1. 耳あかは何からできてる? 何のためにあるの?
耳あかは単なる汚れではありません。実は、耳あかには抗菌作用のあるタンパク質が含まれていて細菌の繁殖を抑えたり、虫や異物が耳の奥まで侵入するのを物理的に防いだりする役割があります。
耳あかはさまざまなものが混じってできています。具体的には次のようなものです。
- 耳垢腺からの油脂
- 皮脂腺の分泌物
- はがれおちた外耳道の皮膚
- 埃(ほこり)
耳の穴の入り口から鼓膜までの筒状の部分を外耳道と言います。耳の入り口から1/3の外耳道には、耳垢の元になる油脂を分泌する耳垢腺や、皮脂を分泌する皮脂腺などがあります。耳あかは主に、この外耳道の手前1/3の所で作られます。
耳かき中に耳の奥の方を触って痛かった経験がある人もいるかもしれません。外耳道の奥2/3は骨に囲まれており皮膚が薄く、そのため触ると痛みを強く感じます。
【耳の構造】
耳垢腺からの油脂が少ない人は乾いた耳あか(乾性耳垢:かんせいじこう)になり、多いと湿った耳あか(湿性耳垢:しっせいじこう)になります。湿った耳あかは「あめみみ」ともいわれます。日本人の約8割は乾性耳垢で、欧州やアフリカではほとんどの人が湿性耳垢です。乾性耳垢は自然に耳の外に排出されやすいという特徴があります。
2. 耳あかをとる必要はあるのか?
耳あかは自然に耳の外に出てくるため耳掃除は必要ありません。外耳道の皮膚は鼓膜のある奥の方から外側に向かって移動するようにできていて、耳あかも皮膚の移動とともに外へ向かって移動します。耳の穴の近くまで来た耳あかは、顎を動かしたり、就寝中に寝返りを打ったりした時に自然に耳の外に出ていきます。
耳あかが大量に溜まって耳が聞こえにくくなるなどの症状が出る「耳垢栓塞(じこうせんそく)」という病気もありますが、これは掃除をしないことが原因ではなく、ほとんどの場合は間違った耳掃除で耳あかを奥に押し込むことが原因です。
一方、耳あかを取るためではなくかゆいから掃除をしている人もいるかと思います。しかし、このかゆみは実は耳掃除をしすぎることで起こっています。綿棒や耳かきで外耳道の皮膚をこすると刺激で炎症が起きます。炎症のある場所には、炎症を起こしたり悪化させる細胞がますます集まってきて、かゆみを起こす物質を分泌します。つまり、掻けば掻くほどさらにかゆくなるという悪循環が起こります。「かゆいから掃除をする」も避けた方が良いことなのです。
なお、アメリカ耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のガイドラインでは、機能的に問題がなければ耳あかを掃除する必要はないと提言しています。
3. 耳掃除をやりすぎるとどうなるのか?
耳掃除をやりすぎて耳が痛くなった経験がある人もいるかもしれません。耳掃除はほとんどの人で単に必要ないだけでなく、掃除をしすぎるとかえってさまざまな症状を引き起こします。どのような症状や病気を引き起こすか説明します。
耳掃除をやりすぎた時に起こる症状
毎日のように耳掃除をしたり、耳の中をゴシゴシと強くこすりすぎたりすると、次のような症状が起こります。
- 耳の中がかゆい
- 耳の中や周りが痛い
- 耳だれが出る
- 耳が聞こえにくい
- 耳あかが増える
耳掃除をやりすぎると炎症が起きてかゆみを引き起こすために、さらに耳の中を掻きたくなってますますかゆくなる、という悪循環に陥ります。掃除をしすぎると外耳道に湿疹ができてますますかゆくなることもあります。
耳掃除で外耳道に炎症が起きると耳の中がジンジンと痛むことがあります。さらに外耳道の感覚神経の広がりの影響で、耳を引っ張った時、口を大きく開けた時、咀嚼(そしゃく)した時などにも痛みを感じるようになります。炎症がさらに強くなると耳から液体(耳だれ)が出ることもあります。また、炎症で外耳道の皮膚が腫れあがると難聴を引き起こすことがあります。
また、外耳道を強くこすりすぎると耳垢腺の分泌物が増えて、かえって耳あかが増えてしまうこともあります。
耳掃除をやりすぎた時に起こる病気
耳掃除をやりすぎると上のような症状が出ることがあります。症状が出た時には、次のような病気が起こっていると考えられます。
- 急性外耳炎
- 外耳道湿疹
- 外耳道真菌症
それぞれの病気と症状について詳しく見ていきます。
◎急性外耳炎
急性外耳炎は外耳道の皮膚が傷ついて炎症を起こした状態で、悪化すると痛みを伴うようになります。食べ物を噛み砕くために口をモグモグと動かした時に痛みを感じるのが特徴です。急性外耳道炎がひどくなると、耳だれや難聴を伴うこともあります。
◎外耳道湿疹
掃除をしすぎて外耳道に湿疹ができることもあります。かゆくて掻いてしまうと、かゆみを引き起こす炎症細胞が集まってきてさらにかゆみを引き起こすため、悪循環になりやすく治りにくい病気です。
◎外耳道真菌症
外耳道真菌症は外耳道に真菌(カビ)が生えた状態です。耳掃除のやりすぎなどをきっかけに耳だれなどが出るようになると、じゅくじゅくしたところに真菌が生えます。耳の穴は適度な温度が保たれており、耳だれによって湿った状態になることで真菌が好む環境になります。こちらもかゆみが強く治りにくい病気です。
外耳道湿疹も外耳道真菌症もかゆみが強くなかなかすぐには治りません。そのため、何回も耳鼻咽喉科に通院して治療をする必要があります。おおもとの原因は耳掃除のやりすぎなので、やりすぎないように注意してください。
4. 耳掃除をどうしてもしたい時はどうすればいいの?
