2016.01.07 | コラム

HIV感染症とは?感染経路、日本での流行について

日本に多い、「いきなりエイズ」

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日本の新規HIV感染者は関東甲信越に多く、また、HIV感染が判明した段階でエイズになっている、いわゆる「いきなりエイズ」患者が多いのが特徴です。このコラムでは、HIVの特徴や感染経路、今後の課題についてお話していきます。

HIVは、Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)の略称です。最初に報告されたのは1981年のアメリカですが、それ以降世界各地で感染者が報告されるようになりました。日本でも毎年1,000人以上の新規感染者が報告されています。

主な感染経路は、性行為・HIVに汚染された血液・母子感染です。

厚生労働省エイズ動向委員会による報告では、2014年のHIV感染者報告例の感染経路は、同性間の性的接触が789件(72.3%)、 異性間の性的接触が179件(16.4%)、静注薬物使用が3件(0.3%)、母子感染が1件(0.1%)でした。

HIVは、特定の体液(血液・精液・直腸や膣の分泌液・母乳)に分泌されます。唾液・汗・涙は、血液が混在していなければ、感染リスクはないとされています。そのため、通常の接触(握手やハグ、トイレの共用や飲み物の飲みまわし)や入浴・蚊では移りません。

以前の日本では、血液製剤の投与によるHIV感染が社会問題となりましたが、近年では性交渉による感染が多く、特にコンドームを用いない性交渉がリスクとなります。中でも、男性同士での肛門性交が、粘膜の損傷が多く、最もリスクが高いと言われています。

その他に、注射薬物使用者での注射針の使い回しによる感染も、アメリカ等ではしばしば報告されています。また、アフリカでは母子感染が重大な感染原因となっています。医療機関での針刺し事故などによる曝露で移る可能性も0ではないですが、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスと比べると、その感染力はとても弱いことが報告されています。

 

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の発表によると、2014年末現在で、世界のHIV陽性者数は3,690万人、新規HIV感染者数は年間200万人(2000年より35%減)でした。また、エイズによる死亡者数は年間120万人(ピークだった2004年より42%減)となっています。特に、サハラ以南のアフリカで感染者が多く、おおよそ2,580万人と言われています。

一方、厚生労働省エイズ動向委員会の報告によると、2014年末現在で、日本での累積報告者数(HIV感染者およびAIDS患者)は24,561件で、ここ数年間は年間1,500件の新規報告があります、新規報告者数は、おおよそ横ばいのまま高止まりしているとのことです。地域としては東京都を含む関東甲信越に約半数が集中しています。

 

HIVに感染しても、すぐにエイズ(AIDS)を発症するわけではありません。ウイルスが体内に潜伏すると、徐々に人間の免疫力を低下させていきます。免疫力がある程度以上に下がると、通常の免疫状態ではかからないような感染症(日和見【ひよりみ】感染症と呼ばれます)をはじめとした、HIVに特徴的な疾患(AIDS指標疾患)にかかりやすくなります。

HIV感染者の免疫力は、CD4陽性リンパ球数という検査値で判断しますが、この数値が一定以下に下がったり、数値によらずAIDS指標疾患に感染した状態が、AIDS(Acquired immunodeficiency syndrome:後天性免疫不全症候群)と呼ばれます。HIVに感染してからAIDSの発症までは、個人差はあるものの、平均して8-10年程度かかることが多いと言われています。

日本のHIV感染症に関する問題点の一つが、日和見感染症をきっかけにHIV感染が発見される、いわゆる「いきなりAIDS」の報告数が多いことです。HIV・AIDS患者の新規報告数に占めるAIDS患者(=いきなりAIDS患者)の報告数の割合は、30%程度の高値で推移しています。

その他に、新規HIV感染者数が減らないことも問題です。AIDSに進行していると、入院して治療が必要になることが多く、時には命に関わることもあります。HIVに感染しても、早期に診断されれば、抗ウイルス薬でウイルスの増殖を抑え、免疫力の低下を未然に防ぐことでAIDSの発症をおさえることができます。また、自分がHIV感染症であると知っていれば、性交渉などにおいても適切な予防対策をとることができ、他人への感染リスクをぐっと下げることができます。

HIV診療はここ10年間でとても進歩し、HIVに感染したからといってすぐに生死に関わるといった病気ではなくなってきました。その分、早期診断・早期治療がより重要になってきており、各人が自発的にHIV検査を受けにいくことが非常に大事です。リスクのある行為をしたことがあったり、心配な症状がある人は、ぜひ検査を受けに行くことをお勧めします。

執筆者

橋本 英樹

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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