2017.12.11 | ニュース

糖尿病を生活習慣病と呼んではいけない、米学会作業部会の推奨

米国糖尿病教育者協会と米国糖尿病学会を代表して

from Diabetes care

糖尿病を生活習慣病と呼んではいけない、米学会作業部会の推奨の写真

2型糖尿病は生活習慣とも関係しますが、病名だけを見て「自己管理ができていない」と決めつけられると患者は不快に思うかもしれません。アメリカの学会による作業部会が、糖尿病を表現する言葉についての推奨を公表しました。

糖尿病についてどんな言葉で語るか

米国糖尿病教育者協会(AADE)と米国糖尿病学会(ADA)の代表者による作業部会が、糖尿病について語る上で望ましい表現について、医療従事者などに向けた推奨をまとめ、専門誌『Diabetes Care』を通じて公表しました。

 

この推奨が作られた背景として、糖尿病を持つ患者にとって他人から受ける言葉が苦痛を増す恐れがあること、また研究からも患者と医師がうまくコミュニケーションを取れたほうが健康上に良いと報告されていることが挙げられています。

 

作業部会は、以下の4原則を基礎としました。

  • 糖尿病は人によって違う要素がたくさんある、複雑で苦しい病気である
  • 歴史上で糖尿病の診断が劣ったことと見なされてきたことは、ストレス、恥ずかしい感覚、評価を受けている感覚のもとになるかもしれない
  • 医療チームの全員が、糖尿病を持つ人に対して敬意があり、包容力があり、患者を中心とする態度を取ることで、より効果的に役立つことができる
  • 患者中心で長所に基づき、力づける言葉を使うことで、コミュニケーションはよりよくなり、糖尿病を持つ人の動機づけ、健康、福祉を強化することができる

作業部会は4原則に基づいて、糖尿病についての言葉は以下の5か条を満たすことが望ましいと考えました。

  • 中立的で、評価的でなく、事実と行動と生理学・生物学に基づいた言葉
  • 恥ずかしさを与えない言葉
  • 長所に基づき、尊敬があり、相手を排除することがなく、希望を与える言葉
  • 患者と医療従事者の協力を促す言葉
  • 個人を中心にした言葉

例として挙げられている、望ましくない表現と望ましい表現からいくつかを抜粋します。

 

望ましくない

望ましい

コンプライアンス

アドヒアランス

「彼は薬を半分くらい飲んでいる」

「彼女はインスリン注射ができるときに打っている」

「彼は野菜や果物を週に何回か食べている」

(糖尿病の)管理が良い/悪い

「彼はSU剤を飲んでいるが、血糖値は十分下がっていない」

糖尿病の人

糖尿病がある人

生活習慣病

糖尿病

「失明や透析が必要な状態になってしまいます」

「糖尿病があっても長生きして元気でいる人が増えています。毎日の生活でできることを一緒に考えましょう」


コンプライアンス、アドヒアランスは、医師が指示した、あるいは患者が意思決定に関わって決めた服薬などの治療を守って続けることを指します。コンプライアンスやアドヒアランスという言葉は「個人の治療についてまるで子供のように誰かの指示を受けている」という意味合いがあるとして、望ましくない表現に挙げられています。

「管理」という言葉は、目標を達成できなかった人に道徳的な問題があるかのような印象があるとして、望ましくないとされます。さらに「良い/悪い」という価値判断は避け、生物学的な事実に注目した表現が望ましいとされています。また、患者がしなかったことよりもしたことを中心に表現することが勧められています。

「糖尿病の人(diabetic person)」のように、病気がその人のすべてを決めるような印象のある言葉は以前から望ましくないとされ、「糖尿病がある人(person with diabetes)」のように言い換えられています。

「生活習慣病」という言葉は価値判断の意味合いがあるとして望ましくないとされています。

最後に、糖尿病による悪い結果については多くの人が自覚しているため、怖がらせることにはほとんど効果がなく、現実的に達成可能で具体的な目標を目指して協力することが望ましいとされています。

 

推奨の結びには、「作業部会は、メディアのスタイルガイドと医療従事者向けの資料を作成することによって、この論文に続くものとする計画である」と記されています。

 

力づける言葉とは?

アメリカで提示された表現の注意事項を紹介しました。

示された指針やそれに至る議論が世界で受け入れられていくかどうか、日本にも影響するかどうかはまだわかりません。しかし大きな視野で言えば、言葉が患者の気持ちを大きく変えることはどこでも同じです。患者に受け入れられる表現を探ることは決して見逃せない課題です。

言葉が人を苦しめるのではなく力づけるようになるためには、医療従事者だけでなくメディアも患者の感情に敏感であり続け、よりよい表現を模索していく役割が大きいと言えるでしょう。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

The Use of Language in Diabetes Care and Education.

Diabetes Care. 2017 Dec.

[PMID: 29042412]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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