2017.03.06 | ニュース

肘を手術してもメジャーリーグに行ける!尺側側副靭帯再建後の投手の統計

メジャーリーグ登録者のデータから

from The American journal of sports medicine

肘を手術してもメジャーリーグに行ける!尺側側副靭帯再建後の投手の統計の写真

野球の投手にとって肘のけがは深刻な結果にもつながります。しかし、手術でよくなる場合もあります。MLBの統計をもとに、ドラフト指名までに尺側側副靭帯再建の経験があった投手はほかの投手と同様の成績を収めていたことが報告されました。

アメリカの研究班が、メジャーリーグベースボール(MLB)の統計データを解析して、尺側側副靭帯骨と骨をつないでいる丈夫な組織。関節を作る役割を果たしている再建を経験した投手の成績について調べた結果を『The American Journal of Sports Medicine』に報告しました。

尺側側副靭帯(しゃくそくそくふくじんたい)は、肘の小指側にある組織です。内側側副靭帯膝関節の内側にある靭帯。膝が左右にずれないように固定している。膝の中で最も損傷が多い靭帯とも言います。野球や柔道などで傷付くことが多く、傷付いていると肘の痛みなどの原因になります。いわゆる「野球肘」の一種です。治療には固定して安静にする方法などもありますが、手術が必要になることもあります。

尺側側副靭帯再建(UCLR、別名トミー・ジョン手術)は、尺側側副靭帯損傷を治療する手術です。手術によって競技復帰を目指します。

この研究は、2006年から2010年にMLBのドラフトで指名された投手を研究対象としました。ドラフト時点で尺側側副靭帯再建を経験していた投手38人と、比較のため指名順位などが近い投手114人を選びました。

対象の投手がメジャーリーグまたはマイナーリーグのどのレベルまで進んだか、またプレーによる成績などを比較しました。

 

次の結果が得られました。

尺側側副靭帯再建を経験していた投手38人のうち13人(34.2%)がメジャーリーグレベルに到達し、対照の投手では114人のうち29人(25.4%)だったことと比べて統計的に有意データを分析して導かれた結果が、偶然ではなく「意味が有る」必然的な値であると推測できることではなかった(P=0.295)。

尺側側副靭帯再建を経験してもドラフト指名を受けられた投手の中では、34.2%がメジャーリーグまで進んでいました。尺側側副靭帯再建を経験していない投手の中では25.4%でした。統計的に差があるとは言えない範囲でした。

それぞれのグループで半数の順位にあたる成績は次のようになり、いずれもほぼ同等でした。

UCLRの経験 UCLR後 UCLRなし
平均球速 時速92.7マイル 時速92.1マイル
ピーク球速 時速93.1マイル 時速92.4マイル
通算投球イニング数 262.5回 357.5回
通算ゲーム数 119.0試合 99.5試合
通算先発ゲーム数 15試合 32試合
ゲームあたりイニング数 2.4回 3.0回
防御率 3.98 4.11
投球回あたり与四球・被安打数合計 1.41 1.37
年あたり勝利数 3.3 3.8
年あたり敗戦数 3.3 4.0
年あたりセーブ数 0.30 0.40
年あたり打者数 257.4 277.8
年あたり投球イニング数 60.4回 64.8回
イニングあたり被安打数 0.97 1.01
イニングあたり失点数 0.52 0.54
イニングあたり被本塁打数 0.07 0.08
イニングあたり奪三振数 0.85 0.85
イニングあたり与四球数 0.43 0.36
イニングあたり与死球数 0.05 0.06

 

故障者リスト入りした期間について比較すると次の結果が得られました。

尺側側副靭帯再建グループでは故障者リスト入りの率が対照群に比べて有意に増加していたが(86.8% vs 64.0%、P=0.008)、故障者リスト入り日数(152.8 vs 135.6、P=0.723)、肘の故障による故障者リスト入り(45.5% vs 43.8%、P=0.877)は類似していた。

尺側側副靭帯再建を経験した投手のほうがやや高い率で故障者リスト入りしていました。しかし、肘の故障に限って比較すると統計的に違いがあるとは言えない範囲でした。

 

尺側側副靭帯再建を経験してもドラフト指名までたどり着いた投手では、さらにメジャーリーグに進むまで、ほかのドラフト指名投手と遜色ない成績が出せているという報告でした。

スポーツにけがは付き物ですが、治療して復帰する選手も大勢います。治療後も高いパフォーマンスを発揮して実績を残す選手もいます。けがをして悩む選手のために、けがを乗り越えた選手の前例が勇気を与えてくれるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Performance and Injury Characteristics of Pitchers Entering the Major League Baseball Draft After UlnarCollateral Ligament Reconstruction.

Am J Sports Med. 2016 Dec.

[PMID: 27519677]

*本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。 [執筆者一覧]