のうしゅっけつ(のうないしゅっけつ)
脳出血(脳内出血)
脳の内部で起こる出血。脳梗塞、くも膜下出血とあわせて脳卒中と呼ばれる
11人の医師がチェック 155回の改訂 最終更新: 2022.02.28

Beta 脳出血(脳内出血)のQ&A

    脳出血、くも膜下出血、脳卒中の違いは何ですか?

    脳の血管に生じる疾患の中では、脳卒中が一番大きなくくりです。この言葉は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の総称として一般的に使われています。いずれも、「脳血管の病気である」、「急激に意識障害や麻痺などの症状が出現する」、「重い後遺症を残すことがある」などの共通点はありますが、別の病気です。

    脳卒中の中でも、脳梗塞を除く脳出血、くも膜下出血が、出血による病気になりますが、これらは出血が生じる場所が異なります。脳出血は「脳内出血」ともよばれ、脳の内部に出血する病気です。一方で、くも膜下出血は脳の表面を覆う薄い膜(くも膜)と脳の間(くも膜下腔)に出血する病気です。

    脳内出血がくも膜下腔に拡がったり、くも膜下出血が脳内に入り込んだりすることもありますが、その場合は原因となった血管が脳の内部にあるか、くも膜下腔にあるかで区別をします。

    脳出血とくも膜下出血は、典型的な症状や原因、治療法も異なります。

    脳出血は主にどのような症状で発症するのですか?

    脳出血が発症した場合に、必ずといっていいほど起こるのは頭痛です。多くの患者さんが、嘔吐を伴う、突然起こる激しい頭痛を経験します。

    また、同時に様々な神経症状が起こります。よく見られる神経症状としては、体の片側の麻痺があります。原則として「体の片側」に「突然」起こることが多く、例えば以下のような症状になります。

    • 顔面のうち片方が上手く動かない
      • 両目をぎゅっと閉じようとしても片目だけしっかりつむれない
      • 眉毛を上げようとしても片眉だけしっかり上がらない
      • 口角が上がらない(「いー」という口の形が片方だけできない)
      • 舌をまっすぐ突き出せず片方に寄ってしまう
      • ものがうまく飲み込めない
      • 言葉がうまく発音できない
    • 片方の腕や手がうまく動かない
      • コップが持てない
      • ばんざいをしようとしても片腕だけ上がり方が悪い
    • 片方の脚がうまく動かない
      • しっかり歩けない

    これらの症状は同時に複数のものが見られることもありますし、麻痺の中でも軽いものから重いものまで重症度は様々です。

    脳出血はどのように診断するのですか?

    脳出血の多くは、頭部CT検査によって診断が可能です。頭部CTは国内の総合病院であればほとんどの病院で可能な検査ですので、脳出血の疑いがある患者さんは、緊急でCT検査を行うか、CTが無い場合にはCT検査の出来る病院に搬送されます。

    また出血の原因が不明な場合や、くも膜下出血を合併しているような場合は、脳動静脈奇形や未破裂脳動脈瘤の有無などを調べるために、造影CT検査(CTアンギオ)やMRI/MRAを行う場合もあります。

    脳出血になった後は、どのような治療を行うのですか?

    脳出血を起こしていることが判明した時点で、入院して緊急の治療を行います。脳出血の治療の基本は保存療法になります。重要な項目としては以下のような治療があります。

    • 血圧の管理:適切な圧まで血圧を下げる1)
    • 脳浮腫の管理:脳がむくんで圧力が上がるのを予防する
    • 出血の管理:血液をサラサラにする薬剤は中断し、それらの効果を妨げる薬剤を投与する

    その他にも、呼吸に障害があれば呼吸をサポートするような処置を行います。ここには人工呼吸器も含まれます。また入院後に、出血の状況が落ち着き次第、早い段階でリハビリテーションを行うことが重要です。

    また、全ての場合ではありませんが、手術を行うこともあります。

    脳出血を起こしたら、「血液をさらさらにする薬」は飲むのをやめた方が良いのでしょうか?

