きゅうせいしんふぜん
急性心不全
何らかの原因で急速に心臓の機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなった状態
15人の医師がチェック 95回の改訂 最終更新: 2022.07.13

急性心不全の基礎知識

POINT 急性心不全とは

何らかの原因によって心臓の機能が急速に低下し、全身に十分な血液が送れなくなった状態です。その原因は心筋梗塞・弁膜症・心筋炎・慢性心不全の急性増悪などさまざまです。主な症状には急激に進む息切れ・冷や汗・頻脈(脈が速くなること)などがあります。急性心不全の可能性がある人には身体診察に加えて、心電図検査・心臓エコー検査・血液検査・胸部レントゲン(X線)検査を用いて、その程度とともに原因となっている病気を調べます。治療は一刻を争うものであり、酸素投与や利尿薬を使いながら、原因となっている病気の治療を進めます。また、呼吸状態が悪い人には、人工呼吸器や人工心肺装置を使います。急性心不全が心配な人や治療したい人は循環器内科や救急科を受診してください。

急性心不全について

  • 何らかの原因で急速に心臓の機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなった状態
  • 急性心不全の原因となる主な疾患
  • 心臓は左右上下に4つの部屋に分かれており、右側に身体から還る血液が流れ込み、左側の肺から還る血液が流れ込んでいる
    • 心臓の右側の動きが悪くなると、全身から心臓に血液が戻れなくなり、全身に浮腫みが見られるようになる(右心不全症状)
    • 心臓の左側の動きが悪くなると、肺から心臓に血液が戻れなくなり、肺の血管の浮腫みによる息切れが見られるようになる

急性心不全の症状

  • 主な症状
    • 急激に進む呼吸困難
      • 最初は動くと息が切れる(労作時呼吸困難)
      • 徐々に横になると苦しくなる(起座呼吸)
    • 痰と咳
      • 痰はピンク色の泡状のことがある
    • 唇が紫色になる(チアノーゼ
    • 冷や汗
    • 脈が速くなる
    • 尿量の減少
    • むくみ、体重の増加

急性心不全の検査・診断

  • 血液検査:心臓への負担のかかり度合いなどを調べる
  • 心臓の動きや大きさを調べる
    • 心電図
    • 胸部レントゲン検査(X線写真)
    • 心臓超音波検査
  • 心不全の程度を検査することと、原因となっている病気が何かを調べることが重要である

急性心不全の治療法

  • 治療は一刻を争うため、診断と治療は同時に行う
  • 主な治療
    • 酸素吸入
    • 利尿薬:体の水分を減らして心臓の負担を軽くする
    • 血管拡張薬:血管を拡げて血液を流れやすくする
    • 強心薬:心臓の働きを良くする
    • カルペリチド:利尿と血管拡張の作用がある
    • 呼吸の状態が悪い場合は、人工呼吸器を用いて呼吸をサポートする
    • 血液を全身に送れないほど心機能が低下した場合は、人工心肺装置(PCPS、ECMOなど)用いる
  • 診断がつき次第、心機能を低下させる原因となっている病気(急性心筋梗塞不整脈など)に対する治療も並行する

急性心不全に関連する治療薬

ループ利尿薬

  • 尿による水分排泄を増やすことで体内の過剰な水分などを排泄し、むくみ(浮腫)などを改善する薬
    • 腎臓の尿細管では尿(原尿)に含まれる水分などを血液中へ戻す再吸収が行われている
    • 本剤は主に尿細管のヘンレループという部位での再吸収を抑えることで尿としての水分排出を増やす作用をあらわす
    • 本剤により体内の過剰な水分が排泄されるため、むくみの改善や血圧を下げる効果などが期待できる
  • 薬剤によっては高血圧症や心不全などに使われる場合もある
ループ利尿薬についてもっと詳しく

