2015.10.25 | ニュース

吸入インスリンは注射より効くのか?副作用は?

13件のシステマティックレビュー
from The lancet. Diabetes & endocrinology
吸入インスリンは注射より効くのか?副作用は?の写真
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糖尿病の代表的な治療に、血糖値を下げるホルモンのインスリンがあります。インスリンの注射が広く使われていますが、吸入剤として体に取り込ませる試みもあります。吸入インスリンの効果について、これまでの研究結果がまとめられました。

◆吸入インスリンとは

インスリンはタンパク質の一種であり、飲むと胃や腸で分解されてしまうため、飲み薬にすることができません。患者自身が注射する方法がよく使われ、痛みが少ない注射器などさまざまな工夫がなされていますが、鼻の粘膜から吸収させるなどの方法も研究されています。テクノスフェア®吸入インスリンは、吸入器を使って口から吸いこむ薬剤です。

インスリンには血糖値やHbA1cの値を下げる効果があり、副作用として血糖値が一時的に下がりすぎること(低血糖が特に注意を要すると言われています。

 

◆吸入インスリンの研究を収集

研究班は、過去の文献を検索し、テクノスフェア吸入インスリンの糖尿病に対する効果と安全性について、偽薬、インスリンの皮下注射、飲み薬の糖尿病治療薬のいずれかを使った場合と比較した研究を集めました。

見つかった研究の内容を吟味したうえ、データを統合して、吸入インスリンを評価しました。

 

◆注射のほうが効果が大きいが、吸入は低血糖が少ない

次の結果が得られました。

13件の試験が定性的システマティックレビューの採用基準を満たした。うち12件は定量的メタアナリシスの採用基準を満たした(n=5,273、年齢の範囲18歳から80歳)。HbA1cのベースラインからの減少量はTechnosphere吸入インスリンよりも皮下インスリンで大きかった(正味差分0.16%、95%信頼区間0.06-0.25、8件の試験)。しかし、吸入インスリンはより少ない体重増加(正味差分-1.1kg、-2.1から-1.6、3件の試験)、深刻な低血糖のより小さいリスク(オッズ比0.61、95%信頼区間0.35-0.92、5件の試験)と関連した。軽度で一過性の咳の発生が、比較された治療群に割り付けられた人に比べて、吸入インスリンに割り付けられた人で増加し(オッズ比7.82、6.14-10.15、7件の試験)、1秒量の減少も見られた(正味差分-0.038l、-0.049から-0.026、5件の試験)。

見つかった研究のうち12件のデータを統合したところ、HbA1cを減らす効果は、吸入インスリンよりもインスリン皮下注射のほうが大きいという結果でした。吸入インスリンを使ったときは、インスリン注射を使ったときよりも体重増加が少なく、重症の低血糖が少なくなりました。副作用として、軽度の咳と、呼吸機能のわずかな悪化が見られました。

研究班は「安全性についてより多くのデータが利用できるようになるまで、テクノスフェア吸入インスリンは糖尿病のある健康な成人で、呼吸器疾患がなく、これを使わなければインスリン注射が使えないか使いたくないためにインスリン治療の開始または強化が遅れるであろう人に限り使われるべきである」と結論しています。

 

糖尿病をより効果的に、かつ安全に、患者の負担が少なくなるように治療するために、こうした研究も行われています。吸入インスリンは日本では未承認ですが(2015年10月時点)、将来検討されることがあるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Efficacy, safety, and patient acceptability of Technosphere inhaled insulin for people with diabetes: a systematic review and meta-analysis.

Lancet Diabetes Endocrinol. 2015 Sep 1 [Epub ahead of print]

[PMID: 26341170]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。