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発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
赤血球が異常に破壊されてしまうことが原因で起こる血液の病気。尿の色調が赤褐色に変化することで病気に気づく人が多い
1人の医師がチェック 52回の改訂 最終更新: 2024.03.02

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の原因について:補体による赤血球の攻撃

PNHは赤血球免疫物質である「補体」に攻撃されることで起こります。PNHの患者さんの赤血球はCD55やCD59という物質を欠いており、補体による攻撃を受けやすくなってしまっています。

1. 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)のメカニズム

PNHは私たちの身体の中にある「免疫システム」と深く関わっています。免疫システムは私たちの身体の中にウイルス細菌などの外敵が入ってきた時に駆除するための仕組みです。一方で、免疫システムは自分の身体は味方と認識し、攻撃することはありません。

PNHでは免疫システムがおかしくなり、赤血球が攻撃されることで起こります。その結果、赤血球に含まれるヘモグロビンが血液中に放出され、毒性を発揮したり、赤血球が少なくなることで息切れや疲れやすさの原因にもなります。

2. より細かなメカニズムの説明について

もう少し詳しく説明します。免疫システムには様々な細胞や物質が関わっていますが、PNHのメカニズムを考える上で、重要な物質は以下の3つです。

  • 補体(ほたい)
  • CD55
  • CD59

補体は免疫システムが細菌を殺す時に使われる免疫物質です。補体があることで細菌が入ってきても身体を守ることできます。

補体には一つの特徴があります。CD55やCD59を見たら攻撃しないというものです。補体は一番身近な存在である私たちの身体を攻撃しません。これは一つに私たちの身体の細胞にはCD55やCD59を出し、味方の目印となっているためです。

PNHはこのCD55やCD59を赤血球の表面に出せなくなることで起こります。その結果、赤血球が補体の攻撃を受けるようになり、貧血を起こしたり、ヘモグロビン尿の原因になります。

3. どうしてCD55やCD59を表面に出せなくなるのか?

血液細胞がCD55やCD59を細胞の表面に送り出す際には、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)という物質が必要です。GPIはPIGA遺伝子の情報をもとに作られますが、PNHの人ではPIGA遺伝子がおかしくなっていることが報告されています。PIGA遺伝子に異常があることでGPIを作ることができなくなり、CD55やCD59を細胞表面に出せなくなっていると考えられています。

ただし、PIGA遺伝子の異常は「生まれつき」ではなく「生まれた後」に起こります。生まれた後であったも、放射線を浴びたり、細胞の老化などで遺伝子がおかしくなることがあります。PNHは生まれつきの遺伝子の異常の病気ではないので、子どもに遺伝することもありません。

4. 感染症は発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の原因になるか?

感染症になると外敵退治のため補体が活性化されます。 この時、活性化された補体はPNHの人の赤血球も壊してしまいます。そのため、感染症にかかるとPNHの症状が悪化することが珍しくありません。PNHの人は感染症にかからないように日頃から気をつけておく必要があります。

5. メカニズムをもとに他の貧血の原因との違いを考える

赤血球には120日程度の寿命があります。しかし、通常、赤血球の数は日々大きな変動がありません。これは、赤血球が死んでいくのと同じペースで新しい赤血球が絶えず作られており、一定数を保っているからです。

PNHでは赤血球が破壊されることで貧血を起こします。また、他にも出血を起こし、血液を失うことが貧血の原因になります。赤血球を消費する(消費の亢進)と貧血を起こしてしまうことがわかります。

他方、血液の工場である骨髄の調子が悪くなったり、材料がなく赤血球が作れないことも貧血の原因になります。赤血球が作れなければ、時間とともに寿命がきた赤血球が死んでいってしまい、赤血球の数は減ってしまうためです。このように赤血球が作れないこと(産生の低下)も貧血の原因になることがわかります。

貧血の原因にはこれ以外にもいくつかありますが、このような分類で貧血の原因について考えると以下のようになります。

貧血の原因分類】

  • 赤血球の消費の亢進
  • 赤血球の産生の低下
    • 骨髄の調子が悪くなる(再生不良性貧血骨髄異形成症候群など)
    • 材料がなく赤血球が作れない(鉄欠乏、葉酸欠乏、ビタミンB12欠乏など)
    • 炎症による貧血
    • 赤血球を作るのに必要なホルモンの低下(腎性貧血など)
    • 抗癌剤の副作用

貧血の原因にはたくさん種類がありますが、赤血球の消費が亢進しているタイプであること、その中でも破壊されるタイプであることがわかれば、PNHの診断に近づけることがわかります。実際にどのようにして見極めを行っているかは「検査について」のページで説明します。