2023.03.31 | コラム

これってサル痘の症状?

正しい知識を身につけ、正しく恐れる(2023年3月30日現在)

これってサル痘の症状?の写真

2023年1月以降、東京を中心にサル痘感染者の報告が目立ってきました。世界と比較すると多くはないものの[1]、国内の感染者数は計82人となっています(2023年3月30日)[2]。

前回のコラムでは、「サル痘の感染経路と感染対策」について解説しました。それでは、どのような時にサル痘を疑えばよいのでしょうか。本コラムでは、サル痘の症状について解説を行い、サル痘を疑う状況について考えていきます。

 

現在のサル痘の主な症状は皮疹である

サル痘の潜伏期間は通常6-13日(最大5-21日)です。

これまで知られてきたサル痘の典型的な臨床症状は、発熱、頭痛、リンパ節の腫れなどの症状が0-5日程度持続し、発熱した1-3日後に皮疹が出現することでした。皮疹は顔面から始まり体幹部へと拡大し、水疱を伴うことが特徴でした。しかし、今回の流行では、性交渉による皮膚粘膜の接触からの感染が多いためか、これまでとは異なる症状が数多く報告されています。

2022年以降の流行におけるサル痘の特徴的な症状】

  • 発熱、頭痛、リンパ節の腫れなどの症状が最初に出ないこともある
  • 皮疹の出る場所が性器、肛門周囲、口腔粘膜などの粘膜に集中しており、全身へ広がる皮疹が見られない
  • 皮疹は典型的には「紅斑(赤み)→丘疹(盛り上がったブツブツ)→水疱(水ぶくれ)→痂皮(かさぶた)」と変化するが、異なる段階の皮疹が同時にみられることがある。例えば、紅斑と丘疹が同時に見られることがある
  • 肛門直腸病変による肛門痛・直腸出血なども報告されている

 

今回の流行について欧州16カ国43施設から報告された528人のまとめでは[3]、次のような割合で症状が出ていたとされています。

【欧州16カ国のサル痘感染者の主な症状[3]】

  • 皮疹:95%(そのうち64%は10個以下)
    • 出現部位
      • 性器周辺:73%
      • 体幹・腕・脚 :55%
      • 顔面 :25%
      • 手掌・足底 :10%
    • 紅斑、丘疹、水ほうなど、同時に異なる段階の皮疹が見られた
  • 皮疹に先行する全身症状
    • 発熱:62%
    • リンパ節:56%
    • 倦怠感:41%
  • 粘膜病変:41%
    • 直腸炎、テネスムス、下痢、咽頭痛、嚥下時痛、喉頭蓋炎 など(*テネスムスとは、便意は頻繁にあるが便が出ない、もしくは出ても少量である状態のこと)

 

日本からは、2023年3月30日までに合計82人のサル痘の感染者が報告されています [2]。厚生労働省のホームページに公開されている情報によると全員が男性で、5人を除いた77人に何らかの症状を認めていました。国内感染者の主な臨床症状は次の通りです。

【国内サル痘感染者の主な症状[2]】

  • 皮疹:73人(94.8%)
  • 発熱:56人(72.7%)
  • 倦怠感:20人(26.0%)
  • リンパ節の腫れ:28人(36.4%)
  • 頭痛:10人(13.0%)
  • 咽頭痛:8人(10.4%)
  • 肛門直腸痛:6人(7.8%)
  • 筋肉痛:6人(8.0%)
  • 下痢:2人(2.6%)

 

幸いにも報告時の状態は全員が安定していると報告されています[2]。

 

サル痘は、皮疹、発熱・リンパ節󠄃の腫れ、性交渉歴から疑う

次に、サル痘を疑うポイントを3つ紹介し、解説していきます。

【今回の流行でサル痘を疑うポイント】

  • 皮疹(特に性器や肛門周囲)
  • 発熱やリンパ節の腫れなどの全身症状
  • 性交渉歴

 

皮疹の特徴

最初に、サル痘で一番多く見られる症状は皮疹です。皮疹はほとんどの感染者に出現しており、特に性器や肛門周囲に出ることが特徴です。皮疹は色々な特徴がありますが、水痘のように水疱を伴うことが特徴です。

 

発熱・リンパ節の腫れの特徴

次に発熱やリンパ節󠄃の腫れについてです。発熱やリンパ節󠄃の腫れはこれまでのサル痘でも報告されてきた特徴的な症状ですが、今回の流行では約50%程度の感染者に現れると報告されています。

