糖尿病は血糖調節がうまくできなくなってしまう病気です。もし健康診断で血糖値が高いことを指摘されたら、実際に糖尿病なのかどうかを見定める必要があるので、忘れずに病院を受診してください。
そこで糖尿病と診断されたら...。まずは食生活の見直しや運動療法で血糖値の改善を目指します。それでも血糖値が下がらなかった際に、内服薬やインスリン注射を使って治療をします。長期間血糖値が高い状態が続くと、神経や目、腎臓が気づかぬ間にダメージを受けて合併症が起きてしまうからです。そのため、通院時には、血糖値の検査に加えて、定期的にこれらの合併症が起きていないか確認することも大切です。
このように、糖尿病は基本的にかかりつけのお医者さんに診てもらいながら治療する病気です。糖尿病はゆっくりと進行する、という印象を持っている人も多いかと思います。しかし、場合によっては糖尿病がきっかけで急激に体調が悪化し、救急搬送に至ることもあります。その例の一つが「高血糖高浸透圧症候群」です。
高血糖高浸透圧症候群とは
高血糖高浸透圧症候群では、血糖値600mg/dL以上の著しい高血糖となり、意識障害をきたします。正常な人であれば空腹時の血糖値は110mg/dL未満に、食後でも140mg/dL未満におさまりますので、非常に高い血糖値ということがわかるかと思います。
高血糖高浸透圧症候群は2型糖尿病の高齢者に多い合併症で、肺炎や尿路感染症といった感染症や、脱水などがきっかけで起こります。
しかし、このようなきっかけなしに高血糖状態になってしまう人を見かけることがあります。話をよく聞くと、実は糖尿病の薬をしばらく飲んでいなかった、というケースです。
医療者としては、せっかくのお薬を飲まないせいで体調が悪化してしまう患者さんをみるのは悲しいものです。そこで、なぜ、糖尿病の薬を飲まなくなる状況が作られてしまうのか考え、対策を紹介したいと思います。
薬を飲まないケース①忘れてしまう
原因の一つとして、患者さん自身やその家族で、内服管理ができていないケースが挙げられます。
わたしも自分に薬が処方されて気がついたのですが、毎日決まった時間に決まった薬を飲む、というのは想像以上に難しいことです。人は毎日全く同じスケジュールで動いているわけではありません。朝急いで出かけるときには朝食後の薬を忘れてしまったり、外食したときに手元に薬がなくてそのまま忘れてしまったり、ということはしばしば起こります。ましてや、高齢患者の場合、自力で管理するのがさらに難しくなりえます。一人暮らしはもちろんのこと、同居人がいるとしても、家族が逐一毎食後に内服を確認することは難しく、内服し忘れる可能性は大いにあります。
管理は簡単ではありませんが、次のようなひと工夫は飲み忘れ防止に役に立ちます。まだ試したことのない人は、ぜひ取り入れてみてください。
- お薬カレンダーを使う
- 薬を入れるポケットがついたカレンダーです。100円ショップやネットショップでも販売しています
- 毎日、朝・昼・夜・寝る前と分けて整理することで一目で飲んだかどうかがわかり、飲み忘れ防止につながります
- 一包化してもらう
- 複数の薬を処方してもらっている場合に便利な方法です。薬局で一回分の薬を一袋にまとめてもらえます
- 医師の指示が必要ですので、処方してもらっているお医者さんに相談してみてください
- アプリの服薬アラーム機能を使う
- 服薬時間にアラームを鳴らして教えてくれるアプリや、アラーム機能が付いたお薬手帳アプリがあります
また、忘れにくいお薬に変えてもらうという方法もあります。
- 食前服用と食後服用の薬がある場合はどちらかに揃えてもらう
- 週一回の注射剤に変えてもらって、訪問看護で注射してもらう
- 内服のタイミングを、家族がサポート可能な時間に変えてもらう
糖尿病の薬にはいろいろな種類があるのでその分薬の使い方もさまざまです。たとえば、食前に飲む糖尿病の薬があります。高齢者では複数の薬を処方されていることが多いですから、ほかの薬と飲むタイミングがずれてしまって、内服を忘れるきっかけになります。もし、食前の内服を忘れてしまうことが多ければ、食後に飲む薬に変更できるかお医者さんに相談してください。ほかには、毎日の内服の管理が難しい場合、訪問診療・訪問看護を導入し、週に1回自宅にて看護師に皮下注射をしてもらう、という選択肢もあります。
患者さんごとの病態、環境に合わせた薬剤、通院形態を選んでもらうことが重要です。
薬を飲まないケース②自己中断
ここまで、薬を飲み忘れてしまう原因について考えてきましたが、患者さん自身の判断で飲むのを中断してしまうケースも見かけます。自己中断のきっかけとしては、副作用が挙げられます。気持ち悪くなる、下痢になる、足がむくむ、など、薬によってさまざまな副作用が起こることがあります。
糖尿病は薬の効果を実感しにくい病気ですから、飲んで体調が悪くなるくらいなら、多少血糖値が上がっても飲まないほうがマシだ、と考えてしまうのも無理はありません。しかし、やめたくなるほど副作用の症状がひどいならば、薬は変更すべきです。
幸い糖尿病の薬にはさまざまな選択肢があります。こういった場合も、お医者さんに相談をして、患者さんごとの症状や要望に合わせた薬を選んでもらうことが重要になります。
かかりつけ医にご相談を
このように、理由がなんであれ、薬が合わないと感じた際には、まずはかかりつけ医にご相談ください。「糖尿病はゆっくり進行する病気だから、ちょっとくらい服薬をサボっても大丈夫」などと考えていると、いつか救急車で運ばれてしまうかもしれません。
糖尿病患者さんやそのご家族は、薬の重要性を正しく理解して、個々の病気や環境に合った薬をかかりつけ医と相談して使っていきましょう。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。