発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の注意点について
PNHでは
1. 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の注意点について
PNHは非常に珍しい病気であり、注意点に関する情報も限られています。ここでは現時点で知っておいた方が良い以下の注意点に焦点を当てていきます。
- 感染対策
- 妊娠時の注意点
- 知っておきたい医療費助成制度のこと
- お医者さんと相談した方が良い状況
以下でそれぞれにつき説明していきます。
2. 感染対策
PNHの人で大事な日常生活の注意点として、「感染症にかからないこと」があります。その理由は2つあります。
一つ目は感染症になると、PNHの
もう一つの理由は、感染症になるとPNHの薬を中止しなくてはならないためです。ソリリス®、ユルトミリス®、
このようなことが起こらないためには日頃から感染対策に努めておくことが重要です。具体的に日々できる感染対策としては以下のことがあります。
- マスクの着用
- 手洗いの徹底
- 人混みはなるべく避けるようにする
- 同居している人で体調が悪い場合には、部屋をわけるなどの工夫をする
- 可能な限り予防接種を打っておく
予防接種の中にはPNHの治療が始まった後には打つことができないものがあります。そのため、予防接種についてはよくお医者さんと相談しながら、打つものを決めるようにしてください。また、PNHの人で熱やだるさなどの感染症が疑われる場合にも早めにお医者さんに相談するようにしてください。
3. 妊娠時の注意点
以前はPNHの患者さんは妊娠を避けるべきだと考えられてきました。しかし、最近ではPNHの患者さんも症状が安定していれば、妊娠することは可能であると考えられています。ただし、妊娠時にはいくつか注意点があります。
- 妊娠はPNHの症状が安定している時に行う
- 妊娠によりPNHが悪化するリスクを理解しておく
- 抗補体モノクローナル
抗体 製剤を使う場合にはソリリス®を使う
以下で詳しく説明していきます。
妊娠はPNHの症状が安定している時に行う
妊娠中は使用した薬剤が赤ちゃんに移行する可能性があるため、使用できる薬剤の選択肢が限られます。妊娠中は非常に治療が難しい期間であると言えます。そのため、PNHの症状が安定している時に行い、治療に困らないように準備しておく必要があります。
また病状が安定している時に妊娠を行うというのは赤ちゃんの視点からも重要です。赤ちゃんはお母さんの栄養や酸素をもらいながら成長していきます。お母さんの体調が悪いことは、赤ちゃんの発育を考えるうえでも良いとは言えません。
妊娠には適齢期があるので、非常に悩むケースもあると思います。しかし、PNHの症状が良くない時に妊娠をすることは、妊娠中のお母さんの命や赤ちゃんの発育を考えると良いことではありません。
妊娠希望がある場合には、妊娠のタイミングにつき、家族やお医者さんとよく相談しておく必要があります。
妊娠によるPNHが悪化するリスクを理解しておく
妊娠・出産はお母さんの身体に大きな負担がかかります。
妊娠・出産はたとえ健康な人であっても一大イベントです。PNHの人の妊娠はリスクを最小限にするために産婦人科・小児科としっかりと連携をとっていく必要があります。PNHの人で妊娠・出産を希望する場合には、周産期センターがあるような大きな病院で行うようにしてください。
抗補体モノクローナル抗体製剤を使う場合にはソリリス®を使う
抗補体モノクローナル抗体製剤の登場に伴い、PNHの治療は大きく進歩しました。妊娠中のPNHの治療も抗補体モノクローナル抗体製剤で行われることが多くなってきています。抗補体モノクローナル抗体製剤にはソリリス®、ユルトミリス®がありますが、妊娠中に使う場合はソリリス®の使用が勧められています。ユルトミリス®は2019年に登場した新しい薬剤で、まだ赤ちゃんに与える影響などが十分にわかっていないためです。もし、ユルトミリス®ですでに治療をおこなっている場合には、ソリリス®に変更しておく必要があります。
参考文献:PNH 妊娠の参照ガイド(付記)改訂版作成のためのワーキンググループ, PNH 妊娠の参照ガイド(付記) 令和 1 年改訂版, 2020
参考コラム:発作性夜間血色素尿症での妊娠、エクリズマブを使っているとどうなる?
4. 知っておきたい医療費助成制度のこと
PNHの治療ではソリリス®、ユルトミリス®などのように非常に高額な薬剤が使われることがあります。治療の選択肢を狭めないため、医療費助成制度を知っておくことは重要です。ここでは以下の2つの医療費助成制度について解説します。
- 難病の医療費助成制度
- 高額療養費制度
以下で説明していきます。
難病の医療費助成制度
PNHは厚生労働省の指定する難病(指定難病)に分類されています。国の指定する重症度の要件を満たすと、医療費助成の対象となります。
難病の医療費助成を受ける場合には自治体への申請が必要です。
自治体ごとに準備する書類が異なりますので、詳しくは住んでいる都道府県の保健所にお問い合わせください。
【難病の医療費助成申請の大まかな手順】
- 医療費助成に必要な以下の書類を準備します。(カッコ内は入手可能な場所)
- 臨床調査個人票(厚生労働省のホームページ、福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
- 特定医療費支給認定申請書(福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
- 個人番号に関わる調書(市区町村の窓口)
- 住民票(市区町村の住民票窓口)
- 市区町村税課税証明書(市区町村の住民税窓口)
- 健康保険証の写し
- 臨床調査個人票の記入を医師(※)に依頼します。臨床調査票は難病であることの証明(診断書)でもあるので、医師による記入が必要になります。
- 上記の書類を揃えて、住んでいる市区町村窓口で申請します。指定難病として認定されると、医療券が発行されます。要件が満たされないと判断された場合には不認定通知が発行されます。認定の決定は、指定難病審査会で行われ、結果が出るまでには3ヶ月程度の時間がかかります。
※臨床個人調査票は難病の臨床調査個人票の記入を都道府県知事から認定された医師しか作成できません。この都道府県知事から認定された医師を「指定医」と呼びます。主治医が指定医であるかは主治医に直接問い合わせてください。各自治体の福祉保健局のホームページなどにある一覧などでも確認できます。
参考文献: 難病情報センター「発作性夜間ヘモグロビン尿症(指定難病62)」
高額療養費制度
高額療養費制度とは家計に応じて医療費の自己負担額に上限を決めている制度です。
医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払った後に、月ごとの支払いが自己負担限度額を超える部分について後で払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。
たとえば70歳以上の人で年収が約370万円から770万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(総医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。
この人の医療費が1,000,000円かかったとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。
高額療養費制度について詳しくは下記の厚生労働省による説明も参考にしてみてください。
参考文献 厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)(2020.3.9閲覧)
5. お医者さんと相談したほうが良い状況
PNHは症状が安定している時には見通しが悪い病気ではありません。ただ、感染症などをきっかけとして症状が急激に悪くなることがあります。特に、以下のような症状がある場合には、危険なサインである可能性があります。
- 熱がある(感染症にかかった時の症状)
- 息苦しさや胸の苦しさがある(肺の血管がつまることによる症状)
- ろれつが回らなくなった(脳の血管がつまることによる症状)
- 手足が動かしにくくなった(脳の血管がつまることによる症状)
- 非常に疲れやすく、強い
倦怠感 がある(重症な貧血による症状) - 出血が止まらない(
血小板 が少ないことによる症状)
これらの症状がある場合は入院しての治療が必要になる可能性があります。お医者さんとすぐに相談してください。