抗PD-1/PD-L1抗体治療中の患者に発生した肺臓炎
アメリカ・オーストラリアなどの研究班が、抗PD-1抗体などの治療薬を使用中の肺臓炎の発生数を調べ、専門誌『Journal of Clinical Oncology』に報告しました。
この研究は、アメリカのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターと、オーストラリア悪性黒色腫研究所で治療を受けた患者の経過を集めたものです。
治療薬として、抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体を単独または抗CTLA4抗体と同時に使った患者が対象とされました。
抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体とは?
抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CLTA4抗体はがん治療薬です。いずれも免疫チェックポイント阻害薬に分類されます。一部の例として以下のような薬剤があります(2017年6月時点)。
- 抗PD-1抗体
- ニボルマブ(商品名オプジーボ)
- ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)
- 抗PD-L1抗体
- アテゾリズマブ(日本では未承認)
- アベルマブ(日本では未承認)
- 抗CTLA4抗体
- イピリムマブ(商品名ヤーボイ)
オプジーボを例に説明します。
オプジーボは2014年に販売開始されました。悪性黒色腫(皮膚がんの一種)、非小細胞肺癌(肺がんの一種)などの一部の場合で使用可能とされます。オプジーボは免疫のしくみに関係する作用があります。重大な副作用として肺臓炎などが知られています。
5%に肺臓炎が発生
調査により次の結果が得られました。
抗PD-1/PD-L1モノクローナル抗体を使用した患者915人のうち、肺臓炎は43人に発生した(5%、95%信頼区間3%-6%、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで578人中27人、5%、オーストラリア悪性黒色腫研究所で337人中16人、5%)。肺臓炎の発症までの期間は9日から19.2か月までだった。
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を使用した患者915人のうち5%に肺臓炎が発生していました。肺臓炎が発症した時期は、治療薬使用開始後9日から19.2か月までの幅がありました。
肺臓炎が発生した人の特徴について以下の結果がありました。
発症率は悪性黒色腫の患者と非小細胞肺癌の患者で類似していた(全体で悪性黒色腫では532人中26人、5%、 非小細胞肺癌では209人中9人、4%[...])。症例の72%(43人中31人)はグレード1から2であり、86%(43人中37人)は休薬または免疫抑制薬によって改善または寛解した。5人の患者は臨床的に悪化し、肺臓炎の治療中に死亡した。死亡の直接の原因は肺臓炎(1人)、免疫抑制薬に関連する感染症(3人)、がんの進行(1人)だった。
肺臓炎の発症率は悪性黒色腫の患者で5%、非小細胞肺癌の患者で4%でした。肺臓炎が発症した43人のうち37人は疑われた薬を止めるか免疫抑制薬を使って治療することで肺臓炎が改善または解消しました。5人は死亡しました。そのうち肺臓炎が直接の死因と見られた人は1人でした。3人は免疫抑制薬が関係すると見られた感染症が直接の死因でした。
安全性を検証する努力が続く
免疫チェックポイント阻害薬の副作用についての調査結果を紹介しました。
治療薬は決まった手続きで安全性を検証されたうえで通常の治療に使われるようになります。しかし、まれにしか起こらない深刻な副作用については、多くの人が使うようになってからも検証を重ねることで、新たな側面がわかることがあります。
オプジーボを例にとると、添付文書に記載されている「重大な副作用」のうち、重症筋無力症、筋炎、大腸炎、重度の下痢、1型糖尿病、免疫性血小板減少性紫斑病、心筋炎、横紋筋融解症は販売開始後の改訂によって書き加えられたものです。これらの副作用のうち多くは、似たしくみで働くキイトルーダにも指摘されています。
深刻な事態が現れたときの危険性や対処の情報が共有されることで、万一の事態にも備えたうえで薬剤を使えるようになります。より安心して治療を続けられるようにするために、新しい薬の副作用が報告されることはとても大切です。
執筆者
Pneumonitis in Patients Treated With Anti-Programmed Death-1/Programmed Death Ligand 1 Therapy.
J Clin Oncol. 2017 Mar.
[PMID: 27646942]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。