細かい脳梗塞や脳出血が、うつ病を引き起こすのか?
うつ症状の原因のひとつに、脳の細かい血管の障害によって起こる小さなダメージが関わっているという説があります。この説はまだ仮説にとどまり、実際の患者では十分確かめられていません。そこで新しく、多数の対象者を画像データとともに追跡する研究が行われ、脳の画像に特定の変化があった人でうつ症状の発症が増えていたことが報告されました。
◆1,949人のMRIの変化とうつ症状の発症を追跡
研究班は次の情報を調べました。
認知症がなくベースラインでうつ
症状 もない参加者1,949人の縦断データがAGES-Reykjavik研究から取得された(平均年齢74.6歳、標準偏差4.6年、女性56.6%)。ベースライン(2002年から2006年)とフォロー期間(2007年から2011年)にMRI で見られた脳微小血管障害のマーカーは、白質高信号域容積、皮質下梗塞 、微小脳出血、Virchow-Robin腔、総脳実質容積だった。
平均年齢74.6歳の対象者1,949人について、脳のMRI画像で見つかった細かい血管の障害によるダメージ(細かな脳梗塞や脳出血など)と、うつ症状の
◆脳変化と発症に関連あり
調査から次の結果が得られました。
うつ症状の発症増加と
有意 に関連していた要因は、白質高信号域容積の標準偏差分の増加、新しい皮質下梗塞、新しいVirchow-Robin腔、ベースラインで総脳実質容積が標準偏差分小さいこと、脳実質容積に標準偏差分の減少があることだった。
画像に細かい血管の障害が原因と考えられるダメージが見つかった人で、うつ症状が多くなっていました。
うつ症状を予防または治療する方法に結びつけるまでにはまだいくつかの段階をクリアしなければなりません。脳の変化が本当にうつ病の原因と言えるのかどうか、原因ならば何を変えれば改善に結びつくのか、そして実現可能な治療法でどうやって脳のダメージを防ぐのか、などといった疑問に答えるにはそれぞれ研究の積み重ねが必要と言えそうです。
しかし、この結果をヒントに、うつ症状が起こる基本的なしくみの解明が近付けば、根治に向けた道が見えてくるかもしれません。長期的な視野でとらえたい研究です。
執筆者
Cerebral Small Vessel Disease and Association With Higher Incidence of Depressive Symptoms in a General Elderly Population: The AGES-Reykjavik Study.
Am J Psychiatry. 2015 Jun 1
[PMID: 25734354]
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。