たんじゅんへるぺすのうえん
単純ヘルペス脳炎
単純ヘルペスウイルスの感染によって引き起こされる脳炎
15人の医師がチェック 66回の改訂 最終更新: 2017.12.06

Beta 単純ヘルペス脳炎のQ&A

    単純ヘルペス脳炎とはどのような病気ですか?

    急性のウイルス性脳炎の中で最も頻度が高い病気です。原因となるウイルスは単純ヘルペスウイルスです。単純ヘルペスウイルス自体は多くの人が感染したことのあるウイルスなのですが、どうして一部の人で脳炎を引き起こすのかについて詳しいことはわかっていません。原因としては単純ヘルペスウイルスの1型が多いです。

    単純ヘルペス脳炎のメカニズムについて教えて下さい。

    単純ヘルペスウイルスは、一度感染して(通常の単純ヘルペスウイルス感染時の症状は皮疹です)治った後も潜伏感染していることが多いです。潜伏感染している場所は神経で、特に三叉神経節が有名です。この潜伏している単純ヘルペスウイルスが何らかの理由で再活性化して、脳に侵入し、単純ヘルペス脳炎を引き起こすと言われています。

    単純ヘルペス脳炎とヘルペスウイルス性髄膜炎の違いについて教えて下さい。

    どちらも単純ヘルペスウイルスが原因となる中枢神経の感染症ですが、脳炎の方は脳実質にまで感染が及んでおり、非常に重篤な症状が出現します。また、ヘルペスウイルス性髄膜炎では、脳実質は正常であり、髄膜のみの炎症であることが多いため、発熱や激しい頭痛を認めるものの、意識障害などは認めないこともあります。

    単純ヘルペス脳炎は、他人にうつる病気ですか?

    単純ヘルペスウイルス自体は感染力が強いウイルスであり、接触感染や飛沫感染で感染します。しかし、単純ヘルペスウイルスに感染することと単純ヘルペス脳炎を発症することはまた別の問題です。単純ヘルペスウイルス感染者で単純ヘルペス脳炎を発症する人はごく一部です。

    単純ヘルペス脳炎は、どんな症状で発症するのですか?

    多くの場合は急性発症です。発熱、頭痛、倦怠感、上気道症状といった症状が出現すると、初期症状を風邪の症状と区別することは難しいでしょう。そのうちに頭痛や項部硬直(首が硬くなり、曲がらない状態)といった髄膜炎と同じような症状が出現してきます。髄膜炎と違う点は、感染が脳実質に及ぶことにより、意識障害など非常に重篤な症状が出現することです。

    単純ヘルペス脳炎が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    脳実質に症状が及ぶと、意識障害などの症状が出現します。意識障害と一口に言っても、少しぼーっとした状態であることもあれば、幻覚や妄想、錯乱がみられたり、自分が今どこにいるのかわからなくなったり、日付もわからなくなってしまうなどの重篤な症状を示すこともあります。人格変化がみられることもあり、ところかまわず騒ぎ立てたり自分勝手になったりします。また、けいれんや麻痺などの症状がみられることもあります。

    単純ヘルペス脳炎は、どのように診断するのですか?

    髄膜炎の検査と同様に、血液検査および髄液検査を行います。血液検査では軽度の炎症反応の上昇以外にはあまり有用な情報は得られず、主に他の病気を除外するため、全身状態をチェックするために行います。髄液検査では、ウイルス性髄膜炎の時と同様の結果を示しますのでここでは省略します。 さらに、単純ヘルペス脳炎では脳実質が障害されるので、画像検査を行います。頭部MRIが有効で、側頭葉や前頭葉に異常が見つかることが多いです。

    単純ヘルペス脳炎の、その他の検査について教えて下さい。

    原因が単純ヘルペスウイルスであることを確かめるための検査が必要です。血液・髄液において単純ヘルペスウイルスの抗体を測定したり、PCRによる単純ヘルペスウイルスのDNAの検出を行う検査をします。 また、この病気では脳波検査で異常を示すことも特徴です。この病気に特徴的な脳波異常(周期性一側性てんかん型放電)などもあり、脳波検査を行うことは多いです。

    単純ヘルペス脳炎と診断が紛らわしい病気はありますか?

    単純ヘルペス脳炎では大脳辺縁系と呼ばれる箇所が障害されるために、辺縁系脳炎と呼ばれることがあります。辺縁系脳炎の代表的なものは単純ヘルペス脳炎ですが、その他自己免疫疾患や悪性腫瘍の影響(傍腫瘍症候群)でも同様の症状を出すことがあります。単純ヘルペス脳炎では単純ヘルペスウイルスに感染したことを証明することが必須です。

    単純ヘルペス脳炎の治療法について教えて下さい。

    単純ヘルペスウイルスに対しては、アシクロビルという抗ウイルス薬が存在します。これを1日3回点滴投与するのですが、期間として2-3週間は必要になります。重症例では薬の量を増やすことがあります。アシクロビルが効かない場合は、ビダラビンという薬を使うことがあります。 また、抗ウイルス薬に加えて副腎皮質ステロイドを投与することで効果がさらに高まることが示されています。

    単純ヘルペス脳炎では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    単純ヘルペス脳炎が疑われる場合は、必ず入院して治療を行います。それだけ重症な病気であることを覚えておいて下さい。初期治療が遅れてしまうと、それだけ死亡したり後遺症が残ったりしてしまうリスクが上がります。この病気が疑われる場合には、すぐに入院して治療を開始しなければなりません。

    単純ヘルペス脳炎は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    アシクロビルが開発されるまでは死亡率は60-70%と非常に高い病気でした。現在では死亡率は20-30%と下がってはいますが、依然として高いままです。また、後遺症が残ることが非常に多く、死亡と高度後遺症をあわせた率は30-50%と非常に高いです。このように非常に重症な病気ですが治療薬は存在するため、早期治療が極めて重要となります。