2015.05.22 | ニュース

透析液を冷やすと脳への影響を抑えられる?

37℃ VS 深部体温より0.5℃低い温度で73人を無作為比較

from Journal of the American Society of Nephrology : JASN

透析液を冷やすと脳への影響を抑えられる?の写真

血液透析は、腎臓の機能が下がった患者さんにとって命といってもよい重要な治療ですが、腎臓以外の臓器に与える影響についても知られています。例えば、脳の「白質」という部分にダメージを与えるということが以前から指摘されていて、今回ご紹介する論文はそのダメージを軽減できないかを調べたものです。研究では透析液を冷やした結果、脳のダメージが減ったことが報告されています。

◆透析液の温度が「37℃」か「深部体温より0.5℃低い温度」か無作為比較

透析は血液を一度体の外に出し、有害な物質を取り除くなどの処理を加えて再び体に戻す治療です。このとき体に戻ってくる血液を透析液と言います。

筆者らは以下の方法で、透析液を冷やすことで脳へのダメージが変わるかどうかの研究を行いました。

透析を始めて6か月以内の患者、73人を、37℃の透析液グループと深部体温より0.5℃低い温度の透析液グループに分けて、1年間透析を行い追跡した。MRIの拡散テンソル画像を用いて、脳白質の微小構造を研究開始時とフォロー期間に解析した[...]。

透析を受けている人73人を対象に、透析液を37℃にするか、体温より0.5℃低い温度にするかをランダムに振り分け、脳に変化があるかどうかを画像検査で調べました。

 

◆透析液を冷やした結果、脳の白質へ与えるダメージが減った

透析液を37℃にしたグループと冷やしたグループで脳の画像を比較したところ、結果は以下のようなものでした。

  • 透析液を37℃にしたグループでは、脳の白質に「虚血性脳障害」というタイプのダメージが見られた。

  • ダメージは脳の中での血流の安定性と関係していた。

  • 透析液を冷やしたグループでは、血流の安定性が比較的よかった。

  • 透析液を冷やしたグループでは、調査開始後1年で脳の白質のダメージが認められなかった。

この結果を、研究チームは「深部体温よりも0.5℃低い温度で透析を受けた患者は、1年後には白質の変化から完全に守られていた」とまとめています。

 

以上のように、深部体温より0.5℃低い温度の透析液を使ったグループでは脳を虚血性脳障害から守ることができました。簡単に追加のコストなしでできる方法であり、非常に臨床的な価値の高い論文に思えます。低体温療法など現時点でも広く行われている治療法を透析に応用してはどうかという発想から生まれたものかもしれません。

画期的な治療方法になる可能性があると思われますが、低体温に伴う合併症に関してはさらなる詳細な解析が必要でしょう。今後の研究に期待がかかります。

執筆者

石田 渉

参考文献

Randomized clinical trial of dialysate cooling and effects on brain white matter.

J Am Soc Nephrol. 2015 Apr

[PMID: 25234925] http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25234925

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る