まんせいこうまくかけっしゅ
慢性硬膜下血腫
硬膜下(硬膜と脳の間のスペース)で、時間をかけてじわじわと出血して、血が溜まる病気
16人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2022.08.05

慢性硬膜下血腫の治療後の注意点:再発の予防や早期発見

慢性硬膜下血腫になった後には何に注意をして過ごせばいいのでしょうか。慢性硬膜下血腫を再発しないための工夫と、再発になるべく早く気づくという2点について解説します。

1. 慢性硬膜下血腫の再発を予防するための注意点

慢性硬膜下血腫の再発を予防するにはどのような方法があるのでしょうか。再発は特に原因がなく起こることもあるのですが、避けられる再発もあります。ここでは慢性硬膜下血腫の最も多い原因である頭部外傷(頭を強打すること)を避ける方法について考えていきます。

家屋の注意点

慢性硬膜下血腫は転倒などによって頭を強打した後に起こることが多いです。慢性硬膜下血腫をもう起こさないようにするにはまずきっかけになる転倒などを避けることです。最も多くの時間を過ごす家屋に転倒の危険は隠れていないでしょうか。以下のポイントを確認して下さい。

  • 段差
  • 階段の手すりの有無
  • 廊下などの明るさ

段差や階段などはつまずきがどうしても起きやすく、つまずいたのが高齢者ならば受け身を上手にとれずに頭を強く打ってしまうことも有り得ます。段差や階段の手すりの有無などについては一度見直してみるのはよいことです。

暗い場所は足元が暗くなりこれもまたつまずきやすい環境です。廊下などは意外に暗いことが多いのでなるべくなら足元までしっかり見えるくらいの明るさが適しています。

移動時の工夫

移動の方法についても見直すことをお勧めします。

転倒が起きやすい状況は歩いたり階段を登ったりして移動をしている時などです。普段から転んだりふらつきがある場合には家族や介護をする人が横を歩いたり階段では後ろにいたりするだけで、危険を回避できたり軽症ですんだりすることもあります。また歩き慣れていない場所では無理に歩くのではなく車椅子などを用いることもよい方法です。できるだけ転倒のリスクに配慮をすることが大切です。

高齢者の転倒は慢性硬膜下血腫だけではなく足の骨折などにつながるので十分な注意が必要です。高齢者に怪我や病気が起こると若い人に比べて回復も時間がかかりますし、それが原因で寝たきりになってしまうこともあります。なるべく危険を少なくするように工夫してみて下さい。

2. 慢性硬膜下血腫の手術後の再発に気づくためには?

慢性硬膜下血腫は再発をすることがあり注意が必要です。

とはいえ再発はどうしても避けがたい側面があります。再発した場合にはできるだけ早めに気づいて治療をすることがその後の順調な回復につながります。再発に注意が必要な時期やどんな症状が現れるかを確認していきます。

参考文献
・Oishi M, et al. Clinical factors of recurrent chronic subdural hematoma. Neurol Med Chir.2001;41:382-6
・Wang F, et al. Prolonged drainage reduces the recurrence of chronic subdural hematoma. Br J Neurosurg. 2009;23:606-11
・Oh HJ. et al. Postoperative course and recurrence of chronic subdural hematoma. J Korean Neurosurg Soc. 2010;48:518-23
・Kung WM, et al. Quantitative assessment of impaired postevacuation brain re-expansion in bilateral chronic subdural haematoma: possible mechanism of the higher recurrence rate. Injury. 2012;43:598-602
・Yamamoto H, et al. Independent predictors of recurrence of chronic subdural hematoma: results of multivariate analysis performed using a logistic regression model. J Neurosurg. 2003;98:1217-21

なぜ再発が起きるのか?

なぜ再発が起きるのでしょうか。再発は二つのケースが考えられます。一つは再び頭を打ったりして頭の中に出血が起きて再発するケースです。もう一つは、手術の後に特に原因なく再発してしまうケースです。頭を強打することによる再発は家屋や移動のときに注意することで可能性を小さく出来ます。

手術で治療したのに再発するのはなぜでしょうか。再発が起きる詳しいメカニズムは解明されていませんが、血腫を取り除いた後に圧迫された脳が膨らみきらずにスペースができてしまうことなどが原因だと考えられています。

再発はどれくらいの割合で起こるのか?

過去の治療実績の報告を参考にすると慢性硬膜下血腫の再発は5-30%の割合で起こると考えられます。数値にやや幅がありますが、油断ができない確率です。再発は手術後の受診した際に見つかることもあるので、元気になっていても予定された再受診は欠かさないようにしてください。

再発はどの時期に多いのか?

再発に気をつけなければならない時期はいつなのでしょうか。再発は手術後1-8週後に起こることが多いと報告されています。この時期は特に注意が必要だと考えられます。

どんな人に再発が多いのか?

慢性硬膜下血腫の再発はどのような人に多いのでしょうか。再発が多い条件として以下が見つかっています。

  • 高齢
  • 血腫に厚みがあった
  • 両側に慢性硬膜下血腫があった

再発の可能性に関しては医師から退院時や外来で説明があると思いますが、以上の条件に当てはまる人はより慎重に経過を見ていく必要があります。この3つに共通しているのは手術後にも頭の中に大きなスペースができてしまう可能性が高くなることです。

高齢の人は脳が萎縮していることが多いですし、血腫が大きければその分だけ血腫を取り除いた後には大きなスペースができます。また両側に慢性硬膜下血腫ができているとその分だけスペースが大きくなります。

頭の中にスペースが広がるとそこに血液の塊が溜まってしまう余地になり、再発が起る原因の一つと推測されています。

では退院後などはどんなことに気をつければいいでしょうか。退院後、再発に気づくには症状に注目していくことになります。再発時はどんな症状が現れるのでしょうか。

どんな症状が現れるのか?

再発だからといって症状の特徴が変わる訳ではありません。慢性硬膜下血腫に特徴的な症状が現れます。以下のものです。

  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 麻痺:身体が自由に動かせない
  • 認知症
  • 記銘力障害:もの忘れ
  • 見当識障害:場所や時間がわからなくなる
  • 意識障害
  • 尿失禁:尿漏れ
  • 性格の変化

ただし、この中のどれが現れるかはそのたびごとに違い、再発時に出る症状は、同じ人で初回に出た症状とは異なることもあります。つまり初回は身体の麻痺で見つかり再発時には認知症で見つかることもあり得る話です。

慢性硬膜下血腫は発症から時間の経過とともに血腫が大きくなっていきます。血腫が大きくなると症状も強く出ることが予想されます。なるべく早く治療をする方がその後の回復を順調にすると考えられます。そのために症状について十分に知っておくことは再発に早めに気づくのに有効な手段になります。

慢性硬膜下血腫の症状については「このページ」も参考にして下さい。