咳喘息の原因は?どうやって診断するのか?
咳喘息(せきぜんそく)とは、
1. 咳喘息の原因について
正常な肺は、木の枝のように細かく分かれる
咳喘息は、空気の通り道である気管支がしつこい炎症を起こしている状態です。炎症が強いときには気管支が狭くなってしまうことにより咳が出てきます。炎症がなぜ起きてしまうか、という点に関しては様々な原因が考えられており、一口に咳喘息といっても、全てが同じ原因ではありません。
炎症が何年も続くうちに、気管支は破壊されたり分厚くなったりしていきます。これを気道リモデリングといいます。気道リモデリングが進むと、薬を使ってもなかなか気管支が広がらず、治りにくい咳喘息、あるいは本格的な気管支喘息へと進行していくので、適切な時期に適切な治療をしていくことが大事になります。
病気の原因はアレルギーなのか?
咳喘息はアレルギーの一種である、という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかしこれは正確な表現ではありません。咳喘息がアレルギー反応と深い関係にあることは間違いありませんが、咳喘息を単なるアレルギーの一種であると言い切ることは難しいです。
咳喘息には様々な分類がありますが、環境中の物質に対するアレルギー反応が検出されるアトピー型と、非アトピー型の2つに分けるという分類が使われることがあります。
アトピー型では、具体的にはダニに対するアレルギーが最も多いと考えられます。カーペットなどはダニの温床になりやすいため注意が必要です。また、ネコ、イヌ、ハムスターなどの動物やカビ類、ゴキブリ等もアトピー型の原因として重要です。屋外のアレルギー物質としてはスギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギなどの花粉などもありますが、屋内のアレルギー物質よりは咳喘息との関連は薄いと考えられます。
参考文献
・J Allergy Clin Immunol. 2007 ; 119 : 1043-52.
・Lancet. 1989 ; 1 : 520-4.
・日本アレルギー学会喘息
・N Engl J Med. 1997 ; 336 : 1356-63.
・Am J Respir Crit Care Med. 2003 ; 167 : 787-97.
咳の出やすいきっかけにはどんなものがある?喫煙、運動、飲酒、雨天、冷気、ストレスなど
咳喘息の患者さんで咳
その他、患者さんによっては運動による刺激や特定の薬物で咳発作を起こす場合もあります。運動を全くしない、薬を全く飲まない、というのは不可能でしょうから、個々のケースに関しては担当医に相談してみることをお勧めします。
参考文献
・日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会, 喘息予防・管理ガイドライン2015, 協和企画, 2015
2. 男性と女性のどちらに多いのか?
咳喘息に限った大規模な統計は無いので、本格的な気管支喘息に関するデータにはなりますが、気管支喘息は子どもでは男性でわずかに多く、思春期以降は女性でわずかに多くなります。全体として、性別で
参考文献
・厚生労働省 平成26年患者調査
3. 咳喘息の検査
8週間以上にわたって咳が続くことを、専門的には慢性咳嗽(まんせいがいそう)と呼びます。慢性咳嗽のうち3割から4割ほどは咳喘息によるものと考えられています。したがって、医師が診察して、病歴や症状から咳喘息が強く疑われる場合には、まず咳喘息としての治療をしてみて効くようであれば咳喘息と診断することがしばしばあります(診断的治療)。
しかし、典型的な咳喘息ではなさそうな場合、他の病気との区別をしっかり検査で行っておくべきだと医師が判断した場合には、以下のような検査が行われます。
呼吸機能検査 - 呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)検査
- 血液検査
- 画像検査(
胸部レントゲン 、胸部CT など) - 喀痰(かくたん)検査
これらに関してそれぞれ詳しく解説します。
呼吸機能検査
呼吸機能検査は、
マウスピースをくわえて口呼吸をし、「吸って」「吐いて」「思いっきり吸って」「勢い良く吐いて」などの指示に従って呼吸をすることで、空気を吸う能力、吐く能力、酸素の取り込み能力などをチェックする検査です。咳喘息の場合には呼吸機能検査は正常範囲内のデータになるはずです。
本格的な気管支喘息の場合には空気の通り道である気管支が炎症によって腫れたり傷ついたりした状態となることで、空気の通り道が狭くなりがちです。したがって、空気を吐き出す勢いが弱くなってしまい、気管支喘息の場合には呼吸機能検査で「閉塞性障害」と呼ばれるタイプの異常が見られることがあります。
呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)検査
呼気中一酸化窒素検査はFeNO(fraction of exhaled nitric oxide)検査とも呼ばれ、2013年に
専用の測定機器に一定の勢いで息を吹きかけ、息の中に含まれる一酸化窒素濃度を測ると、患者さんの空気の通り道(気道)においてどれくらいのアレルギーによる炎症が起きているかが推定できる検査です。一酸化窒素の濃度は息の中の割合で表現します。一酸化窒素はごく微量にしか存在しないので、%(100分の1)で表すには桁が合わず、ppb(ピーピービー、10億分の1)という表記を使います。1,000万ppb=1%です。
呼気一酸化窒素検査の結果が37ppb以上であれば、咳喘息などの炎症がある可能性が高いと考えられます。逆に、咳喘息の治療薬を使用していないときに22ppb以下であれば咳喘息などの炎症がある可能性が低いと考えられます。
呼気一酸化窒素検査は簡単にできるという利点があります。今後呼気一酸化窒素検査ができる医療機関が増えていくことが期待されています。
しかし呼気一酸化窒素検査でも、単独では咳喘息の診断を確定することも否定することもできません。診断はあくまで症状・病歴やほかの検査と総合して考えます。
咳喘息の診断以外にも、呼気一酸化窒素検査の検査値が低い値に抑えられているかどうかで、咳喘息の治療がうまくいっているかどうかを見る、というような使い方がされることもあります。
参考文献
・Allergol Int. 2010 ; 59 : 363-7.