耳掃除は本当はやらなくても良いのですが、どうしてもやりたい時は2-4週間に1回程度にしてください。外耳道の奥は痛みがあり、かつ鼓膜を傷つける可能性があるので、綿棒を入れるのは入り口から1cm程度のところまでに留めます。綿棒を入れたら外耳道の壁に沿って拭うようにして掃除をします。
さまざまな形態の耳かきが売られていますが、特別なものを買い求める必要はなく、綿棒などの細くて柔らかいもので十分です。硬い素材の耳かきでは外耳道を傷つけやすくあまり勧められません。
5. 耳に入った水はそのままで良いの?
お風呂上がりに耳掃除をする理由として「耳の中に水が入ったから」というものが少なくありません。お風呂の時であれ水泳の時であれ、多くの場合は水が耳に入っても自然に排出されるため掃除は必要ありません。とはいえ、もし水が入った状態が不快な場合は、耳を下を傾けて水を出そうとするときに、顎を少しあげて後ろに水を流すようにしてみてください。こうすると耳の解剖学的な構造上、水が排出されやすいです。
翌日になっても水が入った状態が続くなど不快に感じる場合には、自分で掃除をするのではなく耳鼻咽喉科を受診してみてください。なぜなら、水がたまる位置は鼓膜のすぐ手前の部分であるため、自分で掃除をしようとすると痛みを伴ったり、鼓膜を傷つけてしまったりする可能性があるからです。
6. 耳掃除が必要なのはどんな人?
ここまで、通常の耳の構造の人は耳掃除はしなくても良い理由について説明しました。しかし、なかには耳掃除をした方が良い人もいます。
【耳掃除が必要な人】
- 赤ちゃん
- 高齢者
- 生まれつき外耳道が狭い人
- 耳の手術を受けた人
赤ちゃんは耳の穴が狭いため自然に耳あかが出てこないことがあります。掃除といっても2週間に1回程度、入り口をやさしく清潔なガーゼやティッシュで軽く拭うだけで十分です。入り口を綿棒で拭うように掃除をしても良いのですが、穴の奥には入れないように気をつけてください。赤ちゃんがよく動いて危ない場合には無理に行う必要はありません。気になるようであれば、2-3か月に1回、耳鼻咽喉科を受診して耳掃除を行っても良いかもしれません。
高齢者は外耳道の自浄作用が低下したり耳垢腺の分泌が減ったりすることで、耳あか自体が硬くなります。硬い耳あかは自然に排出されにくく、奥に詰まったままになることが難聴の原因になっていることもあります。気になる場合には耳鼻咽喉科で相談してみてください。
生まれつき外耳道が狭くて耳あかが出てこない場合や、耳の手術後で外耳道が通常の形態ではない場合などは耳掃除が必要です。しかし、自分で行うのではなく耳鼻咽喉科を受診する方が安心です。医療機関では耳あかを直接みながら専用の道具で取り除くことができるため、見えない耳あかを自分で手探りで掃除するより安全だからです。
7. まとめ
本コラムでは、耳あかの役割や耳掃除の必要性について解説してきました。ポイントをまとめます。
- 耳あかは基本的に自然に排出されるので、ほとんどの人で耳掃除は必要ない
- 耳掃除をしすぎると、かえってさまざまな症状や病気を起こすので、しすぎないことが大切
- 耳掃除が必要な人は自分で行うのではなく、耳鼻咽喉科で耳あかをとってもらう方が安心
耳掃除の習慣がある人は、ぜひこのコラムを参考に耳掃除のしすぎになっていないかなど見直してみてください。
また、上記のリストに当てはまる耳掃除が必要な人は「耳あかを取るためだけに受診して良いのだろうか」などと思わず遠慮なく耳鼻咽喉科を受診してください。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。