のうのうよう
脳膿瘍
頭の中に細菌などの感染がおこり、膿が溜まる病気
12人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2020.06.26

Beta 脳膿瘍のQ&A

    脳膿瘍は、どんな症状で発症するのですか?

    脳膿瘍は通常脳の内部にできます。そして周囲の脳に強い炎症を起こし、脳が腫れる(脳浮腫を起こす)ため、頭蓋骨内部の圧が上昇し、頭痛や吐き気を起こします。

    また脳膿瘍自体、もしくは周囲の浮腫によって、その部分が担当している機能が影響され、麻痺や言語障害を起こします。

    細菌や真菌の感染によって起こりますが、必ずしも熱が出るとは限りません。

    脳膿瘍の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    細菌や真菌(かびの仲間)による炎症が脳に起こり、脳の中に膿がたまった状態が脳膿瘍です。感染性心内膜炎といった病気が原因で、血液を介して脳に細菌が流れ着く場合と、中耳炎や副鼻腔炎から骨・硬膜を破壊して直接脳組織に菌が至る場合があります。

    脳膿瘍の治療法について教えて下さい。

    小型のもので、すでに感染性心内膜炎の診断がついているなど、脳膿瘍が強く疑われる場合には速やかに抗生物質の治療を開始します。

    脳膿瘍による脳浮腫に対しては、浸透圧利尿薬(グリセリンやマンニトール)の点滴を行います。

    脳膿瘍が2-3cmよりも大きい場合には、これ自体が周囲の脳をかなり圧迫していることも多いため、手術によって取り除くことがあります。内部は、「痰(たん)」のようなどろどろした膿のことも多く、この膿を取り除いたり、管を留置して、内部を抗生物質で洗浄したりすることもあります。

    脳膿瘍は、どのように診断するのですか?

    造影剤を用いたCTやMRIで診断します。ただし画像の検査結果だけでは脳腫瘍との区別が難しい場合があります。

    MRIの拡散強調画像という撮影方法で、脳膿瘍は白く写ることが多いです。またMRスペクトロスコピーという方法で内部の化学的な成分を調べることが可能で、これにより診断ができる場合もあります。

    脳膿瘍の治療法の使い分けについて教えて下さい。

    脳膿瘍のサイズが小さい場合には抗生剤の治療のみを行うという選択肢もあります。

    サイズが大きい場合には手術が勧められますが、感染性心内膜炎などがあって全身麻酔が難しい場合などは、局所麻酔で頭に小さい孔を開け、管を挿入して洗浄のみを行う場合もあります。

    脳膿瘍は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    日本では10万人に0.4-0.9人程度の割合で起こります。

    AIDS患者や、臓器移植後などで免疫抑制剤を内服している方には、より高い頻度で起こります。

    脳膿瘍の、その他の症状について教えて下さい。

    神経細胞が電気的に異常な興奮を来たし、けいれん発作(症候性てんかん)を起こすことがあります。

    脳膿瘍の、その他の検査について教えて下さい。

    感染性心内膜炎という心臓の感染症が元になっていることが多いため、心臓超音波検査を行うことが多いです。

    また、肺に動静脈瘻と呼ばれる、動脈と静脈が繋がっている部分があることもあり、肺の造影CTやカテーテル検査(血管撮影検査)が有用なこともあります。

    血液中に原因となった菌がいることがあるため、血液の培養検査も行います。

    脳膿瘍と髄膜炎の違いについて教えて下さい。

    脳膿瘍も髄膜炎も、脳の近くで菌が炎症を起こして生じる病気です。

    このうち脳膿瘍では菌が活動している場所が脳内に限られている場合が多いのですが、髄膜炎は、脳の表面にある薄い膜(髄膜)の部分で菌が活動することになります。脳膿瘍と髄膜炎が同時に存在することもあり得ます。膿瘍が膨らんで、脳室と呼ばれる空間とつながってしまうと、菌が髄液の中に流れこむ形になるため、髄膜炎となって治療に難渋します。

    逆に髄膜炎から脳膿瘍を来すことは、よほど治療が遅れた場合を除き、あまりありません。

    脳膿瘍が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    脳膿瘍が大きくなったり、周囲の浮腫が強くなると、意識に影響を及ぼし、眠りがちになったり、意識が戻らなくなります。

    脳膿瘍が、脳室という髄液を作る部屋と繋がると、菌が脳室の中に広がって脳室炎という重篤な状態になります。

    脳の腫れが強くなって、脳幹に圧迫が加わったり、脳室炎の治療が奏功しないと命に関わることがあります。

    脳膿瘍と診断が紛らわしい病気はありますか?

    転移性脳腫瘍や、膠芽腫、悪性リンパ腫などが、造影頭部MRI検査で脳膿瘍と同じような見かけを呈することが多く、区別が必要となります。

    脳膿瘍の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    点滴による抗生剤の治療を原則6週間行うことになっていますが、脳膿瘍の縮小、消失具合によっては短くなる場合もあります。また退院後も2-4週間程度、内服の抗生物質を飲んでいただく場合があります。

    脳膿瘍では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    脳膿瘍が疑われた場合、原則入院による治療が必要です。

    抗生物質の点滴が必要であったり、脳膿瘍が比較的早く大きくなって、緊急手術が必要になる場合があるためです。

    脳膿瘍が発症しやすくなる、または脳膿瘍の人が他に注意すべき病気はありますか?

    脳膿瘍は、免疫力が低下していると生じやすくなります。具体的には以下のような方に多いです。

    • 免疫抑制剤を内服している方
    • HIV感染のある方
    • 何かしらの悪性腫瘍を患っている方

    脳膿瘍は、再発を予防できる病気ですか?

    虫歯や中耳炎が原因となった脳膿瘍であれば、これらの治療が必要です。再発予防のためには、虫歯の予防を含めた生活習慣の改善(口腔内の清潔を保つなど)が必要になります。

    脳膿瘍に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    脳膿瘍では、脳自体(多くは大脳)に傷が付いており、けいれん発作(症候性てんかんと呼びます)を起こすことがしばしばあります。特に発症から治療の経過中にけいれん発作を起こされた場合には、脳膿瘍が治った後も抗てんかん薬の内服が必要な場合が多く、きちんと内服する必要があります。また、疲労をためない、睡眠不足を避けることも重要です。

    脳膿瘍は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    手術と抗生物質により完治し得る病気ですが、もともとの免疫の状況によっては、なかなか根治に至らなかったり、命に関わることもある病気です。

    また、脳自体に病原菌への感染によって傷がついていますので、その傷ついた部分が言語中枢や運動中枢の場合には、言語障害や麻痺症状が後遺症として残る場合があります。