2016.02.07 | コラム

インフルエンザに伴う発熱に使う解熱剤(アセトアミノフェン など)に関して

解熱鎮痛薬で気をつけるべきこと
インフルエンザに伴う発熱に使う解熱剤(アセトアミノフェン など)に関しての写真
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この記事のポイント

1.発熱はどのようにおこるのか?
2.抗インフルエンザ薬は熱を下げる薬ではない!?
3.アスピリンはインフルエンザによる発熱には使えない??
4.インフルエンザによる発熱に推奨される解熱薬とは?

インフルエンザは多くの場合、高熱により体力などを奪い、重症化し命に関わることも少なくない感染症です。タミフルなどの抗インフルエンザ薬はインフルエンザの症状が出てからあまり時間が経っていない場合(通常、症状が出てから48時間以内)に投与されます。

しかし、抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖を抑える薬であり、直接熱を下げる薬ではありません。そこで高熱が続く場合には解熱薬が使用されるのですが、解熱剤であれば何を使ってもいい・・・というわけではなく解熱剤の中には使用するとかえって危険な症状を引き起こす可能性が高くなる薬もあります。ここではインフルエンザ発症時に使用される解熱剤に関して解説します。

 

◆ 発熱はどのようにおこるのか?

発熱というと「辛く、身体に悪いもの」というイメージを持つかもしれませんが、実際には体にダメージを与える何らかの原因に対して免疫が対抗しようとする自らを守る防御作用の一つと言えます。

ウイルスや細菌などが侵入してくると、体は熱を出して対抗しようとします。この理由として、ウイルスや細菌などが熱に対して弱いことや、体温を上げることでウイルスに対する免疫機構が活発になるため、などであると言われています。

もう少し詳しく見ていくと、ウイルスや細菌などが体内に侵入すると免疫を担う白血球やマクロファージなどの細胞が異物(ウイルスや細菌など)を取り込み、サイトカインという物質が作られます。サイトカインの中には炎症性サイトカインという熱や炎症などを引き起こす内因性発熱物質があり、これらの物質が関与してプロスタグランジンという伝達物質が生成されます。この物質が、脳に熱などに関する情報を伝えることで、脳の視床下部と呼ばれる部位から、体に「発熱」の指令が出され症状としてあらわれるのです。

 

◆ 抗インフルエンザ薬は熱を下げる薬ではない!?

現在、いわゆる「抗インフルエンザ薬」と呼ばれる薬は5種類(5種類の成分)あります。

一般的によく使われている薬は、ウイルスの増殖に関わるノイラミニダーゼという酵素を阻害することでウイルスの増殖を抑えるノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれる種類の薬です。

インフルエンザ薬としてその名前をよく耳にする「タミフル®」はノイラミニダーゼ阻害薬の一つです。ノイラミニダーゼ阻害薬にはオセルタミビルリン酸塩(商品名:タミフル®)、ザナミビル水和物(商品名:リレンザ®)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名:イナビル®)、ペラミビル水和物(商品名:ラピアクタ®)があり、A型及びB型のインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス効果が期待できます。

またA型インフルエンザに対して使うアマンタジン塩酸塩(主な商品名:シンメトレル®)という薬もあります。アマンタジン塩酸塩はウイルスが細胞に侵入する段階に作用しウイルスの増殖を抑えるとされています。抗インフルエンザ薬としては、タミフル®などのノイラミニダーゼ阻害薬に比べるとB型インフルエンザには無効とされA型インフルエンザでしか効果が期待できないことなどから、現在インフルエンザ治療へ使用されることは稀です。ただし、アマンタジン塩酸塩はパーキンソン症候群などの治療薬としても使用されていて、こちらの用途では現在でも多くの患者さんに使用されている薬となっています。

タミフル®などのノイラミニダーゼ阻害薬にしろ、アマンタジン塩酸塩にしろ、ウイルスの増殖を抑えることで症状の重症化を防ぐ・・・という薬なので、これらの薬自体に直接、熱を下げる効果はありません。ウイルスの増殖が抗インフルエンザ薬によって抑えられている間に体が回復した結果、発熱などの症状が緩和し健常な状態に戻るのです。このように抗インフルエンザ薬があくまでウイルスの増殖を抑えるものであり、インフルエンザの高熱で苦しい時に一時的に熱を下げるには、いわゆる「解熱剤」を使用する必要があります。

 

◆ アスピリンはインフルエンザには使えない?

