ALK陽性非小細胞肺がんに対するクリゾチニブとアレクチニブの効果
肺の非小細胞がんに対してクリゾチニブとアレクチニブの効果を比較する研究が行われ、医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告されました。
肺がんは小細胞がんと非小細胞がんに分けられます。クリゾチニブとアレクチニブはどちらも非小細胞がんの治療として使われる場合があります。
クリゾチニブまたはアレクチニブが使える条件として、がん細胞が持つ遺伝子を検査し、ALK遺伝子再構成がある場合(ALK陽性)には効果が期待できるとされます。
この研究では、ALK陽性の非小細胞肺がんを持つ患者が対象とされました。以下の条件などに合う人が選ばれました。
- 以前に抗がん剤治療を受けたことがない
- 一定基準以上に進行しているか、再発したか、転移があるかのいずれか
- 余命が12か月以上と予想される
対象者はランダムに、クリゾチニブを飲むグループとアレクチニブを飲むグループに分けられました。治療担当医も対象患者もともにどちらの薬を使っているか知らされました。
がんが進行することなく生存した期間を研究者が判定して比較しました。
アレクチニブのほうが進行が遅い
303人の患者が参加しました。次の結果が得られました。
研究者が評価した無増悪生存率はアレクチニブのほうがクリゾチニブより有意に高かった(12か月無イベント生存率がアレクチニブで68.4%、95%信頼区間61.0-75.9、クリゾチニブで48.7%、95%信頼区間40.4-56.9、疾患進行または死亡のハザード比0.47、95%信頼区間0.34-0.65、P<0.001)。アレクチニブ群で無増悪生存期間の中央値には到達しなかった。
12か月の間がんが進行することなく生存した人はアレクチニブのグループのほうが多く、アレクチニブのグループで68.4%、クリゾチニブのグループで48.7%でした。
データを解析した時点でアレクチニブのグループは半数が18.6か月以上追跡されていましたが、その時点ではがんが進行したか死亡した人が半数に届いていませんでした。
副作用やもとの病気を原因とする症状などで、入院が必要な程度以上のものはアレクチニブのグループで41%、クリゾチニブのグループで50%の人に現れました。
クリゾチニブよりアレクチニブ?
ALK陽性非小細胞肺がんに対してクリゾチニブとアレクチニブの効果を直接比較した研究を紹介しました。
この結果を参考にアレクチニブが優先される場面はあるかもしれません。
ただし、この研究の範囲外ですが、日本で承認されている効能・効果としては、クリゾチニブはROS1融合遺伝子陽性の場合の使用も認められていますが、アレクチニブはROS1融合遺伝子陽性の場合に対して承認されていません。また、セリチニブ(商品名ジカディア®)は「クリゾチニブに抵抗性」または「クリゾチニブに不耐容」の場合の効能・効果が承認されていますが、アレクチニブに対して同様の扱いはありません(2017年9月時点)。そのため単純に「アレクチニブのほうが優れた薬である」とは言い切れません。
クリゾチニブ製剤のザーコリ®が日本で販売開始されたのは2012年、アレクチニブ製剤のアレセンサ®は2014年です。広く使用可能となってからも、さまざまな角度から研究データが積み重なっていくことによって、それぞれの薬の特性を活かした使い分けが模索されていきます。
執筆者
Alectinib versus Crizotinib in Untreated ALK-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer.
N Engl J Med. 2017 Aug 31.
[PMID: 28586279]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。