◆より安全になった無細胞ワクチンと全菌体ワクチンの効果は?
百日咳の予防接種には、かつて全菌体ワクチンと呼ばれる種類のワクチンが使われていましたが、脳症などの重大な副作用があるのではないかとする懸念から、無細胞ワクチンと呼ばれる新しい種類のワクチンが開発されました。
日本では全菌体ワクチンが接種されていた時代に、副作用の懸念で接種率が低下し、百日咳の報告数が以前の最低時と比べて50倍を超える水準にまで増加しました。
新たに登場した無細胞ワクチンは全菌体ワクチンよりも副作用が大幅に少なく、接種率は再び上昇しました。
ここで紹介する研究は、現在までに百日咳の無細胞ワクチンと全菌体ワクチンについて行われた研究報告を集め、データを統合することで、それぞれのワクチンが百日咳を予防する効果の強さを計算したものです。
4回以上の接種を終えたあと3年以内の百日咳の予防効果を調べました。
◆無細胞ワクチンで84%、全菌体ワクチンなら94%
次の結果が得られました。
2件の無細胞百日咳ワクチンの効力研究(3種のコンポーネントを含むグラクソスミスクラインのワクチンと、5種のコンポーネントを含むサノフィパスツールのワクチンを評価したもの)のメタアナリシスから、全体で無細胞百日咳ワクチンの効力は84%(95%信頼区間81%-87%)と計算された。全菌体百日咳ワクチンの有効性の研究3件(ベーリングベルケ、パスツール/メリユー、スミスクライン・ビーチャムのワクチンを評価したもの)のメタアナリシスから、全体で全菌体百日咳ワクチンの有効性は94%(95%信頼区間88%-97%)と計算された(どちらもI2=0%)。
無細胞ワクチンによる研究上の予防効果は84%、全菌体ワクチンを実際に使った予防効果は94%と計算されました。
安全性が向上した無細胞ワクチンの効果は、以前の全菌体ワクチンよりも低い数字が出ました。ここで示されている「84%」と「94%」は数字の性質が違うので単純に比較できませんが、無細胞ワクチンのほうがやや予防効果で劣ることが予想できます。
誰もが安心して使えるために、安全性は重要です。医学の歴史上、高い効果があっても悪い面のため使われなくなった薬や治療法は数多くあります。バランスを取ってより良い方向へ技術が進んでいけるように、利用する人がいまある技術の良い面・悪い面を正しく理解して世論を作ることが、未来の人々の幸せにつながります。
執筆者
Protective Effect of Contemporary Pertussis Vaccines: A Systematic Review and Meta-analysis.
Clin Infect Dis. 2016 May 1.
[PMID: 26908803]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。