カリウム保持性利尿薬

  • 尿として体内の過剰な水分などを排泄し、むくみ(浮腫)や血圧などを改善する薬
    • 腎臓の尿細管では尿(原尿)に含まれる水分などを血液中へ戻す再吸収が行われている
    • 副腎皮質ホルモンのひとつアルドステロンは尿細管(主に遠位尿細管)での再吸収を促す
    • 本剤はアルドステロンの働きを抑える作用などにより尿細管での再吸収を抑え尿量を増やすことで、むくみや血圧などを改善する
    • 本剤は体カリウムイオンの排泄を抑える作用もあらわす
  • 他の種類の利尿薬(ループ利尿薬など)と併用される場合もある
    • 他の利尿薬によるカリウム排泄を低減させることで、こむら返りなどを抑える効果も期待できる
  • 心性浮腫や腎性浮腫などのほか、薬剤によっては栄養失調性の浮腫に使用する場合もある
カリウム保持性利尿薬についてもっと詳しく

ピモベンダン(心不全治療薬)

  • 心筋におけるCa(カルシウム)イオンの感受性の増強作用などにより、心筋機能を改善させ、心不全による症状を改善する薬
    • 心不全は何らかの原因により心臓の働きが弱くなり、息切れや息苦しさなどの症状があらわれる
    • 心筋の収縮は心筋細胞内のCaイオンなどの働きによっておこる
    • 本剤は心筋のCaイオン感受性の増強作用やPDE3(ホスホジエステラーゼ3)という酵素の阻害作用により心筋機能の改善作用をあらわす
ピモベンダン(心不全治療薬)についてもっと詳しく

急性心不全の経過と病院探しのポイント

急性心不全が心配な方

心不全は、病名というよりも状態を表す言葉です。心臓の働きは全身へ血液を送り出すことで、この役目が十分にこなせていない状態を心不全と呼びます。心臓そのものに異常があって心臓の収縮力が低下してしまうのも原因の一つですし、心臓の隣りにある肺(の血管)が原因だったり、肺に限らず全身の血管の動脈硬化や血管内の水分が多すぎることが原因となったりします。

このようなことが原因となって心不全に至ると、全身のむくみや息切れが生じます。このうち数時間から数日の経過で急に心不全に至った場合に急性心不全と呼ばれます。

息切れやむくみが生じている場合には、心不全の可能性があります。どちらか一方だけであれば心不全以外の原因のことも多いのですが、息切れとむくみが両方揃うと心不全の可能性は高まってきます。そのような症状があって心配になった時には、もしかかりつけの内科クリニックがあれば、まずはそこで相談してみることをお勧めします。特に普段かかっている病院がなければ、一般内科、もしくは循環器科クリニックの受診も良いでしょう。

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急性心不全でお困りの方

急性心不全の治療は、病状やその原因によって変わってきます。体内に必要以上の水分が溜まってしまっていることが原因の心不全であれば、利尿薬や血管拡張薬と言われる薬を使用します。体内の水分を尿として排泄したり、血管を拡げて水分の収まるスペースを作り出したりといった目的です。

心臓が脈打つ力が弱まっていることが原因の場合には、心臓の拍動を強めるような薬が有効です。しかし薬剤ではカバーしきれないような時は大動脈内バルーンパンピングといって大動脈(心臓から出る太い血管)内に長い風船状の機器を入れる処置を行うことがあります。これには大切な冠動脈へ血液を送りこむ目的と、心臓の負担を減らす目的があります。

ここまでは心不全を補うための治療ですが、心不全を引き起こしている明らかな原因がある場合には、それを解決しなければいつまでも心不全は改善しません。例えば全身の感染症が原因になっていたら抗生物質(抗菌薬)が心不全の治療薬にもなりますし、心筋梗塞が原因であればカテーテル治療が必要となるかもしれません。(急性)心不全という病気があるわけではなく、心不全はあくまでも病状の一つなのです。

このように色々な原因があってさまざまな治療法が必要な急性心不全を治療するには入院の上での治療が必要です。循環器内科に入院して治療を受けることになるでしょう。基本的には循環器内科がある病院であれば対応は可能なのですが、大量の酸素を吸入しても呼吸が落ち着かなかったり、先述した大動脈内バルーンパンピングが必要であったりするような重症の場合にはより専門性の高い施設に移動した上で治療を受けることがあります。ICU(集中治療室)やCCU(冠動脈集中治療室)と呼ばれるような設備がある病院や、循環器専門医の多くいる病院などです。重症度が極めて高い場合には、虚血性心疾患弁膜症など心不全の原因によって心臓手術が必要になります。そのような時には循環器内科医だけでなく心臓血管外科医(心臓外科医)もいる病院であることが条件となるでしょう。

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