第2の「CAR-T」免疫療法、悪性リンパ腫に対してアメリカで承認

血液のがんの治療として、「免疫療法」とも呼ばれる新薬がアメリカで承認されました。臨床試験で51%の人が完全寛解に至った効果の反面、死亡の可能性もある副作用なども指摘されています。
イエスカルタをFDAが承認
2017年10月18日に、米国食品医薬品局(FDA)が新薬アキシカブタゲン・シロロイセル(商品名イエスカルタ)を承認しました。治療対象となる人は、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などの成人患者で、以前に2種類以上の治療を受けたあと効果がなかったか再発した人とされています。
イエスカルタは「免疫療法」?
イエスカルタの働くしくみは「CAR-T」療法と呼ばれます。体から免疫に関わる細胞を取り出して遺伝子を改変し、体に戻すというものです。同じくCAR-T療法に分類されるチサゲンレクロイセル(商品名キムリア)が8月に急性リンパ性白血病(ALL)患者の一部に対する治療としてFDAから承認されています。イエスカルタはFDAが承認した2番目のCAR-T療法となりました。
CAR-Tは免疫のしくみを利用することから「免疫療法」とも呼ばれています。ただしFDAのプレスリリースには免疫療法(immunotherapy)という言葉はなく、イエスカルタは遺伝子治療(gene therapy)と呼ばれています。製薬企業からのプレスリリースでは遺伝子治療という言葉がなく、イエスカルタは免疫療法として説明されています。
イエスカルタは効くのか?
FDA長官のスコット・ゴットリーブ氏は、イエスカルタの承認について「今日は難しい病気の治療に関わる科学のまったく新しいパラダイムの発展に向けてさらに一歩が刻まれた」と発言しています。
アメリカでの表示価格は37万3千ドル(およそ4,200万円)とされています。
臨床試験でイエスカルタの治療後に51%の人が完全寛解(画像などの検査でがんが見つからなくなった状態)になりました。
副作用は?
副作用の可能性について、13%の人(108人中14人)に入院が必要な程度以上のサイトカイン放出症候群が現れました。軽度のものを含めると94%の人(108人中101人)でサイトカイン放出症候群が現れました。サイトカイン放出症候群の経過中に死亡した人が4人いました。
入院が必要な程度以上の神経学的毒性が現れた人は31%でした。軽度のものを含めると87%の人で神経学的毒性が現れました。神経学的毒性として脳症、頭痛、震え、めまい、失語、せん妄、不眠、不安などがありました。神経学的毒性が現れたのち死亡した人もいました。
ほかに感染症や免疫系が弱くなることが副作用とされています。
安全のため、FDAはイエスカルタを使用してよい施設の認証を求めています。また長期的な影響の検証のため、FDAはイエスカルタで治療された患者に対する市販後調査を求めています。
免疫療法の新時代に?
アメリカで新たに承認された免疫療法について紹介しました。長期的な検証がまだ行われつつあるなど、イエスカルタが新治療として定着するかどうかには未知の部分もあります。
CAR-T療法としてはほかにキムリアもFDAに承認されていますが、深刻な副作用の可能性もあること、非常に高額であることは共通しています。
また研究中のCAR-T療法に対して臨床試験の実施保留命令が出された例もあります。
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CAR-T療法は実践の段階が始まったばかりです。2017年10月時点で日本で承認されているCAR-T療法はありません。今後CAR-T療法が広まっていくかどうかは、開発状況のほか、キムリアやイエスカルタがどのように患者の役に立っていくかにも左右されるでしょう。
執筆者
FDA approves CAR-T cell therapy to treat adults with certain types of large B-cell lymphoma.
FDA News Release. 2017 Oct 18.
https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm581216.htm※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。