◆ そもそもバイオ医薬品とはどういうもの?
これまでは医薬品は化学的に合成して作られてきたものが大半でした。一方、バイオ医薬品(生物学的製剤)は培養細胞、酵母、大腸菌などの生き物を使って作られた医薬品です。生き物を使うことで、これまでの医薬品(低分子医薬品)開発では作ることが難しかった、病気の原因物質を直接ブロックする物質(抗体医薬品など)や、生体内のホルモンに似た物質を薬にすることができます。これにより関節リウマチやがん、糖尿病などさまざまな病気に対するバイオ医薬品の開発が進められてきました。以下にバイオ医薬品の一例を紹介します。
【バイオ医薬品の一例】
- 主な抗体医薬品
代表的な薬剤名 | 主な適応疾患 | 標的物質 |
レミケード®︎ |
関節リウマチ 潰瘍性大腸炎 クローン病 乾癬 |
TNFα |
エンブレル®︎ | 関節リウマチ | TNFα |
リツキサン®︎ | B細胞の悪性リンパ腫 | CD20 |
ハーセプチン®︎ | 乳がん | HER2 |
- 主なホルモン・サイトカイン・酵素製剤
代表的な薬剤名 | 主な適応疾患 | 対象物質 |
ランタス®︎ | 糖尿病 | インスリン |
ジェノトロピン®︎ | 成長ホルモン分泌不全性低身長症 | 成長ホルモン |
エスポー®︎ | 腎性貧血 | エリスロポエチン |
グラン®︎ | がん化学療法による好中球減少症 | G-CSF |
ファブラザイム®︎ | ファブリー病 | アガルシダーゼβ |
このようにさまざまな治療薬がバイオ医薬品という形で開発されています。しかし、バイオ医薬品は高い有効性の反面、大きな問題があります。それは製造するのにコストがかかるため、値段が高いという点です。そこで、このような費用面の問題を解決する薬剤として、バイオシミラーと呼ばれる後続品が登場してきています。
◆ バイオシミラーとジェネリック医薬品はどう違う?
バイオシミラーは特許の切れたバイオ医薬品と、ほぼ同等の医薬品を他の製薬会社が製造し、より低価格で販売されている医薬品です。値段は先行バイオ医薬品の7割程度です。
同様に特許の切れた医薬品を低価格で販売している例として、「ジェネリック医薬品」を思い浮かべる人が多いかもしれません。ジェネリック医薬品は先発医薬品(すでに発売されている医薬品)と同じ分子構造の有効成分を含む後発医薬品です。先発医薬品の情報をもとに、実績があるとわかっている成分から薬を作ることができるので、開発期間やコストを抑えて先発医薬品と比べ安価な形で販売することができます。
バイオシミラーはバイオ医薬品のジェネリック医薬品に近いものと言えます。ただし、厳密な意味では全く同じではありません。というのも、バイオ医薬品は従来の低分子医薬品に比べて分子構造が非常に複雑なものが多く、後続品として完全に同じものを作るのは難しいためです。そこで分子構造としては完全に一致していなくとも、有効性と安全性が担保されていれば、バイオ医薬品の後続品、すなわちバイオシミラーとして認められることになっています。
◆ バイオシミラーの有効性、安全性は?
バイオシミラーは分子構造という点からは、先行バイオ医薬品と全く同じではありません。ただし、それだけに安全性、有効性に関してはしっかりと検証されたもののみがバイオシミラーとして認められています。実際、バイオシミラーの有効性、安全性は通常のジェネリック医薬品よりも多くの試験により検証されています。またバイオシミラーが先行バイオ医薬品に比べ有効性、安全性で劣らないことは研究報告としても公開されています。
【先行バイオ医薬品とバイオシミラーの安全性・有効性を比較した研究】
このように先行バイオ医薬品とバイオシミラーは全く同じ物質でできているわけではないのですが、有効性、安全性に関してはしっかり検証されており、使用に関して過度に心配する必要はないと言えます。
◆ バイオシミラーには何があるのか?
バイオシミラーは先行バイオ医薬品の特許が切れたものに限り製造されています。そのため、全てのバイオ医薬品に対し、バイオシミラーがあるわけではありません。先ほど紹介したバイオ医薬品については、日本でも以下の薬品名で販売されています。
【バイオシミラーの一覧(2019年4月現在)】
先行バイオ医薬品名 | バイオシミラー名 |
レミケード®︎ | インフリキシマブBS |
エンブレル®︎ | エタネルセプトBS |
リツキサン®︎ | リツキシマブBS |
ハーセプチン®︎ | トラスツズマブBS |
ランタス®︎ | インスリン グラルギンBS |
ジェノトロピン®︎ | ソマトロピンBS |
エスポー®︎ | エポエチン アルファBS |
グラン®︎ | フィルグラスチムBS |
ファブラザイム®︎ | アガルシダーゼ ベータBS |
また、バイオ医薬品を使用する場合には、高額療養費制度(自己負担額が一定額を超えた場合に払い戻しを受けられる制度)の対象になる可能性もあります。費用や使用している薬剤について気になることがある場合には、担当の医師・薬剤師と相談してみてください。
ここまでバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーについて紹介してきました。有効性、安全性で先行品に劣らず、より低価格な後続品の登場により、これまで以上に多くの人がバイオ医薬品という選択肢を選べる可能性が広がっていることを知ってもらえたらと思います。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。