言われている治療法は、どのようなものがあるのでしょうか?
◆変形性膝関節症の治療で効果があると言われている方法とは?
変形性膝関節症の痛みを改善する方法としては、以下の治療法の有効性が検証されています。
- 筋力トレーニング、ストレッチなどの運動療法
- テーピング
- 膝サポーター
- 物理療法(温めたり、電気刺激を行う治療法)
- 徒手療法(専門家が関節を動かしながら、治療を行う方法)
- 動作練習(歩き方や動作の方法を習得する練習を行う)
- 足底挿板療法(靴の中敷に工夫を施して、歩き方を改善する)
- 手術(人工関節置換術など)
これらの治療法の中にも検証段階のものもありますが、専門家の指導のもと、行うことができます。
以上で、変形性膝関節の膝の痛みに対するサプリメント(グルコサミンやコンドロイチン)の効果に関して、解説しました。膝の痛みを早く治療したいと思っている方も多いと思います。取り入れている方法で本当に良くなるか、といった視点を持ちつつ、サプリメントは「気持ち」だと思って飲むのが賢い付き合い方かもしれません。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。