血液検査
咳喘息の診断をするうえで血液検査は必須ではありません。
ただし、咳喘息以外の病気が隠れていないかをチェックする目的や、咳喘息の治療薬を決定する目的や、どのような物質にアレルギーがあるかを調べる目的などで、採血検査が行われることがあります。
採血では様々な項目を調べます。しばしば調べられる重要なものの例を挙げて説明します。
- 血液中好酸球数
- 血清総IgE
抗体 特異的 IgE抗体
血液中好酸球数はアレルギーによる炎症がどの程度あるかの参考になります。ただし、血液中好酸球数が低いから咳喘息では無い、あるいは軽症であるということは言えず、逆に高いから重症ということもありません。また、血液中好酸球数があまりにも高い場合には、好酸球性白血病、好酸球性肺炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、薬剤アレルギー、寄生虫感染などの他の病気ではないかを考えることもあります。
血清総IgE(アイジーイー)抗体もアレルギーによる炎症がどの程度あるかの参考になります。ただし、これも低いから咳喘息では無い、あるいは軽症であるということは言えず、逆に高いから重症ということもありません。
特異的IgE抗体は例えばダニだとか、スギ花粉といったそれぞれの物質に対するアレルギー反応がどの程度あるかの参考になる検査です。特異的IgE抗体を手がかりにアレルギーの原因物質を調べて、その物質との接触や吸入をなるべく避けるなどしていくことになります。
画像検査
咳喘息の診断や治療を進めていくうえで、胸部レントゲンや胸部CTといった画像検査は必須の検査ではありません。しかし、咳喘息以外の病気でないかどうかをチェックするために画像検査が行われることは少なくありません。特に高齢の患者さんの咳喘息を初めて診断する場合などでは他の病気が隠れていることも多いので、画像検査はより多く行われる傾向にあると言えるでしょう。
喀痰検査
痰の検査というのはあまり聞き慣れないものかもしれません。咳喘息の場合には痰の中にある自分の細胞を調べることがあります。好酸球という細胞が手がかりになります。
好酸球は
風邪をひいているわけでもないのに痰を出せと言われても難しいでしょうから、なかなか痰が出ない場合には食塩水を霧状にして吸い込むことによって痰が出やすくすることがあります。
痰の中に好酸球が多く見つかれば咳喘息の診断に近づきます。また咳喘息の治療中に痰の検査をして、好酸球が多いか少ないかをみることで治療が上手くいっているかどうかの参考にすることがあります。
4. 咳喘息に診断基準はあるのか?
咳喘息の最大の特徴は、痰の絡まないしつこい咳が続き、呼吸の苦しさや
そこからどうやって最終的に咳喘息と診断するかですが、実は厳密な診断基準は存在しないのが実情です。咳喘息の治療薬(気管支拡張薬)を使ってみて咳が改善するかどうか、どれくらいアレルギーの要素がある患者さんなのか、夜間や明け方に咳が出やすいなど咳喘息っぽい症状の出方なのか、他の病気の可能性は無さそうなのか、といったところを総合的に判断して各医師が診断をつけています。なので専門家によって、行う検査もつける診断名も異なるという場合があります。常に正しい診断手順というものは存在しないですし、名医にかかれば一発で診断してくれる、というようなこともありません。まして自己判断での診断、つまり「自己診断」は誤診や重大な病気の見落としにつながりかねませんので、お勧めしません。
大事なのは最初から咳喘息を言い当てることよりも、治療に効果がないと見れば診断を見直すとか、診断にかかわらず容態が変わればすみやかに対応できる体制があることです。結果として症状が楽になることが目標ですから、診断名に最初からこだわる必要はありません。