2015.06.19 | ニュース

第4の抗がん治療、免疫細胞にがんを攻撃させる「免疫療法」

デューク大から、樹状細胞ワクチンの効果を破傷風ワクチンで増強
from Nature
第4の抗がん治療、免疫細胞にがんを攻撃させる「免疫療法」の写真
(C) sheelamohanachandran - Fotolia.com

脳腫瘍の中でも、膠芽腫(こうがしゅ、グリオブラストーマ)は、5年生存率8%程度と最も治療の難しいがんの一つです。膠芽腫の従来の治療法である、手術や化学放射線療法以外の新たな治療方法として、免疫療法と呼ばれるものが最近注目されています。今回の研究では、皆さんが幼少期に打つ破傷風ワクチンと組み合わせることで、免疫療法の治療効果がより高くなるという驚きの結果が出ています。

◆  膠芽腫の免疫療法とは

膠芽腫は、いわゆる脳にできる悪性腫瘍がん)です。悪性腫瘍を治療するためには、腫瘍が大きくなっていくのを抑えなければなりません。例えば、抗がん剤放射線療法などの治療法は、悪性腫瘍の細胞分裂を抑制することで治療効果を発揮します。しかし、問題点としては、我々の皮膚や髪の毛、腸の細胞、骨髄の細胞なども非常に早いペースで細胞分裂をしているため、抗がん剤の影響を受けてしまいます。その結果として、髪の毛が抜ける、口内炎ができる、貧血になるなどの副作用が出ます。

そこで誰しもが考えるのが、「腫瘍細胞だけを攻撃できる治療法があればいいのに・・・」ということではないかと思います。その夢に一歩近づくのが、今回ご紹介する免疫療法です。

実は、身体には腫瘍細胞に対して攻撃をする免疫細胞が元々います。しかし、腫瘍の勢いが強すぎて、身体の元々の免疫細胞だけでは太刀打ちできません。そこで考えられたのが、インフルエンザウイルスなどに対するワクチンと同様の手法です。腫瘍細胞しかもっていない物質(抗原)を目印としてあらかじめ免疫細胞に敵(膠芽腫)を覚えさせます。いざ敵が目の前に来ると、倒し方を既に勉強した免疫細胞が腫瘍細胞を攻撃します。このように身体の免疫細胞をうまく利用して治療することを、免疫療法と呼びます。

 

◆  樹状細胞ワクチンとは

免疫療法のひとつに樹状細胞ワクチンというものがあります。樹状細胞は免疫細胞の司令塔のような役割を果たしている細胞です。実際に腫瘍を殺す細胞へ指示を出す役目を担っています。今回の研究では、まず患者さんの樹状細胞を採血で集めて、「膠芽腫の90%以上が持っているが、通常の脳組織は持っていない」pp65という目印(抗原)を樹状細胞に覚えさせます。患者さんの身体の外で敵を覚えた樹状細胞は、身体の中に戻されて、腫瘍を攻撃しに行きます。

 

◆破傷風ワクチンはどうして膠芽腫の治療に関連あるのか?

今までの話を読むと、90%の膠芽腫を治療できる夢のような方法と感じられた方もいるかと思いますが、実際はまだ発展途上にあります。せっかく敵を覚えたのに、樹状細胞が大して活躍をしてくれないのです。そこで今回の研究では、樹状細胞ワクチンを打つ前に破傷風ワクチンを打つという方法をとりました。破傷風ワクチンは、皆さんが小さい頃に打っている大事なワクチンの一つです。このワクチンをあらかじめ打つことで、身体が、「懐かしい敵がやってきた!思い出さなければ!」という警戒モードに入ります。この警戒モードに入ったところで樹状細胞ワクチンを打つと、打った当初から全身全霊の力をこめて腫瘍細胞への攻撃を開始するのではないか、という予想の元、筆者らは研究しています。

筆者らはこの破傷風ワクチンの効果を確かめるために以下のような方法を取っています。

樹状細胞ワクチンを打つ場所に対して、あらかじめ条件付けすることの効果をヒトについて調べるため、膠芽腫の患者を、破傷風ワクチンを片側に打ってからサイトメガロリン酸タンパクRNA(pp65)で刺激された樹状細胞ワクチンを両側に打つグループと、刺激されていない成熟した樹状細胞ワクチンを片側に打ってからサイトメガロリン酸タンパクRNA(pp65)で刺激された樹状細胞ワクチンを打つグループに無作為割付した。[...]12人の患者を無作為割付した。

以上のように、破傷風ワクチンを打つか打たないかで膠芽腫の患者の生存期間を比較しています。

 

◆破傷風ワクチンを打った群で生存期間が長かった

結果は以下の通りでした。

破傷風ワクチンありのグループは、破傷風ワクチンなしのグループと比較して、無増悪生存期間、全生存期間ともに増加していた。破傷風ワクチンなしのグループでは、診断からの無増悪生存期間の中央値が10.8ヶ月、全生存期間の中央値が18.5ヶ月であった。これは、現在の標準治療と遜色ない結果であった。破傷風ワクチングループの中でも、特に打ち切りとなった3人においては、腫瘍は進行せず、生存期間の解析をした36.6ヶ月後も生存していた。

以上のように、まず樹状細胞ワクチン療法自体で、標準治療と同等の成績が得られ、破傷風ワクチンを打つとさらに生存期間が延長しました。患者数が12名と少ないですが、統計学的有意差が認められています。

 

皆に馴染み深い破傷風ワクチンを用いて、膠芽腫の新治療法を切り開くという素晴らしい結果が得られました。

副作用の詳細な報告がなされていないこと、年齢、活動度、手術の結果、腫瘍の遺伝子型などの様々な要素の解析が必要なこと、などこの論文に対する批判もあるかと思います。実際の臨床に応用されるにはまだまだ越えなければならないハードルが多いと思いますが、治療が非常に難しい膠芽腫に対する、より効果的な免疫療法の実現に向けた大きな一歩かと思います。

執筆者

石田 渉

参考文献

Tetanus toxoid and CCL3 improve dendritic cell vaccines in mice and glioblastoma patients.

Nature. 2015 Mar 19

[PMID: 25762141] http://www.nature.com/doifinder/10.1038/nature14320

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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