2020.11.06 | コラム

胃粘膜に傷が。「ストレスで胃が痛い」と感じたら知っておきたい病気、AGMLと胃潰瘍とは?

ストレスで胃粘膜が傷つくメカニズムを自律神経の働きから紐解きます

胃粘膜に傷が。「ストレスで胃が痛い」と感じたら知っておきたい病気、AGMLと胃潰瘍とは?の写真

大きなストレスを抱えているときに、みぞおちのあたりがキリキリと痛くなった経験があるかもしれません。ストレスは胃炎を引き起こす要因の一つであり、このような痛みを感じたときには、実際に胃粘膜に傷がついている可能性があります。

今回のコラムでは、ストレスで胃が傷つくメカニズムと、ストレスに関連した胃の病気について説明します。

胃粘膜を傷つけるものと胃粘膜を守るもの

食べ物は口から食道を通って胃に入り、胃酸という強力な消化液で消化されます。常に胃酸に触れている胃粘膜には、傷がつかないように胃酸を中和する仕組みが備わっています。胃酸は消化にとても重要な役割を果たしていますが、過剰になると胃粘膜を攻撃しうるものなので、それを防御する働きも必要になってくるわけです。

胃酸のように胃粘膜を傷つけるものを「攻撃因子」、胃酸を中和する粘液のように胃粘膜を守るものを「防御因子」と呼びます。正常な状態では攻撃因子と防御因子が絶妙なバランスを保っており、胃粘膜には傷がつかずに食べ物だけが消化されるようにできています。

しかし、何らかの影響でこの攻撃因子と防御因子のバランスが崩れると、胃粘膜に傷がつきやすい状態になり、胃炎や胃びらん、胃潰瘍などが起こって痛みを感じるようになります。

 

ストレスがあると胃にどのような影響があるか

ストレスは一般的に胃にダメージを与えて傷つける方向に働くと言われています。そしてその仕組みを考えるうえで重要なのが、自律神経系と呼ばれる神経の働きです。

自律神経は身体の中の臓器がうまく働くように調整するためのものです。自律神経には交感神経副交感神経の2種類があり、それぞれが「アクセルとブレーキのように逆の働き」をすることが知られています。例えば興奮している時は交感神経が活性化し、心臓の動きを速めるような指令が出されて脈拍数が増えます。逆にリラックスしている時には副交感神経が活性化し、脈拍数を少なくするような指令が出されます。

 

胃に対する自律神経の働きは、次のようにまとめられます。

交感神経が活性化した時 副交感神経が活性化した時
  • 胃粘膜に血液を流す血管が収縮する
  • 胃酸の分泌が減少する
  • 胃のぜん動運動が低下する
  • 胃粘膜に血液を流す血管が拡張する
  • 胃酸の分泌が増加する
  • 胃のぜん動運動が活発になる

 

ストレスで交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、どちらかの神経の働きが過剰になり、いずれの場合も胃粘膜を傷つける方向に向かいます。

 

  • 交感神経が過剰に活性化
    →胃粘膜の血液の流れが悪くなり、胃粘膜が傷つきやすくなったり、できた傷が治りにくくなる(防御因子の低下)
  • 副交感神経が過剰に活性化
    →胃酸の分泌が過剰に増えて胃粘膜が傷つきやすくなる(攻撃因子の増強)

 

軽い傷であれば自然に治ることもありますが、ストレスを抱えた状態が続くと胃粘膜へのダメージが蓄積して、胃の病気を引き起こすことがあります。

 

ストレスで起こる胃の病気

ストレスで胃が傷つくことで起こる代表的な病気は「急性胃炎」と「胃潰瘍(いかいよう)」です。急性胃炎は医学的には急性胃粘膜病変(AGML)とも呼ばれます。

 

急性胃炎・急性胃粘膜病変(AGML)

急性胃炎・急性胃粘膜病変(AGML)とは胃粘膜に炎症が起きる病気の総称です。急にみぞおちのあたりに痛みが起こり、吐き気やおなかの不快感を感じることもあります。内視鏡(胃カメラ)で検査すると、胃粘膜が赤くなっている様子や、びらんと呼ばれる浅い傷が観察されます。精神的ストレスによってAGMLが起こる場合は、ストレスを感じるようになってから数時間から数日以内に腹痛などの症状が出ると言われています。

 

胃潰瘍

胃粘膜に傷がつき、その傷が深くなってクレーターのような状態になったものを胃潰瘍と呼びます。胃潰瘍ではみぞおちのあたりの痛みが起こることが多く、特に食事中や食後に痛みが出やすいです。

胃潰瘍が深くなると太い血管を傷つけて出血することがあります。出血が続くと貧血を起こしたり、出血量が多い場合には口から血を吐く「吐血」を起こすこともあります。さらに胃潰瘍が深くなると胃の壁に穴が開く「穿孔(せんこう)」を起こします。穿孔を起こした場合には緊急手術になることもあるので、みぞおちの強い痛みがどんどん悪化する場合には注意しなければなりません。

なお、胃潰瘍の発症にはピロリ菌感染や痛み止めの使用の影響も大きいと考えられています。詳しくはこちらのページやコラム「ピロリ菌とNSAIDs(ロキソニンやアスピリンなど)でリスクが61倍! 胃・十二指腸潰瘍の原因と予防法について」でも解説していますので参考にしてください。

 

「ストレスで胃が痛い」と感じたときは何科を受診するとよいか

ストレスを抱えて胃が痛いと感じたときには、内科、特に消化器内科を受診するようにしてください。お医者さんには困っている症状に加えてストレスがあることも伝えるようにします。また、現在治療中の病気や普段から飲んでいる薬について質問されることが多いので、伝え漏れを減らすためにも受診前に情報を整理しておくと良いです。

なお、このコラムではAGMLと胃潰瘍を紹介しましたが、みぞおちのあたりが痛くなる病気はこれら以外にも様々なものがあります。どのような検査を行っていくかは担当のお医者さんとよく相談するようにしてください。

 

胃の痛みは日常でよく遭遇する症状です。痛みを感じたときにストレスがその原因になっていないかを振り返るきっかけになれば幸いです。

 

 
参考文献

・小俣政男, 千葉勉/監修, 「専門医のための消化器病学第2版」, 医学書院, 2013

・Jensen PJ, Feldman M, Acute hemorrhagic erosive gastropathy and reactive gastropathy. UpToDate (2020.5.2最終更新)

・Feldman M, Jensen PJ, Gastritis: Etiology and diagnosis. UpToDate(2020.5.2最終更新)

・gastropedia:急性胃粘膜病変(2020.11.6閲覧)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る