2017.01.28 | ニュース

捏造・改竄・盗用だけじゃない!227人の研究者が答えた不正の現実

主要な不正の頻度と影響力

from Research Integrity and Peer Review

捏造・改竄・盗用だけじゃない!227人の研究者が答えた不正の現実の写真

研究不正は世論をゆがめ、社会を混乱させ、大きな損害を生み出します。明らかな不正とされる捏造(ねつぞう)・改竄(かいざん)・盗用のほかにも望ましくない行いは数多く指摘されています。研究者への聞き取り調査の結果が報告されました。

オランダのアムステルダム自由大学などの研究班が、研究上の望ましくない行いの頻度と影響について、研究者から聞き取り調査を行った結果を専門誌『Research Integrity and Peer Review』に報告しました。

研究班は、研究上の行いについて4つの観点から望ましくない行いのリストを作成しました。

  • 研究デザイン
  • データの集め方
  • 報告
  • 研究者の協力関係

調査対象として、「研究規範についての世界会議」に参加したことがある研究者1345人にメールを送信し、オンラインアンケートに答えてもらいました。

アンケートでは望ましくない行いのそれぞれが行われている頻度、行われた場合の影響などについて質問しました。

 

227人から返信がありました。回答の中で最も頻度が高いとされていたものは以下のとおりでした。

  • 発見や信念を補強するために都合のいい文献を選んで引用すること
  • 若い共同研究者を十分に監督・指導しないこと
  • ネガティブな研究結果を、意味があるのに出版しないこと
  • 不適切な研究論文に著者として名前を載せる、またはそれを依頼すること
  • 掲載誌の編集者、査読者、共同研究者を喜ばせる文献を選んで引用すること

真実に対する影響が最も大きいとされていたものは以下のとおりでした。

  • データを捏造すること
  • データを最初に解析したうえで、一部を選んで削除したり、改変したり、捏造したデータを加えたりすること
  • スポンサーの圧力により結果や結論を変えること
  • 明らかに不適切な研究デザインを選んだり、明らかに不適切なデータ測定方法を使ったりすること
  • 以前の発見や信念に合わない結果を隠すこと

頻度の平均点と真実に対する影響の平均点を掛けると、上位は以下のとおりでした。

  • 若い共同研究者を十分に監督・指導しないこと
  • 研究の欠点や限界を十分に報告しないこと
  • 研究のプロセスを適切に記録しないこと
  • ほかの研究者が不適切な行いを疑われていることに注意を払わないこと
  • 研究の質を保証する基本原則を無視すること

これらの回答を、研究班は「回答者は科学的虚偽(改竄・捏造・剽窃)よりもはるかに、いい加減な科学に対して懸念を感じていた」と要約しています。

 

明らかな研究不正が発覚すると、大きく報道され、多くの人の印象に残ります。

「ワクチンが自閉症の原因になる」という虚偽の報告をしたウェイクフィールド事件、「ヒトのクローン胚からES細胞を作った」という虚偽の報告をしたファン・ウソク事件、「細胞を酸性の状態に置くことできわめて簡単に多能性を与えた」という虚偽の報告をしたSTAP細胞事件などはよく知られた例です。

こうした不誠実な行為は決してあってはならないことです。誤解を広めることによってリスクに対して適切でないふるまいを促したり、根拠のない不安を生み出したりといった直接的な害があるだけでなく、社会全体にとって科学研究の信頼感を損なうことで、何を信じればいいのかわからない状況を作ってしまう恐れもあります。

 

ここで紹介した研究は、明らかな研究不正にとどまらず、個々の影響は比較的小さくても頻繁に行われている望ましくない行為について、多くの研究者が懸念を抱いていることを報告しています。

仮定として、新薬の研究で「効果が見られた」という結果のものだけが論文として出版され、「効果が確かめられなかった」という結果のものが非公開とされれば、論文を読む人には「効果がある」という印象が強く残ってしまうかもしれません。

ほかの仮定として、実は研究対象者が非常に厳しい条件で選ばれているのに、条件の厳しさに注意を促す表現が少なく、効果が見られた点を強調する表現が多ければ、読んだ人の印象は「効果があり重要だ」という方向に偏ってしまうかもしれません。

明らかな不正とは言えない範囲のことについては、研究者が自律的に正していくことが非常に重要です。この研究で「十分に監督・指導しないこと」が上位に挙げられていることは、そうした問題意識を反映しているのかもしれません。

 

科学研究が本来の意義を達成し、社会に貢献するためには、ごまかしのない事実が適切な表現で報告されることが基本的な条件になります。研究者だけでなく、研究者を取り巻くさまざまな主体が監視機能を持つことも求められているのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Ranking major and minor research misbehaviors: results from a survey among participants of four World Conferences on Research Integrity.

Research Integrity and Peer Review. 2016 Nov 21.

http://researchintegrityjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s41073-016-0024-5

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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