    脳出血のことだけを考えると、少なくとも脳出血の発症直後は中断することが望ましいと言えます。一方で、もともと持っている病気の種類によっては薬を中断することがかえって患者さんにとって悪い場合もあります。

    これは病気ごと、そして、それぞれの病気の重症度ごとに個別の判断が必要です。「脳出血が怖い」ということで、ご自身の判断で薬を中断して、逆に脳梗塞を発症してしまう方もいます。両方のバランスを見た上で、薬を続けるか止めるかどちらがベストかを医師は判断しますので、自己判断で薬を中断することはぜひ避けて、心配がある場合でもまず医師か薬剤師に相談して下さい。

    一時的に中断した薬も、一定期間経ってから内服を再開することが多いです。

    脳出血では、どのような場合に手術が行われるのですか?

    脳出血に対する手術は大きく2種類に分かれます。1つは血腫除去術、もう1つは脳室ドレナージ術です。
     

    ・血腫除去術

    • 出血によって出来た血腫を取り除く手術です。全ての患者さんで行われるわけではなく、手術が行われ得る場合は以下のような状況になります。
      • 脳出血の中でも被殻出血、皮質下出血、小脳出血のいずれかに当てはまる
      • 被殻出血の場合は、一定以上の出血量があり(31ml以上)、かつ周りの脳が強く圧迫されているような場合
      • 皮質下出血の場合は、脳表からすぐ(1cm以内)の出血の場合
      • 小脳出血の場合は、血腫の直径が3cm以上で、神経症状がどんどん悪くなっている場合、または水頭症を合併している場合
    • 逆に言うと、これら以外の状況では血腫除去術の適応になることは、原則としてありません。つまり、そのような場合には手術を行うことによる悪影響の方が大きいと考えられ、基本的に手術は行うべきではないと考えられます。
       

    ・脳室ドレナージ術

    • 脳室と呼ばれる脳内の空間に流れ込んだ血液を吸い出すための手術です。脳室内に血腫があると、それが髄液の通り道を塞いで水頭症を起こす原因になることがあるため、手術で血液を外へ流し出します。
    • 脳室ドレナージ手術では、頭蓋骨に細い穴を開け、脳の表面から脳室に細いチューブを通します。このチューブを通じて頭の外に髄液と血腫を吸い出すことが目的です。この手術は、基本的に水頭症を起こしている、または水頭症になる危険性が高いと判断された場合に行われます。

    脳出血の原因は何ですか?

    脳出血の原因には、脳の血管の異常や脳腫瘍など明らかな異常があるものと、そうでないものがあります。脳の血管の異常や脳腫瘍などの他の病気がないものに限ると、脳出血が特に起こりやすいのは以下のような特徴をもつ人であることが分かっています。

    • 高血圧
    • 肥満
    • 大量飲酒の習慣がある1)
    • 喫煙習慣がある2)
    • 抗血小板療法や抗凝固療法を行っている(血液をサラサラにする薬を内服している)

    高血圧は脳出血にとって最大の危険因子で、ガイドラインでも治療を強く勧めています。収縮期血圧を10mmHg低下させたところ、脳卒中のリスクが約40%減ったという報告もあります。また、飲酒や肥満、喫煙が脳出血の危険性を上げることも知られています。抗血小板薬や抗凝固療法は、他の虚血性疾患(例えば脳梗塞や心筋梗塞など)の治療や予防で使用されますが、血液を固まりにくくする薬であるため、一方では出血の危険性が高くなります。

    脳出血の予防のために、生活習慣の是正や高血圧の治療、抗血小板療法・抗凝固療法の適切なコントロールを行うことが重要です。

    脳出血で起こることのある、その他の症状について教えて下さい。

    脳出血は、上述の通り「頭痛」と「体の片側の麻痺(運動麻痺、感覚麻痺)」で起こることが多いです。しかし起こり得る症状はこれだけでなく、脳の障害された部分が本来担当していた機能によって、以下のような症状が出ることもあります。

