野球肘とは:原因、症状、検査、治療など
野球肘は主に成長期にボールを投げすぎることで
1. 野球肘とはどんな状態か
主に成長期にボールを投げすぎることによって起こる肘の障害を野球肘といいます。野球肘が最も起こりやすいのは11-12歳と言われています。
肘は複数の骨、
以下では痛みのある部位別に、具体的な原因を列挙します。
【肘の内側に症状が出るもの】
- 上腕骨内側上顆障害(リトルリーグ肘)
- 上腕骨内側上顆裂離骨折
- 上腕骨内側上顆骨端線閉鎖不全
- 上腕骨内側上顆骨端線離開
内側側副靭帯 損傷尺骨神経 障害- 肉離れ、筋肉の疲労 など
肘の内側に症状が出る原因としては上記のようなものがあります。小中学生の野球プレーヤーに最も多いのはリトルリーグ肘であり、大学生やプロ野球選手のレベルになると内側側副靭帯損傷が問題となることがよくあります。
野球肘は上記のように内側に症状が出るものが多いのですが、他の場所が痛むこともあります。
【肘の外側に症状が出るもの】
- 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎
- 滑膜ひだ障害 など
【肘の後方に症状が出るもの】
- 肘頭骨端線閉鎖不全
- 肘頭
疲労骨折 - 肘頭
骨棘 骨折 - 後方インピンジメント など
その他にも、軟骨や骨の破片が関節に挟まって間欠的に色々な部位が痛む「関節ねずみ」などがあります。
いずれのタイプでも投球をしばらく休んで肘を安静にすること、正しいフォームで少しずつ投球を再開すること、が一般的な対策です。しかし上に挙げたように、肘のどこが悪くて痛んでいるのかを正確に把握することで、原因に応じた対策や今後の見通しを立てることができます。そのため、必要に応じて検査を行って野球肘の原因を調べていきます。
2. 野球肘の症状について
野球肘では投球時や投球後に肘が痛くなります。肘の内側に症状が出ることが多いです。その他、肘の伸びや曲がりが悪くなり、急に動かせなくなることもあります。
3. 野球肘の検査、診断について
野球に伴って肘の痛みや動かしにくさがあれば、野球肘という診断は明らかなことがほとんどです。しかし、肘のどこに原因がある野球肘なのかを突き止め、冒頭に説明したような正確な分類・診断を得るためには、お医者さんの
問診、診察
まずはお医者さんによる問診・診察が行われます。主に以下のことを参考に、どのタイプの野球肘かを考えていきます。
【問診・診察でのポイント】
- 年齢、野球歴
- プレーの頻度やポジション
- 肘の痛む部位と程度
- 痛みの出現状況(ゆっくりあるいは突然)
- 手指の痺れの有無 など
こうした内容を確認し、必要に応じて以下のような検査を行っていきます。
レントゲン(X線)検査
CT検査
超音波(エコー)検査
しかし、野球肘の中でも治りにくく重症化しがちな上腕骨小頭離断性骨軟骨炎を見つけるのに適しているとも言われています。慣れた検査者であれば数分から5分ほどで施行できて、被曝の心配もないため、近年では野球をプレーする子供達への超音波検診が普及しつつあります。
MRI検査
野球肘の原因を調べるための精密検査として広く行われている検査です。骨だけでなく、軟骨、筋肉、靭帯などの様子を細かく観察することができます。どの医療機関でも行えるような検査ではなく、検査費用も3割の自己負担で4,000円-5,000円ほどします。そのため、レントゲン検査だけで診断でき、治療も安静だけで済むような人では必ずしも行われません。
4. 野球肘の治療について
野球肘は肘に過剰な負担がかかり続けることで発症します。以下では治療の基本方針について説明します。
安静
野球肘を手早く完治させる方法は残念ながらありません。痛みを我慢して投げ続けると野球肘は悪化し続け、簡単には治らなくなってしまいます。そのため、痛みを感じた人は早めに投球を中止して、お医者さんに相談することが大事です。
野球肘の原因によって異なりますが、多くの野球肘は初期であれば1-2ヶ月ほどの安静で改善します。野球肘が進行すると、3ヶ月以上あるいは年単位の安静や手術が必要になるため、初期で思い切ってプレーを休んで安静期間を確保することが大事です。安静期間でもランニングや捕球は行って問題ありません。また、痛みが出ないようであればバッティング練習も可能と考えられます。
手術
野球肘は十分な期間を安静にできれば改善することが多いので、手術は必ずしも行われません。骨や軟骨に異常がある人でも、軽度であれば安静によって自然に癒合・改善します。一方で骨のズレが大きい人では骨をネジで固定したりすることもあります。また、損傷した軟骨を補うために、肋軟骨や膝の軟骨を移植する方法もあります。
大人では骨や軟骨が成熟して、成長期の時よりはそれらの損傷頻度が少なくなります。一方で、内側側副靭帯を損傷する頻度が増えてきます。内側側副靭帯のダメージも、安静にして周囲の筋肉を強化するリハビリでカバーできることが多いですが、改善しない人では靭帯再建術が必要です。靭帯再建の方法としてはメジャーリーグ投手:トミー・ジョンに由来したトミー・ジョン手術が有名です。手術後は早くとも復帰まで1年はかかると言われていますが、プロ野球選手などではよく行われています。
他にも欠けてしまった軟骨や骨(関節ねずみ)を除去するなど、原因に応じた様々な手術方法があります。
参考文献