2021.07.13 | コラム

コロナワクチンは毎年必要になるのか:ブースター接種は必要?

ワクチンの効果がどれくらい続くのか、最新の知見を紹介します

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供給不足が話題とはなっていますが、ワクチンの接種が急ピッチで進んでいます。既に予約を取った人や、打ち終わった人も読者の中にはいるかもしれません。

そこで少し気が早いかもしれませんが、来年のことに目を向けてみたいと思います。コロナワクチンは今後も毎年接種することになるのでしょうか?

日本で主流のファイザー社およびモデルナ社製ワクチンは、95%近くの発症予防効果を示しています。例年50%程度の予防効果と言われているインフルエンザワクチンなどと比較しても、これは目を見張るものがあります。

一方で、ワクチンの効果は永遠には続きません。効果がどれくらいの期間続くのかは、まだ誰にも分かりません。インフルエンザのように毎年接種しないと効果が不十分なワクチンもありますし、麻疹(はしか)のように長年の効果が期待できるワクチンもあります。一般的には生ワクチンと呼ばれるタイプのものは効果が長期的に続く傾向にあり、今回のコロナワクチンはいずれも生ワクチンではないので、早晩抗体が減衰すると予想できます。

このコラムでは、ワクチンの効果がどれくらい持続するかについて、最新の論文や社会情勢も踏まえて、いま分かっていることを解説します。

*本コラムは2021年7月12日現在の情報に基づいています

 

1. 臨床データの報告

まずは先行してワクチンを接種してきた海外の臨床データを確認してみます。アメリカではファイザー社やモデルナ社製のワクチンが、イギリスではアストラゼネカ社製のワクチンが主に使われてきました[1]。

 

mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ)

日本でこれまで最も広く用いられてきたのはファイザー社製のワクチンです。今年4月のファイザー社発表では、2回目の接種後1週間〜半年の間のデータを見ても、発症予防効果は91.3%であったとしています[2]。また、変異株に対する効果や、重症化予防効果も示唆される結果でした。

つい先日の報道では、3回目の追加接種(いわゆる「ブースター接種」)を行うと、抗体価が大きく上昇するというデータも公表されました。今後ブースター接種が広く認められる可能性がありそうです。

まとめると、半年以内であれば2回の接種で十分な効果が持続すると現段階で言えそうです。3回目の追加接種の是非については、今後のデータが待たれます。

大規模接種や職域接種で主に使われるモデルナ社製のワクチンも、ファイザー社と同じmRNAワクチンというタイプであり、同様に半年後でも90%以上の発症予防効果を示しています[3]。

 

ウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ)

日本で使われている数はとても少ないですが、アストラゼネカ社製のワクチンも優秀な持続効果が示唆されています。こちらはウイルスベクターワクチンと呼ばれるタイプです。

アストラゼネカ社製ワクチンについて最新の発表では、1回の接種だけで1年後にもウイルスに対する抗体が残っていること、ブースター接種をすると抗体価が大きく上昇したこと、などが報告されています[4]。

 

2. 実験データの報告

ここまで紹介の通り、ワクチンを打った人では発症率や重症化率が半年後も下がっていたというデータや、抗体が1年後にも残っていたというデータが示されています。

さらに、実験室レベルの研究でもワクチンの効果が長続きすることを示唆する研究が出てきました。科学誌「nature(ネイチャー)」に発表された研究を紹介します[5]。

この研究はファイザー社製ワクチンを2回接種した41人を研究対象とし、うち14人からは脇の下のリンパ節を針で刺して採取し、免疫に関連する細胞を解析しました。ワクチン初回接種後の3, 4, 5, 7, 15週後に合計5回もリンパ節を採取するという積極的な研究です。

詳細なデータは専門的で難解なので解説しませんが、コロナウイルスの一部を認識する「メモリーB細胞」の働きが示唆される研究結果でした。メモリーB細胞は半永久的にリンパ節内に存在し、ウイルスが侵入すると活性化して抗体を産生する細胞です。そのため、時間が経って抗体が残っていないように見えても、再びコロナウイルスが体内に侵入すると速やかにメモリーB細胞が抗体を産生してくれると期待されます。

これは、年単位でのワクチンの効果が期待できる研究結果と言えそうです。

 

3. 今後の見通し

ここまでのデータを見ると、少なくとも半年間はワクチンの効果が十分と示され、年単位でも効果がある程度持続しそうに思えます。しかし、楽観がすぎると、その先にしっぺ返しが潜んでいるかもしれません。新型コロナウイルスは変異しやすいウイルスであり、変異を繰り返すうちに現状のワクチンの効果が乏しくなっていく可能性なども否定できないからです。

成人の8割がファイザー製などのワクチンを接種済のイスラエルでも、「ワクチンによる発症予防効果が64%まで低下している」と7月5日にイスラエル保健省が発表しています。重症化予防効果は従来のデータ通りに保たれているということでしたが、発症予防効果の低下は気になるところです。

 

来年のブースター接種は必要?

専門家や政府関係者も追加接種が必要になる可能性を示唆しています。日本では、7月1日に加藤勝信官房長官が「3回目接種の必要性を検討していく必要がある」と述べています。また、イギリスでは9月から医療従事者や高齢者などを対象に、3回目の接種(ブースター接種)を始めていくことが報じられています。

ブースター接種が本当に必要なのかどうかは、まだハッキリとした根拠がありません。しかし、ブースター接種で抗体価が大きく上昇すること、重大な副反応が起きる頻度は極めて低いこと、コロナウイルス感染症による重症化率などを考慮に入れると、ブースター接種は日本でも選択肢に入ってくるものと思います。

ただ、もしブースター接種を来年以降に行うとしても、2回接種する必要はないものと予想されます。メモリーB細胞の働きなどにより、1回のブースター接種で十分に抗体が産生されると考えられるからです。

 

将来的にワクチンは必要?

メモリーB細胞が働けば、新型コロナウイルスに感染しても速やかに抗体が作られ、重症化しにくくなると考えられます。多くの人がワクチンを接種することにより、新型コロナウイルス感染症が流行・重症化しにくい「ただの風邪」のような感染症となれば、何年か後にはワクチンの必要性は次第に薄くなっていくかもしれません。他方、ウイルスの変異がどのように起こっているのか、引き続き観察していく必要はあります。

インフルエンザワクチンのようにワクチンが恒久的に毎年必要になるシナリオ、数年後にはワクチンが不要になるシナリオ、いずれも専門家の間では想定されているのが現状です。

 

4. まとめ

ここまでワクチンの効果持続期間やブースター接種の必要性について、いま分かっていることを解説しました。現時点でブースター接種の必要性を判断することは難しいと言わざるをえませんが、最初2回の接種のメリット・デメリットは既に明らかになっています。

そのため、まずは2回の接種をきっちりと受け、十分な効果が続くと分かっている少なくとも半年間は様子を見つつ、今後ブースター接種を受けるかどうか考える、という姿勢が無難と言えそうです。

余談ですが、筆者は医療従事者で2-3月にワクチンを接種しているため、もしかしたら今年中にブースター接種が必要になるのかもしれません。先行して接種している欧米での動向を見守りたいと思います。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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