抗がん剤が効かない乳がんに、新薬イブランス®が有効

抗がん剤が効きにくいタイプの乳がんがあります。遺伝子変異の特徴によって薬の効きやすさが違うと考えられ、さまざまな場合に適した薬の組み合わせが模索されつつありますが、実際に薬を使った結果、十分な効果が得られない場合もあります。このような場合に、新しく開発されたパルボシクリブ(商品名イブランス)という抗がん剤を既存の薬と併用したところ、がんが悪化することなく生存する期間が長くなるという結果が得られました。
治療後再発などの進行乳がんが対象
研究班は、「HR陽性・HER2陰性」という遺伝子変異を示した進行乳がんで、以前の治療中に進行があった、または再発したものを治療対象とし、既存のフルベストラント(商品名フェソロデックス)という抗がん剤に加えてパルボシクリブを併用したときの効果を次のようにして調べました。
対象者を2:1の比で、パルボシクリブとフルベストラントの治療を受ける群と、偽薬とフルベストラントの治療を受ける群にランダム割り付けした。
521人の研究参加者が、フルベストラントとパルボシクリブの併用で治療されるグループと、フルベストラントと偽薬で治療されるグループにランダムに振り分けられました。
悪化なく生存する期間を長くした
次の結果が得られました。
無増悪生存期間の中央値はパルボシクリブ+フルベストラント群で9.2か月(95%信頼区間7.5か月から上限は推定不能)、偽薬+フルベストラント群で3.8か月(95%信頼区間3.5か月から5.5か月)だった(疾患の進行または死亡のハザード比は0.42、95%信頼区間0.32-0.56、P<0001)。パルボシクリブ+フルベストラント群で最も多く見られたグレード3または4の有害事象は好中球減少(62.0%、偽薬+フルベストラント群では0.6%)、白血球減少(25.2% vs 0.6%)、貧血(2.6% vs 1.7%)、血小板減少(2.3% vs 0%)、疲労感(2.0% vs 1.2%)だった。
がんが悪化することなく参加者が生存した期間は、フルベストラントと偽薬のグループで中央値3.8か月だったのに対し、パルボシクリブを併用したグループのほうが長く、中央値9.2か月でした。副作用の可能性がある症状などの出来事は、白血球減少などがパルボシクリブを併用したグループで多くなっていました。
がんは同じ場所にできるものでも、患者ごとに細かく性質が違います。さまざまな場合に備えて、選択肢となりうることを目指し、新薬・新治療が続々と開発されています。新しい治療が、これまで救えなかった人を救うことが望まれます。
2016/9/28追記
パルボシクリブを有効成分とする製剤イブランスは、欧州医薬品庁(EMA)が9月12日から15日に開催したヒト医薬品委員会(CHMP)で承認勧告されました。
執筆者
Palbociclib in Hormone-Receptor-Positive Advanced Breast Cancer.
N Engl J Med. 2015 Jun 1. [Epub ahead of print]
[PMID: 26030518]
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。