2017.11.28 | ニュース

2型糖尿病治療はHbA1c 8.5%でいい人も、米国官庁が推奨

退役軍人省/国防総省のガイドラインから
from Annals of internal medicine
2型糖尿病治療はHbA1c 8.5%でいい人も、米国官庁が推奨の写真
(c) DragonImages - iStock

2型糖尿病は長年のうちにさまざまな臓器の問題(合併症)を引き起こします。診断や治療について国際的に参照されるガイドラインがいくつかありますが、新たにアメリカ退役軍人省と国防総省が独自のガイドラインを作成しました。

2型糖尿病のガイドライン

アメリカ退役軍人省と国防総省が、2型糖尿病診療ガイドラインを作成し、概要を医学誌『Annals of Internal Medicine』に寄稿しました。

ガイドライン作成にあたって文献の調査が行われ、最近までの研究結果として示されていることに基づいて、推奨事項が以下の7領域について設定されました。

  • 患者中心の医療と共有意思決定(shared decision making)
  • 検査
    • HbA1c、フルクトサミンなどの血糖値に関わる検査値を解釈する際には、患者の背景や血糖値以外の要素を考えに入れる
  • HbA1cの目標範囲
    • 目標範囲は微小血管合併症のリスク減少の絶対量、余命、患者の好みによって決める
  • 個人ごとの治療計画
    • 治療による害の可能性、併存症、余命、患者の好みに合わせて治療計画を立てる
  • 外来での薬物治療
    • 治療薬は有効性、禁忌、薬剤相互作用、併存症、害の可能性に基づいて選び、患者は多様な治療選択を提示されたうえで担当医と治療計画を共有する
  • 命の危険に瀕している人の治療
  • 入院中の治療
    • 入院患者には積極的な血糖値管理は勧められない

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は最近1-2か月程度の血糖値を反映します。糖尿病の状態を見るためにHbA1cはよく使われます。このガイドラインでもHbA1cを使って治療の目標を決めています。

微小血管合併症とは糖尿病網膜症糖尿病腎症、糖尿病神経障害などを指します。

併存症とは2型糖尿病と同時に持っている別の病気を指します。ここでは心血管疾患心筋梗塞脳卒中など)、重症の慢性腎臓病、命を脅かしているがんなどが「重要な併存症」の例として挙げられています。

 

ほかのガイドラインとどう違うのか?

概要は、既存のガイドラインとの比較として、米国糖尿病学会のガイドライン、米国糖尿病学会と米国老年医学会による高齢者の糖尿病のガイドライン米国臨床内分泌学会のガイドラインを例に挙げています。

退役軍人省/国防省のガイドラインは人種による違いを重視する点などが挙げられている中で、「平均して、高リスクの患者で薬物治療を増やすことによる潜在的な害のリスクに比べて、HbA1c値を8.5%から8.0%に下げることによって得られる可能性がある利益の絶対量は小さい」と結論した点も対照的とされています。

米国糖尿病学会のガイドラインでは、重症の低血糖を経験した人などでHbA1c値の目標を8.0%未満にすることが妥当とし、高齢の患者で状態が「非常に複雑/健康が損なわれている」という場合に限ってはHbA1c値の目標例を8.5%未満としています。

対して、退役軍人省/国防省のガイドラインは表のように目標範囲を決めています。

  微小血管合併症
  ないか軽度 中等度

進行している

重要な併存症がない

余命が10-15年を超える

6.0-7.0%  7.0-8.0%

7.5-8.5%

重要な併存症がある

余命が5-10年

7.0-8.0%  7.5-8.5%

7.5-8.5%

重要な併存症が目立つ

余命が5年未満

8.0-9.0%  8.0-9.0%

8.0-9.0%

比較の全体について、「退役軍人省/国防省の診療ガイドラインは臨床医、政策立案者および患者に対して、主要な研究の結果、HbA1c検査の限界、薬剤による有害なことがらの評価に基づいて、個人ごとの治療の根拠を提供しようとしている」と記されています。

 

血糖値はどれくらい下げればいいのか?

アメリカの官庁が作成した2型糖尿病の診療ガイドラインの概要を紹介しました。

ほかのガイドラインよりも治療目標を緩く設定した箇所がありましたが、比較されているガイドラインも現在(2017年11月)有効なものです。あとからできたものがより正しいと決まっているわけではありません。

概要の中でも治療目標はひとりひとりの患者に合わせて設定することが強調されています。ガイドラインは絶対ではありません。専門家の間でも意見に幅のある点を知ることが、自分に合った治療を選ぶためにより柔軟な考えを持つ助けとなるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Synopsis of the 2017 U.S. Department of Veterans Affairs/U.S. Department of Defense Clinical Practice Guideline: Management of Type 2 Diabetes Mellitus.

Ann Intern Med. 2017 Nov 7.

[PMID: 29059687]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。