かんのうほう
肝のう胞
肝臓の中に液体の溜まった袋(のう胞)ができる病気。悪性化することはなく、基本的に治療の必要性もない
5人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2022.09.22

肝のう胞の治療について:ほとんどの人に治療は必要ない

肝のう胞があってもほとんどの人には症状がなく、治療の必要がありません。しかし、ごくまれに症状を生じたり治療を必要とする肝のう胞もあります。このページでは、肝のう胞の治療について説明をします。

1. 治療が必要な肝のう胞について

極めてまれですが、治療が必要な肝のう胞があります。どのような肝のう胞にどのような治療が必要なのか説明します。

症状のある巨大肝のう胞:開窓術

肝のう胞が大きくなったことで、腹痛や腹部膨満感などの症状が出てきた人には治療が必要です。肝のう胞に穴を開けて中の液体を吸い出す「開窓術」という手術で、巨大肝のう胞の症状がよくなることがあります。

細菌性肝のう胞:抗菌薬(抗生剤)の投与や膿の排出

肝のう胞に、肺炎桿菌や大腸菌などの細菌が感染することがまれにあります。治療には、抗菌薬(抗生剤)を使う方法や針でを排出する方法があります。また、針で肝のう胞の膿を出した直後にアルコールやミノサイクリンを注入しておくと、肝のう胞が縮小する効果が期待できます。

多発性肝のう胞:腎臓を守る薬物治療

肝のう胞が肝臓全体に数多くある人は、腎臓にもたくさんののう胞ができる「常染色体優性多発嚢胞腎(ADPKD)」という病気であることがあります。ADPKDの人は腎機能が低下して透析療法や腎移植が必要になることが少なくありません。

2014年に、腎機能低下のスピードを抑える「トルバプタン」という内服薬がADPKDの人に使えるようになりました。トルバプタンを早期から使い始めると、腎不全になるまでの期間を先延ばしにできるといわれています。

寄生虫による肝のう胞:手術や薬

エキノコックスはキツネやイヌに寄生する寄生虫です。キツネやイヌの糞がヒトの口に入ることで感染し、肝のう胞を作ります。内服薬はありますが完治させるには不十分で、開腹手術で寄生虫のいる肝のう胞をすべて取り除く必要があります。早期発見・早期治療が、エキノコックス症に打ち勝つためには必要です。

がん化のリスクがある肝のう胞:手術

肝臓にできる腫瘍の一つに「粘液性のう胞性腫瘍(MCN)」があります。MCNは内部に液体を含む腫瘍であるため、無害な肝のう胞と見分けづらい形状のことがあります。MCNには、今後がんになってしまう可能性があるものと、すでにがんになっているものが含まれます。

MCNの治療には手術があります。手術前の画像検査などで、MCNであると確定するのは難しいため、手術後に顕微鏡の検査で確認されます。手術で完全に切除すれば再発はあまりないといわれています。

2. 肝のう胞のガイドラインはあるのか

よくある無害な肝のう胞については、治療ガイドラインは存在しません(2019年10月現在)。多発性肝のう胞については「多発性肝嚢胞診療ガイドライン」が発刊されていて、診療の参考にされています。

参考文献

・Zacherl J, et al. Long-term results after laparoscopic unroofing of solitary symptomatic congenital liver cysts. Sung Endosc,2000;14(1):59-62

・厚生労働省 難治性疾患克服研究事業, 「多発性肝嚢胞診療ガイドライン」, 2013