当然かもしれませんが、熱を下げるには通常、解熱剤を使います。一般的な解熱剤をもう少し詳しく説明すると、体の中で熱や痛み、炎症などをおこす化学物質などを抑えることで効果をあらわす解熱鎮痛剤となります。一般的に表現するところの「痛み止め」とはこの解熱鎮痛剤を指すことが多く、処方薬だけでなく市販薬としても多くの成分・種類が流通しています。

さて有名な解熱鎮痛剤と言えば・・・一般的に多くの方がイメージするのが「バファリン」ではないでしょうか?

医療用としては「バファリン®配合錠A330」、市販薬としては「バファリンA」などの名称で使われていて熱、頭痛、生理痛、筋肉痛など色々な用途で使用されています。これらの製剤の主な成分はアスピリン(正式名:アセチルサリチル酸)という成分なのですが、このアスピリンを含めていくつかの解熱鎮痛剤をインフルエンザの症状に使用すると体に思わぬ障害をもたらす可能性があります。

インフルエンザには危険な合併症としてインフルエンザ脳炎・脳症といった神経合併症があります。頻度は稀ですが特に小児に多く、発症すると重症化し死亡に至ることもあります。

インフルエンザの発熱に対して、アスピリンやエテンザミドなどのサリチル酸系と呼ばれる種類の薬の他、メフェナム酸(商品名:ポンタール® など)やジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン® など)といった解熱鎮痛剤を使用するとインフルエンザ脳炎・脳症、ライ症候群といったものが発症する危険性が高くなるとされています。医療機関に受診した場合はインフルエンザ(又はインフルエンザが疑われる症状)でこれらの成分を含む解熱鎮痛剤が処方されることはないとは思いますが、市販薬は医療機関での診察無しで購入できてしまうことや同じような名前でも含まれている成分が異なる場合などがあるため、特に注意が必要と言えます。(例えば、市販薬において「バファリンA」の主成分はアスピリンですが、「バファリンプレミアム」はアスピリンを含まずイブプロフェンなどを主成分とする製剤です)

インフルエンザに感染した時やインフルエンザに感染した可能性がある時は自己判断でむやみやたらに解熱鎮痛剤を服用することは避けるべきです。

 

◆ インフルエンザによる発熱で推奨される解熱鎮痛薬は?

日本ではインフルエンザの発熱時に使用する解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンという薬が推奨されています。アセトアミノフェンはカロナール®、コカール®、アンヒバ®、アルピニー®などの名称で処方される薬で、市販薬でも「タイレノールA」などの製剤が販売されています。また市販薬の「バファリン」の名称を持つ製剤の中でも「小児用バファリンCII」はアセトアミノアミノフェンの製剤です。

アセトアミノアミノフェンは一般的な解熱鎮痛剤とは少し異なる機序で熱や痛みを緩和する薬剤とされていて、一般的な解熱鎮痛剤に多いとされる胃腸障害などの危険性も少ない薬剤です。また喘息などの呼吸器疾患をもつ人にも比較的安全に使用できるとされ、小児から高齢者まで幅広い年代で使用できるのもメリットの一つとなっています。

インフルエンザの発熱に対してはロキソプロフェンナトリウム(商品名:ロキソニン® など)も処方されることがありますが、小児などへの安全性が確立していないことなどもあり、ことインフルエンザによる発熱に対してはアセトアミノフェンに軍配をあげざるをえません。

またアセトアミノフェンには処方薬として錠剤以外に散剤、シロップ剤、坐剤などがあり、用途や嚥下能力などに合わせた剤形の選択が可能な点も推奨される要因となっています。

 

ここでは主にインフルエンザの発熱に対する解熱剤に関して紹介してきましたが、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤においても、タミフル®などの抗インフルエンザ薬においてもウイルスを直接倒す薬ではありません。インフルエンザに対しては、やはりワクチン接種やうがいや手洗いなどの日頃からの予防が重要です。それでも感染してしまった場合は、薬による治療と並行して脱水症状を防ぐため小まめに水分摂取をしたり、十分な休養をとるなど体調を整えることが大切です。

執筆者

MEDLEY編集部

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。