やきゅうひじ
野球肘
骨や軟骨が完成していない成長期に球技などによる肘の酷使が原因で生じる肘の障害の総称
6人の医師がチェック 58回の改訂 最終更新: 2024.08.16

野球肘とは:原因、症状、検査、治療など

野球肘は主に成長期にボールを投げすぎることで発症します。長く野球を楽しむために、あるいは早く競技に復帰するには、早めの対応が大事です。ここでは野球肘の原因や症状を紹介し、それらに対して行われる検査や治療法を解説していきます。

1. 野球肘とはどんな状態か

主に成長期にボールを投げすぎることによって起こる肘の障害を野球肘といいます。野球肘が最も起こりやすいのは11-12歳と言われています。

肘は複数の骨、軟骨靭帯、筋肉から成るため、野球肘にも様々な原因があります。肘の痛みが出る部位によって、どのような状態が考えられるかが変わります。

野球肘・肘の構造:上腕骨、上腕二頭筋、上腕三頭筋、橈骨、尺骨

以下では痛みのある部位別に、具体的な原因を列挙します。

【肘の内側に症状が出るもの】

  • 上腕骨内側上顆障害(リトルリーグ肘)
  • 上腕骨内側上顆裂離骨折
  • 上腕骨内側上顆骨端線閉鎖不全
  • 上腕骨内側上顆骨端線離開
  • 内側側副靭帯損傷
  • 尺骨神経障害
  • 肉離れ、筋肉の疲労 など

肘の内側に症状が出る原因としては上記のようなものがあります。小中学生の野球プレーヤーに最も多いのはリトルリーグ肘であり、大学生やプロ野球選手のレベルになると内側側副靭帯損傷が問題となることがよくあります。

野球肘は上記のように内側に症状が出るものが多いのですが、他の場所が痛むこともあります。

【肘の外側に症状が出るもの】

【肘の後方に症状が出るもの】

  • 肘頭骨端線閉鎖不全
  • 肘頭疲労骨折
  • 肘頭骨棘骨折
  • 後方インピンジメント など

その他にも、軟骨や骨の破片が関節に挟まって間欠的に色々な部位が痛む「関節ねずみ」などがあります。

いずれのタイプでも投球をしばらく休んで肘を安静にすること、正しいフォームで少しずつ投球を再開すること、が一般的な対策です。しかし上に挙げたように、肘のどこが悪くて痛んでいるのかを正確に把握することで、原因に応じた対策や今後の見通しを立てることができます。そのため、必要に応じて検査を行って野球肘の原因を調べていきます。

2. 野球肘の症状について

野球肘では投球時や投球後に肘が痛くなります。肘の内側に症状が出ることが多いです。その他、肘の伸びや曲がりが悪くなり、急に動かせなくなることもあります。

3. 野球肘の検査、診断について

野球に伴って肘の痛みや動かしにくさがあれば、野球肘という診断は明らかなことがほとんどです。しかし、肘のどこに原因がある野球肘なのかを突き止め、冒頭に説明したような正確な分類・診断を得るためには、お医者さんの問診や診察、そして検査が必要です。

問診、診察

まずはお医者さんによる問診・診察が行われます。主に以下のことを参考に、どのタイプの野球肘かを考えていきます。

【問診・診察でのポイント】

  • 年齢、野球歴
  • プレーの頻度やポジション
  • 肘の痛む部位と程度
  • 痛みの出現状況(ゆっくりあるいは突然) 
  • 手指の痺れの有無 など

こうした内容を確認し、必要に応じて以下のような検査を行っていきます。

レントゲン(X線)検査

レントゲン検査は、野球肘の診断を進めるうえで最もよく行われる検査です。骨の状態が簡単に確認できるのでしばしば行われます。しかし、軟骨、筋肉、靭帯などの異常を見つけるのには適していない検査なので、それらの異常をチェックするためにはMRI検査を行うのが一般的です。

CT検査

CT検査では、レントゲン検査よりも精密に肘の骨の状態が分かります。そのため、レントゲン検査に追加してCT検査も行われることがありますが、筋肉や靭帯などの異常を見つけるのはMRI検査の方が得意です。そのため、野球肘に対する検査としてはCT検査よりもMRI検査の方が多く行われています。CT検査は子供では特に、放射線被曝の問題も頭の片隅に入れる必要があります。

超音波(エコー)検査

超音波検査は、お医者さんや技師さんが検査機器を直接肘に当てて、肘の中の様子を観察する検査です。肘の超音波検査では検査者の熟練が必要であり、MRI検査と比べると肘全体を観察する能力や客観性の面で劣ります。そうした問題もあり、レントゲン検査ほど広く行われていません。

しかし、野球肘の中でも治りにくく重症化しがちな上腕骨小頭離断性骨軟骨炎を見つけるのに適しているとも言われています。慣れた検査者であれば数分から5分ほどで施行できて、被曝の心配もないため、近年では野球をプレーする子供達への超音波検診が普及しつつあります。

MRI検査

野球肘の原因を調べるための精密検査として広く行われている検査です。骨だけでなく、軟骨、筋肉、靭帯などの様子を細かく観察することができます。どの医療機関でも行えるような検査ではなく、検査費用も3割の自己負担で4,000円-5,000円ほどします。そのため、レントゲン検査だけで診断でき、治療も安静だけで済むような人では必ずしも行われません。

4. 野球肘の治療について

野球肘は肘に過剰な負担がかかり続けることで発症します。以下では治療の基本方針について説明します。

安静

野球肘を手早く完治させる方法は残念ながらありません。痛みを我慢して投げ続けると野球肘は悪化し続け、簡単には治らなくなってしまいます。そのため、痛みを感じた人は早めに投球を中止して、お医者さんに相談することが大事です。

野球肘の原因によって異なりますが、多くの野球肘は初期であれば1-2ヶ月ほどの安静で改善します。野球肘が進行すると、3ヶ月以上あるいは年単位の安静や手術が必要になるため、初期で思い切ってプレーを休んで安静期間を確保することが大事です。安静期間でもランニングや捕球は行って問題ありません。また、痛みが出ないようであればバッティング練習も可能と考えられます。

手術

野球肘は十分な期間を安静にできれば改善することが多いので、手術は必ずしも行われません。骨や軟骨に異常がある人でも、軽度であれば安静によって自然に癒合・改善します。一方で骨のズレが大きい人では骨をネジで固定したりすることもあります。また、損傷した軟骨を補うために、肋軟骨や膝の軟骨を移植する方法もあります。

大人では骨や軟骨が成熟して、成長期の時よりはそれらの損傷頻度が少なくなります。一方で、内側側副靭帯を損傷する頻度が増えてきます。内側側副靭帯のダメージも、安静にして周囲の筋肉を強化するリハビリでカバーできることが多いですが、改善しない人では靭帯再建術が必要です。靭帯再建の方法としてはメジャーリーグ投手:トミー・ジョンに由来したトミー・ジョン手術が有名です。手術後は早くとも復帰まで1年はかかると言われていますが、プロ野球選手などではよく行われています。

他にも欠けてしまった軟骨や骨(関節ねずみ)を除去するなど、原因に応じた様々な手術方法があります。

参考文献

Risk Factors for Elbow and Shoulder Injuries in Adolescent Baseball Players: A Systematic Review. Am J Sports Med 2019 Mar;47(4):982-990.