リンパ節の腫れは顎の下、首の付け根、太ももの付け根に見られることが多いです。

なお、サル痘と症状が似ていて区別をしなければならない天然痘や水痘では、通常リンパ節の腫れを伴わないので、リンパ節の腫れの有無が、サル痘とその他の感染症との区別において重要と考えられてきました。しかし、今回はリンパ節の腫れを伴わないケースも多いことから、他の感染症との区別には注意が必要です。

 

性交渉歴の特徴

3つめは性交渉です。前回のコラムでも解説したように、今回の流行における主な感染経路は、性交渉による皮膚粘膜の接触です(性交渉以外による感染経路があることにも注意は必要です)。そのため、不特定多数の相手やその場限りの相手と、コンドームを用いない性交渉はサル痘に感染するリスクになります。

 

以上をまとめると、不特定多数の相手やその場限りの相手とコンドームを用いない性交渉を行い、皮疹(特に性器や肛門周囲)、発熱やリンパ節󠄃などの全身症状を認める場合にサル痘を疑います。

 

サル痘を疑ったら、特定感染症指定医療機関・第一種指定医療機関やかかりつけの医療機関に相談しよう

それでは、サル痘を疑ったら、どこを受診したらよいのでしょうか。前提として、どの医療機関のどの診療科でも、以下に示す「厚生労働省によるサル痘の疑い例の症例定義」に該当する人は検査を受けることができます。なお、サル痘の診断に関する検査については、今後のコラムで詳しく解説します。

 

【厚生労働省によるサル痘の疑い例の症例定義 [2]

原則として、下記の①と②の両方に当てはまる場合にサル痘が疑わしいとされます。

① 少なくとも次の1つ以上の症状がある

  • 皮疹があるが、似たような皮疹が出る別の病気*とは考えにくい(*水痘、風しん、梅毒、伝染性軟属腫、アレルギー反応など。ただし、これらの病気が検査により否定されていることは必須ではない)
  • 発熱(38.5℃以上)
  • 頭痛
  • 背中の痛み
  • 重度の脱力感
  • リンパ節の腫れ
  • 筋肉痛
  • 倦怠感
  • 咽頭痛
  • 肛門直腸痛
  • その他の皮膚粘膜病変

② 次のいずれかにあてはまる

  • 発症の21日以内に複数または不特定の相手と性的接触があった
  • 発症の21日以内にサル痘の患者、無症状病原体保有者、または①を満たす人との接触があった
  • 臨床的にサル痘が疑わしいと主治医が判断をした

*文献2をもとに作成
 

どの医療機関のどの診療科でも、サル痘が疑わしければ検査を受けることができますが、医療機関にも得意な領域と不得意な領域があります。

サル痘のような新しい感染症を得意とする医療機関は、特定感染症指定医療機関(4医療機関)第一種指定医療機関(56医療機関)です[4]。サル痘が心配な人は、これらの医療機関の感染症内科や皮膚科に相談をすることをおすすめします。ただし、これらは大きな医療機関ですので、もしもクリニックなどのかかりつけの医療機関がある人は、まずはかかりつけの医療機関に相談してから紹介してもらってもよいと思います。

 

おわりに

今回のコラムでは、サル痘の症状を解説しました。不特定多数の相手やその場限りの相手とコンドームを用いない性交渉を行い、皮疹(特に性器や肛門周囲)、発熱やリンパ節󠄃の腫れなどの症状が出てきたら、サル痘が疑わしい状況ですので受診を検討してください。その際には専門的な医療機関や慣れ親しんでいる医療機関を受診先としたほうが良いかもしれません。

2023年1月以降、国内ではサル痘の感染拡大が懸念されています [2]。今後もコラムを通じてサル痘について解説していきますので、正しい知識を身につけ、正しく恐れましょう。

 

【サル痘関連コラム】

1. 世界中で感染拡大しているサル痘とは? 日本でも今後流行するのか?
2. サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?
3. (本記事)これってサル痘の症状?

参考文献

1. WHO. Multi-country outbreak of monkeypox, External situation report #18-16 March 2023. (2023年3月24日閲覧)

2. 厚生労働省. サル痘について. (2023年3月30日閲覧)

3. Thornhill JP, et al. Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries - April-June 2022. N Engl J Med. 2022 Jul 21. doi: 10.1056/NEJMoa2207323. Epub ahead of print. PMID: 35866746

4. 厚生労働省:感染症指定医療機関の指定状況(令和4年4月1日現在)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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