    • 言葉が出てこない、理解できない(失語)
      • 言語野という部分が障害されると失語が起こります
      • 言語野は多くの場合、脳の左側にあります
    • 視野の片側が見づらい(半盲)
      • 右目で見ても左目で見ても、視野の同じ側が見えづらくなった状態です
      • 後頭部にある視覚野という部分が障害されると起こります
    • めまい
      • 脳の中でも小脳という部分が障害されると、突然の激しいめまいが起こります
      • ふわふわするめまい(動揺性めまい)やぐるぐるするようなめまい(回転性めまい)など、様々な形で起こります

    また、脳の奥に存在する脳幹は、生命維持装置としての重要な働きを担っていますが、脳幹の出血(脳幹出血、橋出血などと呼ばれます)が起こると、意識障害や呼吸障害が起こる頻度が高くなります。出血の量によっては急速に状態が悪化し、そのまま死に直結することがあります。

    脳出血を起こすような脳の異常や、他の病気にはどのようなものがありますか?

    脳出血の一部は、脳血管の異常や脳腫瘍などが原因で起こります。代表的な病気としては以下のようなものがあり、それぞれの病気についての治療方針がガイドラインで定められています。

    • 脳血管の異常
      • 脳動静脈奇形
      • 硬膜動静脈瘻
      • 海綿状血管腫
      • 静脈性血管腫
    • 脳腫瘍

    その他にも、慢性腎臓病や妊娠によって脳出血が起こりやすくなることが知られています。

    脳出血では、どんな後遺症が残ることがありますか?

    脳出血の症状や後遺症は、出血の場所と程度により多岐にわたります。手足の麻痺、失語、高次脳機能障害などの症状が様々な程度で組み合わさって後遺症として残り得ます。四肢の痛みや、けいれん発作が後から生じてくることもあります。

    脳出血が命に関わることはありますか?

    脳出血は重大な病気であり、命に関わることがあります。重症の場合には、治療を行っても発症当日に亡くなってしまうこともあります。

    脳出血で意識がない人が、その後目を覚ますことはあり得るのですか?

    意識が戻るかどうかは、脳出血の場所や出血の量、そして発症からの時間に大きく左右されます。発症の直後で出血の量が多く、血(血腫)が脳を圧排しているのが原因であれば、手術で血腫を取り除くことで意識が回復する可能性があります。

    一方で、意識のない状態が長く続いている方の場合は、時間が経つほど回復する可能性は低くなり、ずっと意識のなかった人がある日突然目を覚ますということは基本的にはありません。

    脳出血の症状は、どれくらいで良くなりますか?

    脳出血では病気になった直後、いわゆる急性期が、最も症状の改善が見られやすい時期とされています。

    発症から数週〜数ヶ月の期間で、改善の度合いは徐々に緩やかになり、途中で頭打ちになるのが一般的です。発症から3-6ヶ月頃が症状安定期となる場合が多いです。

    脳出血による入院期間はどのくらいですか?

    症状が頭痛程度で、神経症状が全くないような場合、あるいは神経症状があっても極めてわずかな場合には、出血の原因を探る検査のために数日間だけの入院となることもあります。

    手術を受けた場合や重症の場合には長期のリハビリが必要となることが多く、1-2ヶ月の入院となるかもしれません。

    また、病院には大きく分けて急性期型の病院と療養型の病院があります。どちらが優れているというものではなく、病気の時期に応じてそれぞれを利用し分けることが想定されています。例えば手術を受けるのは急性期型の病院ですが、その後に長期的なリハビリテーションを行うのは療養型の病院です。入院の途中のタイミングで、急性期型病院から療養型病院へ転院して、更に入院を続けることも珍しくありません。

    脳出血の再発予防について教えてください。

    多くの脳出血において、高血圧が大きな原因の一つです。したがって再発予防の中心は高血圧の治療になります。

    目安としては140/90mmHg以下、可能であれば130/80mmHg以下を目指します。