好酸球増多症候群をルキソリチニブで治療
アメリカの研究班が、ルキソリチニブを使用したところまつ毛が長く太くなった77歳男性の例を、専門誌『Journal of Medical Case Reports』に報告しました。患者自身が報告の著者のひとりとなりました。
この人は急なかゆみが出て初診を受けました。当時77歳アジア人の男性で、引退した小児科医でした。
検査では好酸球36%という高い数値がありました。
好酸球は白血球の一種です。通常は白血球のうち1%から5%程度が好酸球ですが、36%にも増えること(好酸球増多症候群)には何らかの原因があると考えられます。好酸球は、アレルギーや寄生虫に関連して増えることがあります。
この人でもアレルギーなどの原因が推定され、さまざまな検査と治療が行われました。プレドニゾン(ステロイド薬)で症状がいくらか和らぎました。しかし原因は不明のままで、かゆみも続いていました。
患者はかゆみで眠れなくなり、うつ状態に陥りました。
さらに検査を続けた結果、JAK2遺伝子の変異が見つかりました。JAK2遺伝子の変異は、血球の異常を起こす真性多血症などに関わると考えられています。ルキソリチニブは、JAK2の働きに対する作用から、骨髄線維症と真性多血症に対して日本でも承認されている治療薬です。飲んで使います。
患者はルキソリチニブを飲み始めました。かゆみが消失し、プレドニゾンは終了できました。薬を飲み忘れるとかゆみが出る自覚がありました。初診から4年後の時点で好酸球は2%と正常範囲になっていました。
まつ毛が伸びた?
ルキソリチニブ開始後数か月で、両目のまつげが長く太くなりました。頭髪などほかの場所の毛には変化がありませんでした。
研究班は、これまでに報告されている事例として、ルキソリチニブが円形脱毛症などに有効とするものや、ルキソリチニブ0.6%のクリームを1日2回塗ることにより眉毛と頭髪が増えたとするものを挙げています。
さらに結論として「点眼薬や眼軟膏が有益かもしれない」と述べています。
副作用を利用する?
まれな病気を治療する薬の副作用でまつ毛が増えたと思われた人の例を紹介しました。
報告が主張するように、薬の副作用が別の病気に対する治療として利用される例はあります。ただし、ルキソリチニブにはときに致命的な副作用や重い副作用が出る場合もあることが、報告の中でも明記されています。副作用を減らす工夫をしても、「毛を増やす」という目的で使う価値があるかどうかは、さらに確かな情報が揃わなければ判断できないでしょう。
また、この人の例でも本当にルキソリチニブの作用によってまつ毛が増えていたのかどうか、1人の例だけでは正確にはわかりません。ルキソリチニブが原因と推定する根拠は、円形脱毛症などについての研究が先行していることなどがあると思われます。ほかの人でも同様の作用があるかどうかを知るには別の研究が必要です。
まれな事例が新しい治療法にヒントを与えることは確かにあります。しかし、実際に役に立つ成果が得られるまでには考えるべきことが無数にあり、新しい可能性と思われたものが結果に結び付かないケースのほうがむしろ大多数を占めています。その前提で「まつ毛が伸びた」というこの人の例をどう読み解くかは今後の研究者に委ねられています。
執筆者
Ruxolitinib found to cause eyelash growth: a case report.
J Med Case Rep. 2017 Jul 12.
[PMID: 28701183]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。